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「社会調査」のウソ [読書日記]

BMIがちょっと高めで、会社の産業医から「人間失格」の烙印を押されている人間などからすると、こういう研究成果が出るとちょっと嬉しい気持ちにはなる。ただ、27万人ものサンプル数で、肥満以外の要素を完全にコントロールすることなど本当にできるのかどうか、AFPのこの記事を読むだけではよくわからない。サンプルを増やせばいいというものでもないような気がするんだけど…。

この年末年始、9連休の間に読もうと思っていた本は幾つかあった。そのために図書館で借りた本もあるし、仕事上どうしてもまとまった時間を見つけて集中的に読んでおきたいものもあった。そして、「いつか読もう」と思って自宅で積読状態にしてあった蔵書も。本日ご紹介する『「社会調査」のウソ』は、半年以上前に購入だけして、全然読んでなかった1冊である。

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ (文春新書)

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ (文春新書)

  • 作者: 谷岡 一郎
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2000/06
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
世の中に蔓延している「社会調査」の過半数はゴミである。始末の悪いことに、このゴミは参考にされたり引用されることで、新たなゴミを生み出している。では、なぜこのようなゴミが作られるのか。それは、この国では社会調査についてのきちんとした方法論が認識されていないからだ。いい加減なデータが大手を振ってまかり通る日本―デタラメ社会を脱却するために、我々は今こそゴミを見分ける目を養い、ゴミを作らないための方法論を学ぶ必要がある。

実は僕も、会社で質問票の作成に関わったことがある。何人かのチームで意見交換を何度も行ない、それで質問票を完成させていったが、その過程で、「この質問の仕方は回答者をある方向に誘導していないか」、「この選択肢で十分か」、「1~5のスケールで聞くと、回答が3に集中し過ぎてプラスなのかマイナスなのかが峻別できないのではないか」、「この質問の並べ方をすると、回答者が想像を働かせてこの意識調査の目的に合わせる(逆に反発して合わせない)回答をするのではないか」など、相当な議論を積み重ねた。恥ずかしながら、この歳になってこうした本格的な質問票の作成に関わったのは初めてで、僕らが普段何気なく答えているアンケートも、質問項目が軽々に作られているわけでは必ずしもないのだと痛感させられた。

そんな経験を虚心坦懐に振り返ってみるために、年末年始の読書の1冊に、本書を加えた。結論から言うと、年明けに仕事に復帰する前に読んでおく本としては、この上ない良書である。社会調査の実施に実際に関わってみて、本書の指摘がかなり痛いところを突いているというのはよくわかるし、常に自分自身を戒めていかなければならないと改めて思った。

本書が指摘している中でもとりわけ心に響いたのは、こうした社会調査の方法論や統計的手法が、高等教育の中でしっかり教えられていないのが、ゴミを大量に生み出す原因になっているという指摘だ。今学生を指導している教員がそのような訓練を受けていないから学生の行なう研究にもそのような指導ができず、適切かつ十分な計量分析が行なえない学生を世に送り出していると著者は言う。

自分の学生時代を振り返った時、もう少しこの点についての自分の認識がしっかりしていれば良かったと思う。統計学という授業は80年代後半に院生をやっていた頃、学部長から薦められて履修はしたが、いきなり計量経済学の原書を読まされて、先生の仰っていることがチンプンカンプンで手も足も出なかった負のイメージしか残っていない。そのトラウマを今も引きずっているから、僕は今でも計量分析に対して腰が引けている。

年末年始に里帰りした際、同じく里帰りした弟と話す機会があった。ともに中学生の子供を抱える父親で、息子は理系に進ませたいと思っているが、弟自身も理系で、特許を取得した技術を持っていて、それでビジネスを展開している企業経営者でもある。そんな彼と話した話題の1つが、高校の数学で今でもよく使うものは何かということだった。さすが理系、弟は三角関数は今でも使うと言っていたが、文系に進んだ僕ですら使う必要に駆られるのは統計学で、統計分析の知識はかなり重要だという認識では意見が一致した。

ところが、高校の数学では統計についてはちゃんと勉強したという記憶がない。ましてや、確固たる問題意識がなければ大学に進んでからも統計学の授業を履修するかどうかすら怪しいし、社会科学系の専攻に進んだ学生が、単なる座学ではなく、実践も含めて社会調査の訓練を受けるような機会を得られるのかどうかも怪しい。(隣りの庭は青いというが、僕が今学生をやり直せるとしたら、こむずかしい国際関係論などではなく、社会調査の実践を学べるゼミに行きたいとすら思う。)

うちの長男も今年は高校受験。親の意を汲む息子は、今のところは理系に進みたいと言ってくれている。そんな息子に文系のオヤジができるアドバイスは、統計の勉強はしっかりやっとこうということに尽きる。

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コメント 1

toshi

コメント、ありがとうございました。
by toshi (2013-01-10 20:50) 

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