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『オオカミの護符』 [読書日記]

オオカミの護符

オオカミの護符

  • 作者: 小倉 美惠子
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/12/15
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
50世帯の村から7000世帯が住む街へと変貌を遂げた、川崎市宮前区土橋。長年農業を営んできた著者の実家の古い土蔵で、護符がなにやら語りかけてくる。護符への素朴な興味は、謎を解く旅となり、いつしかそれは関東甲信の山々へ―。都会の中に今もひっそりと息づく、山岳信仰の神秘の世界に触れる一冊。
近所のコミセン図書室で何の気なしに借りた本である。それが思いがけなくいい本で、月並みな言い方だが感銘を受けた。

本書は2008年に公開された同名の記録映画をもとに書かれている。著者自身が幼少時代を過ごした川崎市宮前区土橋にある自宅で、土蔵に貼られていた犬のお札が気になりはじめ、これを調べるために著者は聞き取りをはじめる。周辺の古老を訪ね歩き、この地域で昔から行なわれてきた「講」という習慣が存在することを知る。そして、各家に配る犬のお札は、講のメンバーからくじ引きで代表を決め、多摩川を遡って奥多摩の御嶽山に登り、受け取って来たものだと知る。最初は家庭用ビデオカメラで著者本人が伝統行事などを撮り続けていたが、やがてプロのカメラマンらが仲間として加わり、やがて本格的な記録映画として完成することになった。

自分の実家周辺で著者が発見したこうした古くからの信仰とそれに基づく習慣は、昭和38年頃から廃れはじめる。川崎市土橋周辺は、筆者が幼少の頃は本当の田舎だったというが、その後急速に宅地化が進み、新しい住民がどんどん入ってくるようになると、古くからの伝統的な行事はどんどん周縁に追い込まれ、忘れられるようになっていく。人の動きがどんどん流動化し、1ヵ所に長く住まなくなると、伝統行事の衰退はものすごく速い。このことは、近所の夏祭りや秋の例大祭を見ているととても痛切に感じる。そうした流れに逆らうことは難しいが、せめて自分が住む地域にそうした行事があったことをちゃんと記録に残し、今その地域に住む人々の間で情報が共有されるような仕組みを考えておく必要が僕らにはあるような気がする。

「足元を丹念に掘り下げれば、必ず心に触れるものに出会えるに違いない。多くの人が、自らの住む土地に目を向け、人を訪ねて話に耳を傾けてほしい。ほんの少し掘り返すだけで、土地は意外なほどに様々な問いを投げかけてくる。その問いの答えを求めるうちに、人と出会い、縁ある地を訪ね歩いて、深く広い沃野へと導き出されるだろう」(あとがき)

―――僕たちもふだん何げなくやっていることの起源は何なのかとふと疑問に思ったりしたことは多いと思う。その問いを掘り下げる行動を起こすと、地域の新たな魅力が見えてくるかもしれない。問題はそうした疑問を持てるほど普段からアンテナを張っているか、高い好奇心を保っているか、そして、具体的にそれを解明する行動に移せるかにかかっていると思う。

ただ、もう1つ忘れてはならないのは、単に人に話を訊けばいいというものではなく、著者はフィールドワークに先立ち、相当な文献調査を行ない、神仏習合等に関する江戸幕府や明治政府の政策への造詣を持っていたということである。何かを見たときにそれが何かと疑問を抱けるのは、そした情報収集によって洞察力を高めていたからでもある。普段から勉強をきちんとやっていないと、見たこと聞いたことに対して「あれ?」というような疑問を抱くことは難しいし、取材対象者から聞かせられたお話についていくのも難しいであろう。

御嶽山には、行こうと思えば行ける機会がいくらでもあった筈だが、東京に出てきて32年、未だ一度も登ったことがない。近い将来、何かのきっかけを見つけて、一度登ってみたいものだ。

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