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『あんぽん 孫正義伝』 [読書日記]

あんぽん 孫正義伝

あんぽん 孫正義伝

  • 作者: 佐野 眞一
  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2012/01/10
  • メディア: 単行本
内容紹介
ここに孫正義も知らない孫正義がいる。今から一世紀前。韓国・大邱で食い詰め、命からがら難破船で対馬海峡を渡った一族は、豚の糞尿と密造酒の臭いが充満する佐賀・鳥栖駅前の朝鮮部落に、一人の異端児を産み落とした。
ノンフィクション界の巨人・佐野眞一が、全4回の本人取材や、ルーツである朝鮮半島の現地取材によって、うさんくさく、いかがわしく、ずる狡く……時代をひっかけ回し続ける男の正体に迫る。
“在日三世”として生をうけ、泥水をすするような「貧しさ」を体験した孫正義氏はいかにして身を起こしたのか。そして事あるごとに民族差別を受けてきたにも関わらず、なぜ国を愛するようになったのか。なぜ、東日本大震災以降、「脱原発」に固執するのか――。
全ての「解」が本書で明らかになる。
今年11月、週刊朝日の橋下大阪市長の評伝「ハシシタ 奴の本性」でミソをつけたノンフィクション作家・佐野眞一の著書。ソフトバンクの孫正義社長の人物像を、父方と母方の二世代前まで遡ってその出自と半生を追うことで描きだそうという相当の力作である。毎度のことながら、佐野さんの取材の徹底ぶりには恐れ入る。ライフヒストリー研究の1つのあり方だと思う。

ただ、既にこの世にいない宮本常一と渋沢敬三を取り上げた『旅する巨人』と違い、今を生きている人々の人物像を浮き彫りにするにあたっては、本人にも触れてほしくない過去まで白日の下にさらけ出そうとするその執筆姿勢が、時として主題となる人物との軋轢を生みやすい。

それに、最初に読んだ『旅する巨人』と比べると、ちょっと主観が交じり過ぎた書きぶりになっているのが気になった。インタビューをやっていて、相手が発言したことに対してその時どう思ったかが書かれ過ぎている。インタビューは一定の仮説を以て臨むものだというのは理解するものの、そこに佐野さん自身の価値観がかなり反映されている。インタビューを受けた人が、後で活字になった自分の発言を読んでみて、「そういうつもりで言ったんじゃないのに」と当惑することは多いだろうし、逆に佐野さんが自分の考えていたシナリオにフィットする発言ばかりをインタビューから拾い出して使っているとして、「佐野に利用された」と感じることも相当多いと思う。

そもそも「あんぽん」という本のタイトル自体、泰然自若としつつも孫社長にとっては気分の良いものではなかっただろう。孫社長が日本に帰化する際に捨てた在日韓国人としての姓「安本」の音読みで、しかも蔑称として使われていたらしい。

多分、橋下市長についても、同じようなアプローチで描こうとしたのだろう。佐野さんが持つ動機の清濁を全て飲み込んでインタビューに積極的に応じ、名誉棄損で訴えるようなこともしなかった孫社長と違い、橋下市長は過剰に反応した。両者の度量の差もあるかもしれないが、『あんぽん』と同じアプローチで部落問題に切り込んでいくと、在日問題以上に難しいこともあるかもしれない。佐野さんは取材した相手の実名をつまびらかにして、取材地も明記するので、同じ調子で部落問題を取り上げたら、たとえ同じ差別の問題だったとしても、反発が相当にあることが予想される。

週刊朝日事件の影響で、佐野さんの今後の仕事にも相当影響出るだろうな。

今となってはソフトバンクはケータイ、スマホの通信事業者として理解しやすいが、それ以前のソフトバンクは、正直何をやっている会社なのかわからないという得体の知れなさが常にあった。何やっているかわからないのに孫さんだけはやたらと目立つ。そんなイメージだったけれど、本書を読んで少し理解できた気がする。ソフトバンクの孫正義を題材に取り上げた本は他にもあると思うが、両親や祖父母の自体にまで遡り、韓国・大邱まで行って孫一族の出身地の様子を調べ、孫正義のルーツを探った本は珍しい。400ページにもわたる長編だが、かなり面白い1冊だった。

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