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『利権鉱脈』 [読書日記]

利権鉱脈    小説ODA

利権鉱脈 小説ODA

  • 作者: 松村 美香
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2012/11/27
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
チェルノブイリ原発事故の記憶も新しい、社会主義崩壊から間もないモンゴルのウランバートルで、日本人商社マン・加藤貴久が命を落とした。それから12年後、開発コンサルタント会社で途上国開発事業の最前線に立つ桜井万里子は、アフリカ・ザンビアからの帰国早々、モンゴル案件の担当を命じられる。万里子は大学時代の旧友、加藤の死をめぐる真相に近づいてゆく…。
僕のブログにもごくごくたまにコメントを下さる松村美香さんの新刊。当のご本人が書かれているブログの中でも、忙しく複数の途上国の間を飛び回って開発コンサルタントとして活動されているかたわら、原稿執筆を進められている様子が伝わってきた。ここ数ヵ月更新が滞っていたが、本が出来上がるまでの数週間は期限に追われてたまに徹夜に近いことも覚悟せねばならないので、松村さんもきっと本当にお忙しかったんだろうと想像する。

そうして出来上がった本書、小説としての面白さはあまり感じなかったけれど、ODAを絡めた経済協力の進められ方がわかる解説書としてはかなり面白かった。主人公・万里子が同僚やら上司やら肉親やら、客先の職員やら昔の山仲間やらに絡んで議論するシーンや、第2主人公の水谷審議役が、出向先のJIDO(これってJICAのことでしょう?)で同じ部のプロパー職員とのやり取りでイラつくシーン、派遣元の経済産業省の関係者と激しく議論するシーンなど、そこで展開される会話の端々で、今のODA実施体制が抱えている問題点を浮き彫りにしている。コンサルタントは結局発注者の意向に沿ってプロとしての仕事に徹するだけだから、発注側があたふたしてしまうと、案件が小ぶりになったり、年度末に仕事が集中したり、予算が減って貼り付けられる人員が抑制されて若手を育てる余裕を失ってしまったり、様々な影響を受けるのである。

本書はそうした、発注側に翻弄されるコンサルタントの日々抱いているストレスがよく伝わって来る。援助機関から仕事を請け負うコンサルタントの立場で、よくここまで書けたなと感心する。

援助機関の役職員の間でも、国益重視で日本企業の参加も見込んだ大規模な経済協力を進めたいグループと、プロジェクトをどんどん小口化して途上国の地元住民に本当に裨益する支援を進めたいグループとの間で、葛藤があるんだなというのがよくわかった。円借款を呼び水に大規模な民間投資を誘致して大規模な地域開発を進めれば、世界の食糧問題、資源エネルギー問題の解決に大きな一手となるというものの見方がある一方で、そんなことをしたら地元住民の生活が激変して大きな影響を被る人が多く、環境問題も起こりうるし、儲かる人と落ちぶれる人との格差を拡大させるから、大規模な開発プロジェクトなど行なわず、地に足が付いた持続可能性の高い開発協力を行なうべきというものの見方もある。

NGOに身を置いていれば、或いは文化人類学や社会学系の研究者であれば、そこは迷わず後者のポジショニングを取ればいいが、政治的な思惑も絡むような国際協力の実施機関であるJICAの役職員には、理想と現実との間でジレンマに陥っているような人が結構大勢いるんじゃないかと勝手に想像している。ただ、そうした股裂き状態のJICA役職員の現実を描いている反面で、お役所的な職員の対応ぶりを所々で皮肉っていて、JICAに対して同情的だと感じる記述はそれほどない。だから、著者はよくこれを書いたと感心したのである。

では、著者のスタンスはどうかというと、序盤は大規模な経済協力を支持する前者寄りだという印象を受けたが、後半は後者寄りとなっている。コンサルタントから見て、近郊での銅山開発を見込んだ地方都市の開発計画を策定するのなら許せるが、それが日本国内での原発推進に絡めたウラン開発なら許せないということで、ものが銅かウランかが分かれ目となっている。でも、なぜ銅なら許せるのかについての明確な説明はない。

福島原発の事故があった後だけに、こうした落としどころを踏まえたストーリー展開は考えやすかった筈で、うまく纏めたなという気はしている。


日本のODAの実施体制に対する厳しい見方が示される半面で、途上国に対する著者の見方、本書におけるモンゴルの描き方については、温かさも感じました。
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