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『(株)貧困大国アメリカ』 [読書日記]

(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

(株)貧困大国アメリカ (岩波新書)

  • 作者: 堤 未果
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2013/06/28
  • メディア: 新書
内容紹介
1% vs 99%の構図が世界に広がる中、本家本元のアメリカでは驚愕の事態が進行中。それは人々の食卓、街、政治、司法、メディア、人々の暮らしを、音もなくじわじわと蝕んでゆく。あらゆるものが巨大企業にのまれ、株式会社化が加速する世界、果たして国民は主権を取り戻せるのか!? 日本の近未来を予言する、大反響シリーズ待望の完結編。
久しぶりに、視線を米国に向けてみたくなり、コミセン図書室の新着本コーナーで見かけた岩波新書を読んでみることにした。「貧困大国アメリカ」というタイトルの本はよく見かける。ずっと1冊の本だと思っていたが、実は岩波からは同名のシリーズ本が3冊出ており、これが完結編なんだとか。

第1巻では、ブッシュ政権下で進む貧富の二極化を描き、第2巻でも、ブッシュ政権の功罪とオバマ新政権への期待を述べている。そして第3巻となる本編では、でも結局オバマ政権下でも貧富格差は拡大し続けている実態を指摘している。1%の富裕層はますまずリッチになり、残る99%の中で、中所得者層もどんどん没落していっているという。オバマ大統領の政策が貧困層に配慮されているのかというと必ずしもそうではなく、中小の生産農家や消費者を犠牲にして、大企業にすり寄る点ではブッシュ政権と大きく変わらないのだという。

グローバル化がどんどん進行する現代、企業の力が強くなり過ぎて、消費者も生産者も、政府ですらもそれをコントロールしきれていないという現状があるようだ。冒頭、著者は米国の農業の変貌をうまくまとめている。副収入による所得の平準化といった美辞麗句に惹かれ、巨額の借金をして設備を整えて養鶏業に参入した夫婦が、契約企業の指定した飼育法順守を求められ、大量飼育、抗生物質投与等を続け、その間高騰した光熱費を出荷するニワトリの価格に転嫁することも許されず、徐々に利幅が縮小し、持ち出しになる。もう少しニワトリにストレスのかからない密度で飼育して投与する抗生物質の量を減らしたいと思っても、企業からはそれは指定した飼育方法からの逸脱だとして契約解除をチラつかせられる。逆に利益が出ないのは規模がまだ小さいからだとして、4年目頃からさらなる設備投資を指示される。借金は増え続けるが、前に進むことも撤退することも難しい。そうして、契約農家は貧困状況に転落していく。

米国では1980年代のレーガン政権の頃から、農家の系列化が進み、大企業と契約して奴隷的な条件で生産従事する農家が増え、逆に独自の生産流通ルートを持っている中小農家の数は激減してきているのだという。上で紹介したのは養鶏農家のケースだが、他の小麦や大豆を栽培する農家でも、高収量の遺伝子組み換え(GM)種子が大量流通するようになり、モンサントのような種子生産企業から種子を購入し、モンサントが指定する農薬や肥料を買わされ、収量は少ないが地域の気候・土壌条件に合っていた在来種子からGM種子へのシフトが進んでしまったという。GM種子は、種の自家取りができないよう遺伝子操作されており、いったんGM種子を入れたら、毎年新たに種子を購入してこなければならない構造になっている。

この構造、以前からインドの綿花栽培農家の自殺問題についてブログで書くたびに述べてきたものとさして変わらない。モンサント社は、インドの中小綿花栽培農家を食いものにしているどころか、米国内の農家すら同じ状況に陥れているのだ。

では、GM作物を食べさせられることに抵抗感のありそうな消費者は、それがGM作物を使っているものなのかどうかを識別できているのだろうか。本書によれば、GM作物表示を義務化する法案は、企業寄りの政治家への圧力や政権与党への巨額企業献金が奏功して、米国ではいまだに法制化されていないという。なにしろ、オバマ政権の中枢には、企業側を擁護する活動を行なってきた弁護士や企業の元役員が相当に入り込んでいるのだ。

結局、企業はグローバルに活動して世界各地の市場で収益を拡大するが、中小の生産者や消費者は個々の交渉力ではグローバル企業には太刀打ちができていない。州境や国境をまたいで生産者や消費者の運動がグローバルに連携していけば状況も違ってくるのかもしれないが、現実そこまではいっていない。中小の生産者は、先ずローカルなレベルで近隣の生産者との競争に晒されている。

GM作物が世界を席巻して途上国の農家を食い物にし、地域特有の在来種子を駆逐しているという章は、本のタイトルと合っていない気もしたが、それも巨大化する企業の力を示すエピソードかと思う。しかも、災害救護や農業生産性向上といった美辞麗句の下で米国国際開発庁(USAID)など援助機関が行っている途上国援助も、長期的に見たら種子会社の市場開拓の先兵役として機能している、しかも、援助機関職員はそれがわかっていてGM種子については緘口令がしかれているというルポを読むと、善意の衣を着ているものも実態はそうではないという典型で、かなりショックを受けた。USAIDの職員は個々は善意と良心の人なのかもしれないが、こうした大企業の影響力とか途上国の農民、消費者への不利益を見て、どんな気持ちを抱くのだろうか。理想と現実の間でどう折り合いをつけているのか、ちょっと同情したくなる。

まさしく、何を信じていいかわからなくなる1冊である。5年前に希望をもって迎えられたオバマ大統領の下ですら企業の力が拡大している。政府が強くなりすぎた企業の行動をコントロールすることはますます難しくなってきている。財政再建の過程で行政サービスを企業に外注するケースがどんどん増えているが、それによって低収益・ハイコストの貧困層向けサービスがカットされたりすると、何のための官民連携なのかわからなくなってしまう。

正直、お先真っ暗の状態。本書は徹底して米国社会の暗部を描き出しており、読んでいて明るい未来を見出すこと自体が難しい気がした。読み進めるにつれて暗い気持ちになった。久々に読んだ米国社会のルポだったが、ここまで厳しい状況に追い込まれているとは思いもよらなかった。読んで、TPP交渉への見方も少し変わった。

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