SSブログ

『里山資本主義』 [読書日記]

里山資本主義  日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)

里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)

  • 作者: 藻谷浩介・NHK広島取材班
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2013/07/10
  • メディア: 新書

内容紹介
「社会が高齢化するから日本は衰える」は誤っている! 原価0円からの経済再生、コミュニティ復活を果たし、安全保障と地域経済の自立をもたらす究極のバックアップシステムを、日本経済の新しい原理として示す!!
この記事の前に紹介した2冊の本で、何だかお先真っ暗という読み終わり方だったので、もっと明るい未来を予感させるような本も紹介してみたいと思う。

9月に行なわれた職場の自主勉強会でお話下さった講師の方から、日本の森林は長年の植林と育成が実って今が書き入れ時なのだと聞いた。植林した樹木が森になるまで成長するには40年も50年もかかる。僕らが小学生の頃に社会科の授業で刷り込まれた先入観は、この歳になってもなかなか抜けず、僕は今でも日本の森林は利活用できる状態には至っていないのだと思っていたが、実際はそうではない。

地元の製材所の関係者などに言わせると、日本の山林の木は今が伐採時だが、問題は伐採したその木を加工工程に乗せて消費地まで届けるサプライチェーンが整備されていないのだという。植林した木が育つまでの間、日本は木材を東南アジアから輸入してきた。輸入を前提としたサプライチェーンが既に出来上がってしまったので、安価な輸入木材はそのまま安く消費地に届けられるが、日本国内の山林の木を国内の消費地にまで届けるための流通コストは非常に高くつく。折角原材料が国内にあっても、それを利用できるシステムが整っていない。

講師の方からは、日本が成長戦略を言うのなら、日本国内の資源を活用するようなシステムの組み直しを進めるべきだと仰っていた。ただ、その場合の前提も、山間地にある木材を外の消費地に運ぼうという発想であるように聞こえた。

自主勉強会の話を、この勉強会に出席できなかった職場の同僚に話したところ、それならこの本を読んでみたらどうかと薦められた。勉強会で講師の方がお話下さったような問題意識を共有して、中国地方の山間地で今起きていることが書かれているのだという。

例えば地元製材所で排出される木材の切屑を使った小規模火力発電によって、エネルギーの外部依存度を下げるとかいうところから始まり、その切屑をペレットに加工して、地域の他の事業所や公共施設、住宅にペレットボイラーを普及させてそこで利用してもらうところまで地方自治体も巻き込んで取組みを発展させている地域がある。さらには木材自体の国内需要を創出するため、輸送がしやすい形状にまで加工し、かつ鉄骨並みの強度と燃えにくい材質にする技術革新を進めるとか、いろいろ面白い取組みが行なわれているのを紹介されている。要すれば、地域にある資源を有効活用する発想への転換や、技術開発を進めることによって、外部のエネルギーや資源への依存度を極力抑制しようという試みである。そして、中にはお金で換算することが難しい、互助のような仕組みを、一度は過疎化の中でそれが失われた中国地方の山間地で、新たに生み出そうとも試みにも挑戦している人々がいる。

これが、「マネー資本主義」に対抗する概念として述べられている「里山資本主義」ということなのだろう。或いは別の言い方をすれば、グローバル化が進む中で外部から持ち込まれる財やサービスへの依存度が高まり、それと交換するためのお金をどう儲けたらいいかを考えるのに代わり、外部の資源への依存度を下げて地域資源をフル活用すれば、財・サービスを交換するためのお金も、いわゆる市場に流通する紙幣などの通貨ではなく、地域内での価値交換のためにだけ使える地域通貨、バーチャル通貨のようなものでもいいことになる。どうしても外部に依存しなければならないところは外部に依存するが、内部で動員可能な資源は内部でちゃんと活用し、外部への依存度を極力抑制する。地産地消のウェートをできるだけ高める。いわば、グローバル化への対抗軸としてのローカル化の、具体的な取組みが本書では幾つも紹介されている。

グローバル企業に牛耳られて閉塞感ばかりを味わわされる本を続けて読んできた後だけに、本書の明るさ、前向きさは救いになる。こういう取組みが、国内でも最も地域の地盤沈下が激しいと思われる中国四国地方の山間地で行なわれているという点に、何だか日本も捨てたものじゃない、その気にさえなれば、明るい未来も築けるのではないかと思えるものを感じた。

僕は田舎を出てきて東京に住み、東京出身の女性と結婚しているが、年老いた両親が2人だけで住む故郷と今自分が家族を養いながら住んでいる東京の地域のために、自分に何ができるのかをイメージでき、具体的な行動に繋げていこうという気持ちになることができた。故郷を出て都会で暮らすことが、田舎と都会の二者択一では必ずしもないということを感じさせてくれた。

但し、本書で書かれていることを本当に理解し、納得するためには、書かれていることを鵜呑みにするのではなく、やっぱり実際に行ってみて本当にそうなのかというのを見てみたい気もする。本の中で取り上げられている方々は一様に明るいが、実際にその地域に行ってみたら、明るいのは一部にいる人たちだけで、地域全体の雰囲気としてはまだまだ閉塞感が漂っていたりするかもしれない。IターンやUターンでやって来た若者の本書の中ではないわけではないが、1人2人そういう事例があったといっても、それが大きなトレンドとなって、地域の人口ピラミッドに大きな変化をもたらしたりしてこない限りは、地域を大きく変える一大ムーブメントにはならないのではないかと気になる。勿論、定住という形ではなく、平日は都会で暮らして、週末や長い休みがあると村にやって来て過ごすというような、二拠点の生活スタイルがあってもいいとは思うが。

また、それでもやっぱり日本の人口はどんどん減っていくのだから、高齢化率が50%を超えていても明るくやっているという地域の話を取り入れるだけではなく、外国人を地域おこしの中に上手く組み込んで、日本人だけじゃなく海外からも多くの人に来てもらえるような仕組みを上手く機能させているような地域があったら紹介して欲しかったなという気もする。勿論、こうした事例は、今でも僕ら自身が探しているところであるが。

つまらない蛇足的な注文を2つも書いてしまったが、だからといって本書の面白さを損なうものではない点は改めて強調しておきたい。

この本は、編者の1人である藻谷さんにとっては、3年前に単著で出された『デフレの正体』以後、最初に書かれた本ということになる。『デフレの正体』を発表したのち、藻谷さんはリフレ支持派、アベノミクスシンパの論客からさんざん叩かれ、本を出すのが嫌になった時期もあったと本書の中で告白されている。よっぽど腹をすえかねたのだろう、本書の中で藻谷さんが書かれた章では、リフレ支持者への反論がこれでもかと書かれている箇所もあったが、正直言うとここはやや蛇足感があった。藻谷さんが書かれた章よりも、NHK広島取材班の方々が書かれた章の方が面白いと思う。

nice!(6)  コメント(0)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 6

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0