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『チームワークの心理学』 [仕事の小ネタ]

ドラゴンズファンとしての苦行のシーズンも、どうやら折り返し点が見えてきたようだ。このブログで再三書いてきた通り、高木守道氏が監督に就任した時から、もう耐えるしかないと覚悟はしていたので、いちばん苦しかった今期の前半戦が終了すれば、あとはゴールも見えてくるし、後任人事の話も漏れ聞こえてくるようになるに違いない。そうすると、僕の気持ちの落ち込みも徐々に回復していくのではないかと思う。

高木守道氏にリーダーとしての資質がないことは重々承知しているが、一方で時々思うのは、選手はどうなのだろうということだった。監督があてにならないなら、グランドの選手たちが自分たちで頑張ればいいことであり、監督がダメ男だからといって自らやる気をなくしてみすみす減俸の憂き目を見る必要はない。選手は球団と契約する個人事業主なのだから、監督が誰であろうと自分のパフォーマンスはピークに持っていく必要があるし、場合によっては成績の良くないチームメートを叱咤激励して、チームとしての底上げのためにひと肌脱ぐこともあってもおかしくはない。それすらぶち壊す破壊的な選手起用という波乱要因はあるにせよ、選手たち自身の努力というのがあるのではないかという気がする。

冒頭紹介した山井大介投手なんて、ノーヒットノーラン達成してよくやっていると思う。山井の場合は2007年の日本シリーズ第7戦の準完全試合っていうのがあるから、こうやって記録に残る成績をあげたことで、あの日本シリーズ以来の割り切れない気持ちはようやく解消されたことと思う。落合前監督もホッとしていることだろう。

チームワークの心理学―よりよい集団づくりをめざして (セレクション社会心理学)

チームワークの心理学―よりよい集団づくりをめざして (セレクション社会心理学)

  • 作者: 山口 裕幸
  • 出版社/メーカー: サイエンス社
  • 発売日: 2008/08
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
社会心理学で再び脚光を浴びつつある集団研究の成果を踏まえ、「個人」「集団」を超えた優れたチームワークを発揮するための様々な方法を指南。ビジネスマンやスポーツ関係者にも役立つ知見を紹介。
よりよいチームを作る努力は、監督はじめとした首脳陣だけではなく、選手自身によるところも大きいのではないか―――そんなことを考えながら、『チームワークの心理学』なる本を読んだ。僕には心理学の造詣はないため、読み進めるのには相当苦労したが、心理学を多少かじったことがある人にとっては、読みやすい1冊なのではないか。

意味深だったのは、チームワークを可視化する試みの1つとして、原子力発電所運転チームのチームワーク行動を対象に行われた先行研究があるという一節だった。ここでは詳しく書かないけれど、大地震のような緊急事態であってもそれにどう対処するかは幾つかのシナリオに基づいた相当詳細なマニュアルがあり、訓練も行なわれていたらしい。東日本大震災被災直後も、東京の東電本店や首相官邸は相当なパニックだったようだが、福島第一原発の構内では、運転チームによる緊急事態対処が冷静に行なわれていたのではないかと窺える。

それは別として、話をドラゴンズに戻した場合、結構当たっているかもと思ったのは、p.78の「集団発達のモデル図」だった。これによると、「幼年期」はやる気は十分だが、チーム内で互いの役割や仕事の進め方などが手探りの状態で、それが「青年期」になって、まだ荒っぽいところもあるが、メンバーも経験を積んで自信を獲得し、業績上昇の勢いに満ちている状態になり、ピークの「壮年期」には、メンバー同士は互いの役割と規範を十分に把握して、あうんの呼吸で協働する充実した仕事ぶりになるという。しかし、それを放っておくとやがて「老年期」を迎え、慣例や前例に固執し、仕事の縄張り意識が強くなるなどの「硬直化現象」が見られるようになり、チームは消滅に向かうという。多分、落合政権最後の2011年は「壮年期」のピークともいえる時期で、そこで変革をもたらさないとチームの再活性化には繋がらない。落合監督退任を聞いて、そういう時期かもと僕は思ったし、これでうまく次の変革がもたらされて、チームが活性化されたらいいと期待もしたところだった。結果は後継指揮官の選択を誤ったような気もするが。

次に興味深いのは、pp.82-87の「メンバー間の葛藤の克服が鍵を握る」の一節。もともとチームのメンバーは心を1つにあわせようとする気持ちは持っているにしても、各自、自分の考えや価値観を持っていて、それを捨ててまでチームのために自己犠牲を払おうとは考えないのが普通だ。逆に、自分の考えや価値観を他のメンバーに受け入れてもらい、自分のやりたいようにやろうとするのが自然だというところから、著者の議論は出発する。そこにメンバー間の葛藤が生まれる。最初は見解の相違や利害の対立という次元で発生したとしても、それが情緒的な対立に結びつくことが多い。大事な仕事であること、必ず成果をあげなければならないことは十分理解し認識している場合でも、考え方や感じ方が自分と異なる人と一緒に組んでの仕事となると、気が進まずモチベーションが湧かないのも人情。チームワークを育む時も、この情緒的な対立の克服が重要な鍵を握る。

そこで著者は対人的葛藤への対処行動を、自己利益への関心(自己主張の強弱)、他者利益への関心(強力性の強弱)の2つの座標軸を用い、「競合(competition)」、「回避(avoidance)」、「妥協(compromise)」、「譲歩(accommodation)」、「協働(collaboration)」の5つに類型化している。そして、日本人は、葛藤の生じてしまった相手とは、なるべく顔を合わせないようにする「回避」行動を選択する傾向を強く持っているという。
 チームでの活動は比較的長期にわたりますし、毎日のように顔をあわせなければならないのが普通です。そのような条件のもとで、「回避」行動を選択することはチームワークの崩壊を意味します。また、「競合」行動や「譲歩」行動は、どちらかが一方的に自己の主張・利益を獲得して勝ち組になり、もう一方は負け組になる事態を招くものですから、「回避」行動以上に速いスピードでチームワークを崩壊させてしまうかもしれません。これらに比べて、互いに主張を譲りあう「妥協」行動は、現実的な対応として効果があります。(中略)しかし、互いの主張の本質は何も変わりませんし、妥協の際に不完全燃焼のままでわだかまりの感情が残る場合もあります。そのため、別の似たような状況に新たに直面したときに、同じような葛藤が繰返し発生することが懸念されます。やはり望まれるのは、互いに自己の意見や利益を主張しあい、競争しあいながらも、相手の意見や利益も理解しあって協力しあう「協働」行動を選択することです。(pp.85-86)
葛藤を的確に克服するには、「問題直視」の方略が最も有効だと著者は主張する。なぜ葛藤が発生しているのか、その原因となっている問題を当事者が互いに直視する取組みである。感情的になる前に、なぜ対立しているのか、冷静に問題を見つめ、分析する態度で臨むことで、葛藤は適切に克服されることが多い。大切なのは、問題直視を可能にするような高度な「チームの指向性」を育むには、人間の心にもともと標準的に備わっているメンバー皆で心を1つにあわせようとする傾向に頼ってばかりいたのでは覚束ないということで、チームの目標達成を促進するように働きかける影響力であるリーダーシップの存在が必要になってくるという。高木さん、ここちゃんと読んでくれ!

そうすると次はリーダーシップということになるが、このリーダーシップの概念も、一般に言われている組織の管理者やチームのリーダーが発揮すべきものというだけでなく、メンバーの誰であっても、チームの目標が達成できるよう周囲のメンバーに促進的な影響を及ぼすのであれば、それはリーダーシップなのだと著者は言う。誰もがリーダーなのだ。とはいえ、誰かが先頭に立って、チームの目標達成に向けて促進的な影響を与えていくことは必要だ。以前『組織論再入門』を紹介した中で、三隅二不二の「PM理論」に言及したことがある。著者はここでこの三隅のリーダーシップ類型にも言及し、「リーダーシップは、仕事の目標達成を希求する職務への厳しさの側面と、部下の気持ちや成長を考慮して接する人間的な配慮や優しさの側面という2つの側面から成り立っており、仕事への厳しさと部下への人間的な配慮や優しさが両立して備わっているとき、優れたリーダーシップになる」(p.91)と述べている。

著者はさらにここから、集団の置かれた環境や状況の変化に応じて、最も効果的なリーダーシップのスタイルは異なって来るという「コンティンジェンシー・アプローチ」の視点に立つ。部下の成熟度が上がっていけば指示的行動は少なくてよくなる。そして、メンバーは仲間と協働することができるようになってくるが、まだ技能や知識は発展途上の段階なので、リーダーはメンバー各自が役割と職責をどのように果たしていけば良いのか、またそれはいかなる理由によるのかを丁寧に説明して納得を得る説得的なリーダーシップが有効である。そして、チーム活動に対するメンバーたちの意欲、知識、技能も高まり、チームが成熟した段階を迎えると、リーダーは指示や説得という管理者的な立場に立つよりは、メンバーの自主性や自律性を尊重した参加的リーダーシップに重心を置くことが効果的になる。

だが、やがて、チームで協働することに関しては意欲が衰えてくる段階を迎える。ここではメンバーたちが主体的にチーム活動をリードしていくように権限を譲ってメンバーたちの行動を見守る委譲的リーダーシップが求められるが、先も述べた通り、この段階は長年の慣習や前例に固執する傾向を強めるチームに対して、創造的な革新を引き起こす変革型リーダーシップの必要性が指摘される時期でもある。(Hersey, P. & Blanchard, K. H. (1977) Management of Organizational Behavior: Utilizing Human Resources, Englewood Cliffs, NJ)

―――高木守道氏がやっていることは、この類型で見た成熟期のリーダー像とやっぱり合っていない気がする。

ただ、チームワークが良ければチームは必ず優れた成果をあげられるかといったらそうではないという。そこで最後にご紹介するのは、チームが優れた成果をあげるために必要な3要素。「チームとして達成すべき目標が明確で、その道筋や手順も明瞭であること(明確な目標設定)」、「チームで取り組む課題に対して適した能力を持っている人材を的確に配置すること(的確な人材配置)」、そしてそこに「優れたチームワークを育むこと」(pp.139-143)。プロ野球の場合は、達成目標は明確(だと思いたい)なので、問題は人材配置とチームワークということになる。このポイントは、コーチ人事やチーム編成もさることながら、そもそも落合氏の後継監督に高木氏を持って来たこと自体の是非も問われなければならないと思う。

いずれにしても、高木氏とのお付き合いもあと3ヵ月のこと。高木氏がレームダック(死に体)になって、選手起用をコーチ陣に任せるようになってきたら、意外とチーム成績が上向きになっていくかもしれない。そう期待したい。

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コメント 1

yukikaze

同感です。高木氏に監督は無理だったと思います。監督だけでなく組織運営者としての能力が欠如しているのは明白です。フロントの任命責任も問われる状況だと思います。
by yukikaze (2013-07-02 11:18) 

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