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『ひかりの剣』再読 [海堂尊]

11月3日に東京・日本武道館で開催された剣道全日本選手権第60回大会は、木和田大起六段(大阪府警)が初優勝を果たして幕を閉じた。史上初の三連覇に挑んだ高鍋進六段(神奈川県警)を準決勝で出ばな小手1本で破り、決勝では通算三度目の優勝を目指した内村良一六段(警視庁)から試合開始8分でまたもや出ばな小手で1本先取し、そのまま逃げ切った。木和田選手は、僕のお手本としている寺本将司先生と同じ大阪府警所属。長身をうまく生かした剣道をするのも寺本先生とよく似ている。出ばな小手で決まる試合は、豪快な面や突きで決まる試合と異なり、盛り上がりという点ではイマイチかもしれないが、少なくとも僕にとっては非常に参考になった大会だった。

朝日新聞のウェブ版は結構早めに記事を削除してしまうので、いつまで閲覧できるかわからないが、僕は朝日で使われている写真に感銘を受けた。内村選手が諸手突きに出たのに対して、木和田選手が出ばな小手で応じている写真だが、驚いたのは内村選手の飛び込みの方である。残した左足がまっすぐ伸び、右踏み込み足が相手に向かってまっすぐ出ている。身長が170cm少々と上背で10cmほどハンデがある内村選手がそれでも同世代のトップに君臨できるのは、この無駄なく伸びる飛び込み技にあると思う。僕は軸にする左足が少し外に開く癖があり、小さい頃から指導を受けた先生方には、「直さないと足首を故障するぞ」と度々警告を受けてきた。それを矯正するために普段から足運びが左右平行となるよう心がけて歩くようにしているが、なかなか思ったようには直らない。内村選手のような踏み込みができるようになりたいものだ。

さて、全日本選手権3日に開催され、翌4日には我が子の試合が近所の私大を会場にして開催されたこの週末、剣道漬けもいいかと思い、久し振りに『ひかりの剣』を読み直してみた。

ひかりの剣 (文春文庫)

ひかりの剣 (文春文庫)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2010/08/04
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
覇者は外科の世界で大成するといわれる医学部剣道部の「医鷲旗大会」。そこで、桜宮・東城大の“猛虎”速水晃一と、東京・帝華大の“伏龍”清川吾郎による伝説の闘いがあった。東城大の顧問・高階ら『チーム・バチスタ』でおなじみの面々がメスの代わりに竹刀で鎬を削る、医療ミステリーの旗手が放つ青春小説。
僕が初めて読んだ海堂作品が実は『ひかりの剣』である。時期としては『ブラックペアン1988』と同じ時期を扱っているが、海堂お得意の医療ミステリーではなく、正々堂々のスポ根ものである。世良や速水、田口、彦根、清川といった、海堂作品を彩る個性豊かな登場人物達が、まだ医療の世界で大活躍するより前の医学生だった時代(世良は「先生」になったばかり)のお話で、小難しい医療の話題が俎上に上ることもなく、比較的単純なストーリーとなっている。僕は大学時代は剣道をやっていなかったので、最初に読んだ時には大学剣道とはこういうものなのかなというので素直に納得し、興奮して読み切った。

だが、今回読み直してみて、突っ込みを入れたくなるような点が目立った。この時の「阿修羅」高階先生って、四段だったんですね。四段にして一刀流の極意「切り落とし」を修得し、それをわずか3ヵ月で速水に伝授って、すご過ぎるぞ。僕も一応四段だが、「切り落とし」即ち面打ち落とし面、あるいは合い面で打ち勝つ極意は全然見えてきていない。左手だけで真剣を振るのを1日1万回繰り返すだけで修得できるというのなら、僕もやってみたいと思ってしまうよ…。学生剣道でこんな極意を習得している人ってどれくらいいるのだろうか。それを、外科医として毎日患者の患部をメスで切り結んでいるという言葉だけで説明してしまうのは、ちょっとすご過ぎると思わざるを得ない。

それに、試合でも稽古でも、八双の構えや脇構えをとる剣士など見たこともないし、ましてや下段が得意というのも、僕は知らない。相上段とか、上段対二刀流、上段対逆二刀とかは、東京ではたま~に見かけることはあるが…。こんな面白い構えが見られるのなら、医学部剣道というのもなかなか面白そうだなとは思ってしまう。

それはともかく、今回、新刊の『スリジエセンター1991』の後で読み直してみてわかったのは、渡海医師が実習生だった速水達に告げた『獅胆鷹目』という言葉の、その後を知りたがっていた、あるいはその後の4文字が何かを知って欲しいと渡海医師が期待していたのは、速水というよりも田口の方だったということだった。それが田口ではなく速水の進路に大きな影響を与えたというところには、人生何が起きるかわからないというのを改めて痛感させられた。


タグ:剣道
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