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『伊勢北畠一族』 [読書日記]

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伊勢北畠一族

  • 作者: 加地 宏江
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 1994/06
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
平安・鎌倉期には藤原氏とならぶ名門村上源氏一族に連なり、南北朝・室町・戦国時代にまでいたる、北畠氏の歴史とその歴史的役割をたどる。伊勢の大名家・北畠氏はなぜ信長に滅ぼされたか。
南北朝時代に南朝方有力公家/武将として活躍した北畠氏を扱った本の集中紹介も、今回でひと区切りにしよう。

今回の本は、純然たる歴史学者が書いたものだ。伊勢北畠氏の歴史を、北畠親房よりもさらに遡り、村上天皇の時代からひも解き、しかも現存する史料のみに基づいて描いている。その歴史を全て解明されたわけではないから、当然ながら歴史には不明な点も多い。これまで紹介してきた本は、その不明なところで執筆者が想像を働かせてフィクションの会話を挿入したり、そもそもが小説仕立てで書かれていた。しかし、本日紹介する本は、不明なところは不明なところとして認め、わかっていることのみを整理して掲載しているという印象だ。勿論、歴史学者の間で解釈の仕方が分かれる争点は両論併記というスタイルを取ることが多く、その上で著者は心情的にはどのような立場を取りたいのかを明確にしている。

途中これでもかこれでもかというくらいに系図をこまめに載せてくれているので、読みやすくもある。そうして、村上源氏・北畠氏の興隆から織田信長の伊勢侵攻に伴って起きた一族の滅亡までを比較的万遍なく追っている。とはいえ中心は北畠親房だろう。親房が登場するまでの描き方は興味に欠ける。ただ、元々公家の出身だった北畠の家から、南北朝期になると武将が登場するようになり、戦国期には完全な武家の大名に変貌を遂げたのか、その疑問に対する答えを平安期の北畠家の置かれた立場に求めているのは、新鮮な気がした。

親房が生きた時代の描き方は、周辺の人々の言動に至るまで詳細に追っている。ここでも新鮮な視点だと思ったのは、1つには親房が当初後醍醐天皇と距離を置いていたこと、そしてもう1つには長子・顕家が元々持明院統に仕えていたことが書かれていたからだった。元々後醍醐天皇が正中の変、元弘の変で鎌倉幕府転覆を企てた頃、親房は出家をしていて歴史の表舞台には登場してくることなど考えられない立場にあったらしい。

逆に、伊勢国の八代目国司・北畠具教の最後に関する記述はものすごくサラッと書かれていて、霧山城落城などは全く触れられていない。各代の国司をほぼ万遍なく平等に紙面を割いて描いているので、具教の描き方が特段軽いというわけでもないのだが、滅亡に至るまでのプロセスは、もう少し描きこんでもよかったのではないだろうか。或いは、それも織田信長という稀代の戦国大名の天下獲りのプロセスの中では、周辺部で起きた小さな出来事でしかないというのが、大所高所からの歴史の見方だというのだろうか。その点については、郷土史家の立場を取っていた横山高治の著書と歴史学者としての客観性を護持した本書の著者との大きな違いは感じる。

その他、北畠氏に関連した僕の蔵書を幾つかまとめて紹介しておこう。

先ずは、元読売新聞記者で三重県出身の郷土史研究家の横山高治氏が書いた北畠顕家に関する本。横山氏は純粋な歴史学者ではないので、あったかどうかもわからない会話を所々挿入していて、どちらかというと小説っぽく書かれている気がする。イメージとしては、これまでに2冊紹介した横山氏の著書とよく似ているため、本書を単体で紹介するのは省略する。

花将軍 北畠顕家

花将軍 北畠顕家

  • 作者: 横山 高治
  • 出版社/メーカー: 新人物往来社
  • 発売日: 1990/10
  • メディア: 単行本

次に紹介するのは作家・北方謙三の南北朝ものの小説で、北畠顕家、北畠親房を主人公として取り上げているものである。さすが小説のプロ、ストーリーとしてはとても面白い。特に、ハードボイルド小説を得意とする著者が初めて歴史小説に挑戦した『破軍の星』は良かった。『南北朝の梟』は、派手に戦った経験のない親房を主人公として取り上げているため、動きが少なくてちょっとスリルには欠けていたかもしれない。


破軍の星

破軍の星

  • 作者: 北方 謙三
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 1990/11
  • メディア: 単行本

南北朝の梟

南北朝の梟

  • 作者: 童門 冬二
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞社
  • 発売日: 1991/04
  • メディア: 単行本



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コメント 1

yukikaze

「破軍の星」は面白くて一気に読み切った記憶があります。今も本棚にあるので、今晩でも読み返したいと思います。
by yukikaze (2013-06-18 15:33) 

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