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『創造的福祉社会』 [読書日記]

創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値 (ちくま新書)

創造的福祉社会: 「成長」後の社会構想と人間・地域・価値 (ちくま新書)

  • 作者: 広井 良典
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2011/07/07
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
「限りない経済成長」を追求する時代は終焉を迎えた。私たちは、人類史上三度目の「定常期」に直面している―。飽和した市場経済のもと、われわれの社会は「平等と持続可能性と効率性」の関係をいかに再定義するべきか。「拡大・成長」のベクトルにとらわれたグローバル化の果てに、都市や地域社会のありようはどう変化するのか。そして、こうした「危機の時代」に追求される新たな価値原理とは、人間と社会をめぐる根底的思想とは、いかなるものか。再生の時代に実現されるべき社会像を、政策と理念とを有機的に結びつけ構想する。
購入して1年近く積読にしてあった本を、ようやく読んでみることにした。買っておきながら、何故これほど長い間積読にしておいたのかというと、広井先生の著書は難解で読みにくいという先入観があったからだ。いや、先入観というよりも、一般的評価と言った方が適切かもしれない。それを何故今頃読もうと決意したのかというと、著者とよく似た理論枠組みの本を最近読む機会があったからだ。レバレッジを考えたら、今が読んでおく時期なのだろう。多少はその文脈を理解できるようになった今のタイミングなら、難しい「広井ワールド」も少しはわかりやすく感じるのではないか―――。

しかし、やっぱり広井先生の著書は手ごわい。以前、僕は広井先生の本の読後の感想として、具体例に乏しく、これだけの考察のできる人なら具体的実践においてどのような成果を挙げているのかを紹介してみて欲しい、というような批判を述べたことがあった。実践事例ではないものの、今回の著書では、著者が実際に見て撮ってきた欧米と日本国内の街の写真を紹介し、それぞれの良い点と懸念される点を挙げている。この試みはこれまでの著書数冊と比べて本書を多少とっつきやすいものにするのには貢献していると思う。

とはいっても述べられていることは相変わらず難しい。そこで、今回は難しいところは適当に流しておいて、とにかく「読んだ」というアリバイ作りに徹しようと心に決めて、適当に読み進めることにした。今僕達の社会は三度目の「定常期」にあり、過去二回の定常期を打ち破って次の発展期への移行に繋がっていったきっかけが何だったのかを分析することで、今僕らが直面している三度目の定常期の先に何があるのかを予測し、新たな発展期に移行するために何がなされるべきかを考察しようと試みている。この、過去2回の「定常期」と次の発展期への移行の歴史の振り返りに第3章が充てられているが、この第3章がやたらと長く、歴史の振り返りに割いた頁数の割に、三度目の定常期の捉え方への考察はものすごくサラッとしか書かれていないところに戸惑った。

だから僕らはどうしたらいいのかという、具体的な行動への示唆がちょっと乏しいのではないかと思う。それと、過去2回の定常期というのは、時間的に言うと100年前後かかって徐々に到来しているという印象で、そこから次の発展に向かうのにもさらに何十年もかかっている。一方、著者のいう第3の定常期というのは、国によって到来の時期には差があるものの、10年ぐらいのタイムスパンで移行が進んでいるとの印象だ。これは人類史全体から見ればあっという間のお話で、仰々しく「第3の定常期」と捉えるのが本当にいいのかどうか、戸惑うところがある。「第3の定常期」を迎えているのは日本をはじめとする先進国や一部の新興国であって、その他の国々まで含めて「定常化社会」の議論を持ち出すのは、ちょっと違和感がある。

僕にとっての1つの驚きは、狩猟採集社会から農耕社会への移行が人々の生活の「豊かさ」をもたらさず、また、社会の「不平等」が拡大していったという、農耕社会について概してネガティブな側面が、最近の諸研究で明らかにされてきたというお話であった(p.193)。農業の開始によって生活水準が下がったというのである。この点は、インドのオリッサやアンドラプラデシュ州の山岳先住民の生活の変化について扱った文献を読んでいてなんとなく感じていたことだったが、人類学者や考古学者の間で、狩猟生活から定住農耕生活への移行にこうした評価がなされているというのは、とても新鮮な学びだったと思う。

それにしても、筑摩書房はよく付き合っていると思う。最近著者が筑摩新書から出している著書はどれも知的思索の旅の記録のようなところがあって、何のために書かれたかというと、著者自身の考えを整理するためであるとしか思えない。確かによく先行研究を調べられているし、それも著者のご専門である社会保障政策研究から、歴史学や人類学、哲学にまで考察の範囲が広い。基本はものすごく頭のいい人なんだな。高校時代から哲学に興味があったと聞いて妙に納得した。こういう、自分の思考の整理のために書かれたような本が、売れるのかな。確かに、この新書シリーズ全体に箔をつけるという意味では、たとえ新書判であっても相当難しい内容を盛り込んだものが何冊かあった方がいい。

新書を買う気軽さの割に、中味は難解というのは、お得感が確かにある。だから僕も購入して積読にしていたのだと思う。もうちょっと具体例を入れてくれた方が、僕らの次の行動に繋がっていくような気はするが…。


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