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『吉野朝太平記』(1) [読書日記]

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吉野朝太平記〈第1巻〉 (時代小説文庫)

  • 作者: 鷲尾 雨工
  • 出版社/メーカー: 富士見書房
  • 発売日: 1990/12
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
「美しゅうなったの」と会釈をすませた敷妙に虎夜叉(楠正儀)は言った。「そなたの苦労は察しておる…」正儀の愛人・敷妙は足利尊氏の庶子・直冬の愛妾となり、高師直と対立させ足利方の乱れを誘う。楠正成亡き後、南朝の中心となり戦う兄・正行とは性格を異にする正儀は変節漢で謎に包まれた人物。その正儀を中心に動乱にうずまく南北朝を豊かな構想のもとに描いた歴史大作!第2回直木賞受賞。
昭和10年の第2回直木賞受賞作品が文庫本として復刻されたのは1990年、NHK大河ドラマ『太平記』放映開始を前に、便乗で多く出版された太平記ものの1つであった。しかし、ただの泡沫作品だと思ったら大間違いで、ストーリーとしては非常に面白い。言葉遣いには古さも感じさせるが、半世紀以上を隔てて今の読者が読んでも十分面白い。さすがは直木賞作品。当時この5巻シリーズは月1冊ずつ順次刊行となっていたが、続きが読みたくて度々書店に足を運んだのをよく覚えている。

何よりも僕はこのシリーズを読んで、楠木正成の三男・正儀(まさのり)の生涯にいっぺんに惹かれてしまった。

楠木正儀――この人物の評価は分かれる。南朝方に属しながら、南北合一を画策したため、楠木一族の間でも反感を買い、一時北朝に下らざるを得なくなった。しかし、足利幕府内で頼りにした細川頼之が失脚した後、北朝内での居場所を失い、再び南朝に帰順、その後の足取りは不明とされている。1990年11月に僕が河内の千早城址を訪ねた際、城址の背後の山道に小さな墓があったが、これが正儀の墓と言われている。(但し、千早城址の売店のお爺さんは、それは正成の墓だと言い張っていたが。)

このシリーズ、各巻を読了する度に、少しずつでも紹介していこうかと思っている。

本日ご紹介する第1巻では、正成の嫡男・楠木正行と吉野南朝方に仕える弁内侍(べんのないし)の実らぬ恋から、四条畷合戦での楠木軍の敗北、そして、楠木家の当主が長男正行から三男虎夜叉・正儀に引き継がれるまでを描いている。正行と弁内侍は太平記ではちゃんと結婚したことになっていたと思うが、著者はこれを正行が頑なに拒み、父の遺志を次いで足利軍との開戦を急ぐというストーリーにしている。史実かどうかは怪しいが、正行は25歳になる頃から咳に悩まされるようになり、南朝に仕える医師から「労咳」―今でいう結核で、余命いくばくもないと診断される。これが、自分自身も惚れた女性への愛を否定する。

ひたすらに足利軍との開戦を望む長兄・正行に対し、三男・正儀は京に間者(スパイ)を放ち、北朝方の足利直冬に取り入らせてひたすら機密情報を収集。結果北朝方の武将の間には深刻な対立が存在し、3年待てば内部崩壊を来たし、労せずとも南朝は京を奪還できると考えた。スパイを放ち、時に色仕掛けすら用いる正儀は、一族の間でも腰抜け、色ボケ、不肖の三男坊と見られていたが、長兄・正行は、京を一時的にも奪還して北朝方の天皇・上皇らを拉致して南朝勢力化に連れて行こうとする末弟の戦略に感銘を受け、南朝の行く末を弟に託し、決戦に赴く覚悟を固めるのだった。

まあ、そんな話です。ただ、この本、舞台となっている地方に多少でも土地勘がある人ならともかく、まったく訪れたことがない人にはちょっと読みにくいかもしれない。小説にこんなサービスはタブーかもしれないが、摂津・河内・和泉・大和あたりの地図を手元に置き、それと突き合わせながら読み進める方が理解はしやすいに違いない。また、多少なりとも歴史書では家系図が載っている楠木正成の直系の家系はまだいいが、和田や恩地、神宮寺といった楠木一党の登場人物が意外に多く登場するので、誰が誰だったかだんだん混乱を来たしてくる。家系図を適宜メモするなど読者側で工夫をしていかないと、登場人物が誰なのか、すんなり理解ができないので注意が必要だ。

22年ぶりに第1巻を読んだのは、人間ドック受診の際の待ち時間に読める文庫本でもないかなと思ったからである。今日3日は会社を休んで高円寺で健診を受けた。各受診項目の待ち時間を利用してシコシコ読み進め、終了後はタリーズでスムージー(とにかく喉が渇いていたので)を飲みながら1時間ほどかけて読了した。健診の結果は上々。今年の正月休み明けには81kg台だった体重は、76.4kgにまで落ち、ここ10数年ずっと言われ続けた善玉コレステロールの少なさも、今回は解消されて基準値の範囲内に収まった。五十路入りを間近にして、かなりいい結果を残すことができたかなと思う。

タグ:鷲尾雨工
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コメント 1

yukikaze

歴史小説には当時の地図と登場人物の相関図、家系図は必要な気がします。読者誰しもが歴史通ではないのですから。主人公が織田信長なら周囲の人物も知っているでしょうが、主人公がマイナーな歴史上の人物になるとその周囲に登場する人物はさらに弩マイナーになるのですから。
by yukikaze (2013-07-04 09:52) 

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