『転換期を迎えるインド』 [インド]
内容(「BOOK」データベースより)1つの対象を見るには、2つの異なる見方がある。コップに水が半分入っているのを見て、「こんなに水が入っている」と考える人もいれば、「これだけしか水が入っていない」と考える人もいる。若い部下を見て、「長所」を伸ばそうと考える先輩もいれば、「短所」を直そうと考える先輩もいる。1つの対象をポジティブに捉えるか、ネガティブに捉えるかは、それを見る人の基本的な立場によって異なる。
日本企業は成長と革新の「新沃野」でいかに戦うべきか。なされるべき戦略転換の実相と近未来市場の展望を克明に解説。
インドを対象とした場合も同様である。潜在的な巨大市場というポジティブな捉え方と、汚職や女性への暴力、差別などのダークサイドに注目する捉え方と、2通りがあると思う。本書は明らかに前者で、ダークサイドには目をつむり、日本企業に「チャンスを逃すな」と問いかけるレポート内容になっている。そして、そういう考え方の読者のニーズには十分応えられる内容だと思う。
これからインド市場に参入し、先行している企業に追い付くには、先発企業と同程度の販路、製品・サービス、価格、プロモーションに追い付くために、思い切った投資で一気呵成に体制を整えるのが理想で、投資額を小出しにしてリスク分散を図るやり方は良くないという主張には頷けるものはある。(ただ、思い切った投資を上層部に説得できるだけのインド市場向け人材を長年にわたって育ててこなかったというウィークポイントが、日本企業にはあるような気がするけど。)
また、インドの富裕層が大都市だけでなく、それに次ぐ規模の都市や地方にも幅広く分散し、しかも大都市中心部の富裕層の市場は底が浅いという分析も、興味深い。そこからは、投資余力が限られているからはじめはデリー、ムンバイ、チェンナイ、バンガロールといった大都市から参入していこうという事業展開のあり方に対する批判にも繋がっていく。この辺の分析は、さすがは日本随一の民間シンクタンク・野村総研だ。
一方で、本書には経済成長重視が生みかねない社会の歪みに関する考察はない。どう解決していくのかという処方箋は示していない。そこまでスコープを拡げなくても、インド市場への進出を考えている日本企業だけでも相当な読者層が期待できる本だし、これはこれでいいのかと思う。要は読み手の側でないものねだりをしてはいけないということなのだ。
よって、同じインドでも、社会問題に興味がある人は、買う前にくれぐれもご注意下さい。
仕事でインドと関わるようになってから、僕は「コップの水」の捉え方で、組織人としての自分と、一個人としての自分との間で、ジレンマを感じることが極端に増えた気がする。ひとつの例えとして言うと、組織としては「緑の革命」を支持して食料の増産を図っていくことを考えなければならないとしても、個人的には多収量の単一種子は生産者にとってリスクも大きいので、地域の気候条件によく合致して、収量は多くなくても不作のリスクの少ないローカル種子の系統を保全し、使用を推奨していくことを支持していたりする。言わば、同じ地球を消費者中心に見るのか、生産者中心に見るのかの違いだともいえる。
そのジレンマが自分の中で大きくなり過ぎた時、果たしてどう自分は振る舞えばいいのだろうか…。
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