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『震える牛』 [読書日記]

震える牛

震える牛

  • 作者: 相場 英雄
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/01/31
  • メディア: 単行本
内容紹介
平成版『砂の器』誕生!
警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から2年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。初動捜査では、その手口から犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。田川は事件現場周辺の目撃証言を徹底的に洗い直し、犯人が逃走する際ベンツに乗車したことを掴む。ベンツに乗れるような人間が、金ほしさにチェーンの居酒屋を襲うだろうか。偶然同時に殺害されたかに見える2人の被害者、仙台在住の獣医師と東京・大久保在住の産廃業者。田川は2人の繋がりを探るうち大手ショッピングセンターの地方進出、それに伴う地元商店街の苦境など、日本の構造変化が事件に大きく関連していることに気付く。これは、本当にフィクションなのか?「地方」の現状を描くことであぶり出させる、日本の病巣!衝撃のミステリーエンターテイメント大作!
タイトルからして狂牛病の話だろうと思い、たまには社会派小説もよかろうと思って図書館で借りてみることにした。上に掲載した内容紹介にも書かれている通り、この本は警視庁捜査一課の刑事の活躍を描いた警察小説である。でも、考えさせられることが多かった。

発生から2年が経って未解決となっている居酒屋強盗殺人事件は、東京・中野駅北口のサンモールと中野ブロードウェイを結ぶモールの東側に広がる居酒屋集積地帯で起きている。実はこの界隈や新井薬師周辺は本書を読み始める2日前に実際に歩いていて、僕自身土地勘を持っている。犯人の逃走経路に関する記述も、イメージしやすく、そういった意味でもとても親近感を感じながら話に入っていくことができた。

そして、ここで出てくる大手ショッピングセンターも、イオングループをイメージしたらとても読みやすい。大型ショッピングセンターが郊外に店舗を出すと、逆に駅前を中心に広がっていた古くからの商店街はシャッター街と化していく。イオンはそこで様々な社会貢献活動を行なってアピールしているが、本書で登場する企業は収益確保のために、センター内に出店するテナントの出店料率を引上げを図ったりするらしい。それを嫌った大手の小売企業チェーンは、郊外に独自店舗をどんどん展開していく。そうすると、国道やバイパス沿いにお決まりのレストランチェーンや小売チェーン店が林立し、全国どこへ行っても同じような景観が生まれる。地域の特徴はどんどん消されていく。地方で起きているそうした現象を、本書は小説を通じて描いている。

本書も終盤までは大手ショッピングセンターで起こった食肉偽装疑惑を巡って話が展開する。これを読んでたら格安のファミレスチェーン店や居酒屋チェーン店に入って安易にハンバーグやステーキ、もつ鍋、さらにはおにぎり、海鮮サラダなども注文しづらくなる。ハンバーガーについては変な肉が使われているのではないかという噂は以前からあったが(それでも時々食べているが)、こういう小説を読むと、ガストやサイゼリア、どんなどにも容易に入れなくなりそうだ。

そして最後はやっぱり狂牛病のお話。なるほどそう来たかと思わず膝を打った。いろいろ考えさせてもらった上に、最後はどんでん返し。小説としても十分楽しめる。

純粋エンターテインメントだと読んでいちいちブログで紹介するのにも少しばかりの後ろめたさも感じるが、こういう読者に考えさせる社会派の小説は胸を張って読める。

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