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『七つの会議』 [池井戸潤]

七つの会議

七つの会議

  • 作者: 池井戸 潤
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2012/11/02
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
トップセールスマンだったエリート課長・坂戸を“パワハラ”で社内委員会に訴えたのは、歳上の万年係長・八角だった―。いったい、坂戸と八角の間に何があったのか?パワハラ委員会での裁定、そして役員会が下した不可解な人事。急転する事態収束のため、役員会が指名したのは、万年二番手に甘んじてきた男、原島であった。どこにでもありそうな中堅メーカー・東京建電とその取引先を舞台に繰り広げられる生きるための戦い。だが、そこには誰も知らない秘密があった。筋書きのない会議がいま、始まる―。“働くこと”の意味に迫る、クライム・ノベル。
里帰りして面白かったのは、里帰りした3兄弟が皆小説を読もうと持ち帰っていたことだった。末弟については一緒に来てくれたお嫁さんが持って来たもので、伊坂幸太郎の『PK』だった。僕は『あるキング』で伊坂作品はくじけたと話すと、最初に読んだ作品が悪かったのだと教えてくれた。次弟は池井戸潤の『下町ロケット』を持って来ていた。偶然ながら、3兄弟のうち、2人が池井戸作品だったというわけだ。

年末年始の読書で僕が唯一持って来た小説は、池井戸潤の最新作『七つの会議』である。珍しく、日本経済新聞社刊の作品だ。そして、連作短編の手法を取りつつも、ストーリーとしては某部品メーカーのリコール隠しのスキャンダルを追っていて、長編小説的要素も楽しめる。この著者としては珍しい手法だ。しかも、各編の目線が異なる。8編から成るので都合8人の目線から東京建電で進行するスキャンダルの進展を描いていることになるが、この中で比較的まともなのは妻子持ちの同僚との不倫で疲れて依願退職するOLや万年二番手の営業一課長、親会社での出世レースでライバルに敗れて天下って来た副社長ぐらいだろう。わけあって万年係長の立場に甘んじている「居眠り八角」というのもいることはいるが、この挑発的なまでの働かない姿勢には正直嫌悪感も覚えるという点で、ちょっとまともだとは思いたくない。

あとの人物は、性格にどこかしらの問題を抱えている。それは両親、家族との関係によって形成されたところもあるし、育てられ方に何かしらの問題があったというのもあったのだろう。加えて、自分が務めた職場でたまたま出会った上司や部下との関係によって否が応でもそう行動せざるを得なかったところもあるだろう。企業とはどうあるべきか、そこで務める社員はどうあるべきか、「顧客第一主義」の理想を追求することは実は口で言うほど簡単ではない。企業の論理が優先されて、その結果が顧客を危険にさらすような結果を招くというのは、ひょっとしたら今の日本の企業ではよくあることなのかもしれないと考えさせられる。

―――当然のことながら、何となく後味の悪さというのは残る。

八角係長の言っていることが最も正論で、筋が通っていると思うのだが、結果的には彼がこの企業の中で最も浮かばれない人生を送っているところが、身につまされる。組織の中にいて、自分の信念を貫き通すことがいかに難しいか、それを貫いて仕事のえり好みをすると、組織の中でどういう立場に追いやられるのか、その結末を突きつけられるようで気持ちは良くない。自分が働いている会社組織の中で、個人の信条とは異なる仕事を進めるよう言われ、それが自分の業績評価につながると言われた場合、それでも僕はその仕事を引き受けられるのだろうか。とても悩ましい。

何人かの登場人物はその家族も登場しているが、最もいい感じの夫婦の会話をしているのが八角夫妻だというのも何か象徴的な気がする。

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