『地獄の伊東キャンプ』 [ベースボール]
プロ野球の監督はチーム成績が全てだ。長嶋茂雄氏に国民栄誉賞が贈られることが決まった時、その選定理由を読みながらそう思った。現役時代の打撃成績や国民へのインパクト度、そして、監督在任期間中の通算成績が記事には掲載されているが、どちらかというと長嶋さんの受賞は王さんとの比較で現役時代の実績の方が評価されたのではないかと僕は考えている。ただ、同時受賞したゴジラ松井を育てたのが長嶋さんだったという点は、確かに選考に加味されたかもしれない。
ゴジラ松井を一流選手に育てたのが長嶋――これは確かにその通りなのだが、こと人材育成という面での長嶋さんの貢献はこれにとどまらない。第2期政権時には四番打者ばかり揃えながら優勝を逃すという費用対効果の悪さが目立った長嶋さんだったが、それ以上に成績が芳しくなかった第1期政権の時代には、後任の藤田元司監督の下で黄金時代を築いた若い主力選手の育成を行なっている。時代は巨人栄光のV9からの過渡期にあたる。V9戦士は高齢化が進み、それを張本獲得などで補いながらなんとかやり繰りしていた長嶋監督。新しいV戦士を育て上げるために、当時はそんな概念すら存在しなかった「秋季キャンプ」というのを少数精鋭主義で行なった。今でいう秋季キャンプなんて、せいぜい2週間程度のものだが、長嶋さんが敢行した伊東キャンプは、1ヵ月にも及ぶ過酷なものだった。
本日紹介するのは、その伊東キャンプへの参加者たちへのインタビューに基づき、今改めて伊東キャンプの意味を考察するという、かなり力の入ったルポルタージュである。
「勘ピューター野球」などと揶揄され、名選手が必ずしも名監督でないというのを見事に実証した感のある監督としての長嶋さんだが、こと選手の育成、その後の球界に名を残す人材の育成の面での長嶋さんの手腕を見直す良いきっかけになった本だ。確かに、あの江川ですら自分のプロとしての原点は伊東キャンプだとテレビでよく証言しているぐらいだから、参加した18選手に与えたインパクトは相当に大きかったんではないかと思われる。松本はここでスイッチヒッターへの道を開いたし、角はあの独特の左サイドスローを編み出した。篠塚もあの華奢な体つきで安打製造機として育つきっかけはこのキャンプだったという。西本はどこでも猛練習を厭わないというのはこの当時からそうだったんだなというのもよくわかる。
勿論、その後藤田監督の下でV9戦士に代わる黄金期を迎えるのに全員が貢献したわけではない。本書で登場する二宮や中井は、結局のところ藤田監督時代は戦力外となり、華々しい活躍もないまま球界を去っていく。しかし、長嶋さんと同様に人材育成の面白さを知った二宮は、その後プロ球団のコーチやアマ野球チームの監督として、人材育成に貢献した。外野守備コーチとして第2次星野政権で中日に呼ばれた二宮は、そこで元々阪神では捕手だった関川を中日トレード移籍後は外野手として育て上げて2000年の優勝に貢献させたし、元々内野手だった福留の外野コンバートも成功させている。第1次星野政権下で中日に移籍して20勝まであげた西本とともに、伊東キャンプの恩恵は中日ドラゴンズにも及んでいるのだ。
秋季キャンプが当たり前になった今でも、これほどの猛練習を若手選手に課すのは難しいだろうと言われている。この合宿を経験して、「伝道者」としての役割も期待されているG戦士の中で、今までに監督を経験したのが中畑しかいないというのは意外だ。それだけに、今のベイスターズは少し応援してもいいかなという気持ちにはさせられる。
伊東キャンプ参加者に対してしっかりとした取材を行ない、その記憶を記録として残しておく作業は重要だ。その意味ではすごくいい本が出たと思う。伊東キャンプの受益者は一義的にはジャイアンツと巷のジャイアンツファンであることは言うまでもないが、西本や中畑らをコーチ、監督として招聘した他球団とそのファンも、間接的には伊東キャンプの恩恵を受けている。そういう広い視点からとらえると、本書はどこのチームのファンであっても楽しめる1冊である。お薦めする。
ゴジラ松井を一流選手に育てたのが長嶋――これは確かにその通りなのだが、こと人材育成という面での長嶋さんの貢献はこれにとどまらない。第2期政権時には四番打者ばかり揃えながら優勝を逃すという費用対効果の悪さが目立った長嶋さんだったが、それ以上に成績が芳しくなかった第1期政権の時代には、後任の藤田元司監督の下で黄金時代を築いた若い主力選手の育成を行なっている。時代は巨人栄光のV9からの過渡期にあたる。V9戦士は高齢化が進み、それを張本獲得などで補いながらなんとかやり繰りしていた長嶋監督。新しいV戦士を育て上げるために、当時はそんな概念すら存在しなかった「秋季キャンプ」というのを少数精鋭主義で行なった。今でいう秋季キャンプなんて、せいぜい2週間程度のものだが、長嶋さんが敢行した伊東キャンプは、1ヵ月にも及ぶ過酷なものだった。
本日紹介するのは、その伊東キャンプへの参加者たちへのインタビューに基づき、今改めて伊東キャンプの意味を考察するという、かなり力の入ったルポルタージュである。
内容紹介この本はいわゆる長嶋・松井国民栄誉賞W受賞を記念した便乗ものではない。昨年末に発刊され、僕はあるラジオ番組で著者がインタビューを受けていたのをたまたま聴いて、本のことを初めて知った。ただ僕は巨人ファンではないため、近所の図書館に所蔵されるようになるのを待って、満を持して借りて読んでみることにしたのである。
「限界なんて、ないんだ」
あれから33年―。中畑、江川、西本……そして、長嶋茂雄が初めて明かす、あの“伝説"の実像。シーズン5位に甘んじた長嶋が18人の若手を連れておこなった「地獄の伊東キャンプ」。想像を絶する過酷な特訓は、選手たちのその後に何をもたらしたのか。そして、指導者・長嶋茂雄の知られざる実像とは。当事者、関係者への丹念な取材を積み上げた渾身のルポルタージュ。
「勘ピューター野球」などと揶揄され、名選手が必ずしも名監督でないというのを見事に実証した感のある監督としての長嶋さんだが、こと選手の育成、その後の球界に名を残す人材の育成の面での長嶋さんの手腕を見直す良いきっかけになった本だ。確かに、あの江川ですら自分のプロとしての原点は伊東キャンプだとテレビでよく証言しているぐらいだから、参加した18選手に与えたインパクトは相当に大きかったんではないかと思われる。松本はここでスイッチヒッターへの道を開いたし、角はあの独特の左サイドスローを編み出した。篠塚もあの華奢な体つきで安打製造機として育つきっかけはこのキャンプだったという。西本はどこでも猛練習を厭わないというのはこの当時からそうだったんだなというのもよくわかる。
勿論、その後藤田監督の下でV9戦士に代わる黄金期を迎えるのに全員が貢献したわけではない。本書で登場する二宮や中井は、結局のところ藤田監督時代は戦力外となり、華々しい活躍もないまま球界を去っていく。しかし、長嶋さんと同様に人材育成の面白さを知った二宮は、その後プロ球団のコーチやアマ野球チームの監督として、人材育成に貢献した。外野守備コーチとして第2次星野政権で中日に呼ばれた二宮は、そこで元々阪神では捕手だった関川を中日トレード移籍後は外野手として育て上げて2000年の優勝に貢献させたし、元々内野手だった福留の外野コンバートも成功させている。第1次星野政権下で中日に移籍して20勝まであげた西本とともに、伊東キャンプの恩恵は中日ドラゴンズにも及んでいるのだ。
秋季キャンプが当たり前になった今でも、これほどの猛練習を若手選手に課すのは難しいだろうと言われている。この合宿を経験して、「伝道者」としての役割も期待されているG戦士の中で、今までに監督を経験したのが中畑しかいないというのは意外だ。それだけに、今のベイスターズは少し応援してもいいかなという気持ちにはさせられる。
伊東キャンプ参加者に対してしっかりとした取材を行ない、その記憶を記録として残しておく作業は重要だ。その意味ではすごくいい本が出たと思う。伊東キャンプの受益者は一義的にはジャイアンツと巷のジャイアンツファンであることは言うまでもないが、西本や中畑らをコーチ、監督として招聘した他球団とそのファンも、間接的には伊東キャンプの恩恵を受けている。そういう広い視点からとらえると、本書はどこのチームのファンであっても楽しめる1冊である。お薦めする。
懐かしいなあ。定岡がメンバーから外れましたっけ。
で彼は発奮して、翌年9勝するんですよね。
長嶋初年度のベロビーチでも、立大の後輩横山が
メンバーから外れて、彼はその年8勝したし
わからないもんですね。
by いっぷく (2013-07-05 05:28)