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『未来国家ブータン』 [ブータン]

未来国家ブータン

未来国家ブータン

  • 作者: 高野 秀行
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/03/26
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容紹介
ブータン政府公認プロジェクトで雪男探し!!
「あの国には雪男がいるんですよ!」。そのひと言に乗せられて高野氏はブータンヘ飛んだ。雪男を探しながらも、「世界最高の環境立国」「世界で一番幸せな国」と呼ばれる本当の理由にたどりつく。
1月末、地元の国際交流協会が主催したフォーラムで、国際基督教大学(ICU)に在籍するロータリー財団奨学生4人によるパネル討論会が開かれた。米国人2人、カナダ人1人、タンザニア人1人という構成で、彼らはICUに籍を置きつつ、様々な切り口から世界の平和を研究している。その昔、僕自身もロータリー財団奨学生として米国留学したことがある。僕の場合は学部留学だったので期間はわずか1年だったが、ICUの留学生たちは社会人経験も豊富な大学院生で、留学期間は2年間なのだそうだ。

こういう人々が近所で勉強していたことを、今まで知らなかった自分の不明を恥ずかしく思った。自分の時もそうだったのであまり言えた義理じゃないが、確かにロータリーフェローに受入先の一般市民との交流促進はさほど期待されてはいないのだが、何だかもったいない気がしてしまった。パネリストひとりひとりの経歴を聞くと、彼らの経験の多彩さは目を見張るばかりで、こんな人々が地域の小中学生と交流してくれたら、うちの子供たちにもよい刺激になったに違いない。今からでも遅くないので、そうしたさらなる交流を深めていく働きかけをしてみたい。

そんなパネリストに1人に、生活ごみの処理問題でブータンでフィールドワークをやってますという米国人フェローがいた。聞けばどうも共通の知り合いがいるようだと話は盛り上がり、僕の昔の職場の同僚が今まさにブータンで働いているので、またブータンでフィールドワークをやる場合は訪ねてみて欲しいと彼女には伝えた。彼女のフィールドはプンツォリンらしいが。

さて、そんな時にようやく図書館で借りてみることにしたのが本書である。発売当初から本書のことは知っていたが、タイトルとアマゾンの内容紹介を読んで、すぐに読みたいと好奇心を掻きたてられたというわけでもない。先月は久し振りにブータンに触れる機会があったので、こういう時にこそ読んでみるかと考えた。

それでも、読み終わるのには時間がかかった。今週はブログの更新も滞っているが、それは自宅にまで仕事を持って帰って作業している姿が先週から今週にかけて常態化しているからだ。仕事の関係の本も同時並行で読んでいるものが2冊ほどあり、そこに単なる息抜き程度の本を読み始めても、使える時間が1日最大1時間程度しか取れない。本書も、読み終わるのには5日かかっている。

前置きはこれくらいで、本書の紹介に入ろう。生物多様性を生かして、ハーブを使った石鹸や化粧品、医薬品などを地元で加工生産し、それを地域の発展に役立てようという「生物多様性ビジネス」を展開する知人がブータン政府から受注した仕事の一環で、その知人から声をかけられ、著者がブータンの辺境地帯を歩いて、そこでの薬草や風俗習慣、伝承などを調べるというものだ。ただ、著者は元々未確認生物(UMA)ハンターでもあるため、民俗調査と言いつつもその切り口には必ず「雪男」だの「未確認動物」などが含まれ、地域の不思議な言い伝えや噂話を結構まめに聞きとっている。

プナカから北上してラヤという村まで入って謎の動物「チュレイ」の出没の話に耳を傾け、帰路プナカではラムジャム淵の不思議な言い伝えに惹かれて淵にまで出かけ、さらには東部タシガンからさらに奥に立ち入って雪男のための保護区とやらで雪男の目撃談がないか探しまわる。ズッコケ話も満載で、読んでいてこちらまで楽しくなる。とはいっても辺境を歩くのは困難も伴う。文章にすれば道中楽しいことばかりだったようにも思えるが、実際はもっと大変だったんじゃないだろうか。こういう紀行文を読めば僕らも行ってみたくなるが、普通の日本人ならとても行けないところばかりだ。

とはいえ、僕も古都のプナカ、東部のタシガンまでは行ったことがあるので、懐かしく本書も読んだ。著者がブムタンのジャカルで泊ったのは、多分僕が泊ったのと同じ宿だったのだろう。どこかで聞いたような描写があった。

また、初めて知ったことも多かった。ブータン男性の女性への求愛の仕方とか笑えた。ブータンではどう恋愛が発展するのかという質問を、随行員にぶつけたところ、返ってきた答えが「牛」とか「熊の家」だった。気になる彼女の家に出向いて、彼女を外に呼び出し、後日牛を連れて行って放牧地で待ち合わせしようと誘うとか、田畑を襲う野生動物を当番制で見張る小屋で、目当ての娘が当番の時に男が忍んで行くのだとか、夜這いの習慣が今も残っているブータンでは、こういうことが行なわれているというのには本当に笑えた。

おちゃらけた紀行文かというとそうでもなく、こういう、他書には見られないキラッと光る記述が随所に見られる。僕はずっとブータンがチベット民族による単一民族国家だと勝手に思っていた。だから、トゥムシン峠を越えて東部に入るとゾンカ語ではなくシャチョップ語というのが共通語になっているという認識もなかった。タシガンからさらに奥に入ると、ゴやキラなど着用していない、中国の雲南人と同じような人々が住んでいたという。ブータンって多民族国家だったのだ。

また、首都から著者に随行した政府の職員が教育の重要性を訴えたのに対し、著者は「教育は伝統を破壊するよ。確実に。中等以上の教育を受けたら、牛やヤクの世話をしたり、畑を耕したりはしなくなるもの」とたしなめている。地方には仕事がないとよく言われるが、正しくは、学校教育が活かせるような「よい仕事」がないのだと著者は言う。そのためには、単に地方に工場を持ってくるという発想だけではだめで、理想的には現地で原材料を調達し、加工し、商品まで作ってしまうことだという。それが生物資源の開発なのだと。

ただ、伝統的知識を生かして新たな医薬品や食品、サプリメントを作ったからといって、どれくらい雇用が生まれるのかはわからないし、よしんば製品がヒットしたとしても、今度はその原料が持続的に再生産可能な範囲での採取にコントロールされるかどうかは怪しいと僕は思う。やらないよりはやった方がいいが、これによってブータン全土の問題解決に繋がる保証は必ずしもないような気がする。

ちょっと読みにくさはあったけれど、こういう切り口でブータンを書いた本は珍しいので、とても面白かった。

最後に、ブータン絡みの話題をもう1つ。先月、職場の近くのビルで、ブータンの人々を撮った日本人カメラマンの写真展が開かれていた。関健作さんという、元々ブータンへは青年海外協力隊の体育隊員として赴任していた方が撮られたものである。近々渋谷でも写真展を開かれるようなので、興味ある方は下記URLをチェックして、是非足を運んでみて下さい。
http://kensakuseki.com/

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うしこ

ご紹介ありがとうございます。面白そうな本で・・・つい買っちゃいました。
by うしこ (2013-02-09 08:42) 

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