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『OUT OF AFRICA アフリカの奇跡』 [仕事の小ネタ]

OUT OF AFRICA アフリカの奇跡 世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語 (OUT OF AFRICA)

OUT OF AFRICA アフリカの奇跡 世界に誇れる日本人ビジネスマンの物語 (OUT OF AFRICA)

  • 作者: 佐藤芳之
  • 出版社/メーカー: 朝日新聞出版
  • 発売日: 2012/07/20
  • メディア: 単行本
内容紹介
アフリカの地で「ケニア・ナッツ・カンパニー」を設立し、アフリカ人ととともに働き続け、マカダミアナッツの世界5大カンパニーの一つに育て上げた日本人経営者がいた。アフリカに渡って約50年、外来の常識を押しつけず、「志は高く、目線は低く」を貫き、挑戦を続けた末に見出した“確信"とは。
元々興味があった話なので、発刊直後の8月の帰省中に購入し、すぐに読んだ。ここまで遅くなったのには特に理由はない。なんとなく紹介しそびれていたに過ぎない。僕の読書遍歴を見ていくと、こうして日本を飛び出して海外で活躍する日本人の大先輩たちの生き方を描いた本を、やたらと読んでいるのが印象的だ。我もかくありたいと憧れるが、そういう人々と比べたら僕など圧倒的に小物だ。それに、そもそもそんなことを目指そうとしている時点で動機も不純だな。

著者の佐藤芳之氏はテレビ『カンブリア宮殿』でも1年ぐらい前に紹介されたことがあり、それがきっかけでその経歴を本にまとめてみないかという話が持ち上がったのだろう。編集部の方で付け加えたまえがきによると、佐藤氏は南三陸町出身で、高校時代に既に「僕はアフリカへ行きます。10年後にはアフリカにいます」と宣言し、その目標達成に向けて東京外国語大学に進み、卒業後24歳でガーナに渡る。それが僕が生まれた1963年のことだ。その11年後、氏はケニアでケニア・ナッツ・カンパニー(KNC)を創業し、30年を経て従業員4000人に会社になるまでに育てた人である。KNC1社で4万人の生活を支えている計算になるという。ナッツの契約生産農家は約4万戸で、これも計算上は16万人がこのナッツ生産の収益で生活していることになる。ケニア国民の200人に1人がKNCによって支えられている。

KNCはアフリカ有数の食品加工メーカーで、世界のマカダミアナッツ業界でも第5位の規模を誇る。ケニアに行ったことがある人なら、ナイロビの空港の免税店で「OUT OF AFRICA」ブランドのナッツ商品を見かけたことがあるに違いない。佐藤氏は、アフリカ人の自立のためのビジネスにこだわり続けてきた。いかにアフリカの貧困問題が未だ深刻で、飢餓や紛争が絶えないとはいえ、外国からの援助では人も国も自立できない、必要なのは収入を得る道筋を創ることだと信じて、雇用吸収力のある産業の育成に心血を注いできた。そして、72歳の2008年には、KNCを手放してアフリカ人に同社の経営を託すとともに、自らは微生物を使った、トイレや汚水処理場の悪臭抑制や土壌改良を進めるビジネスを新たに起こしたという。

本書はケニアでの奮闘記というよりも、著者の自叙伝である。今まで歩んできた道のりと、これからの20年に対する思いが述べられている。読みやすいので、中高生の読書としても薦める。生き方のヒントが氏の半生の中には散りばめられている。

例えば、専門知識もさることながら、一般教養の重要性も指摘している。氏は欧州短期滞在やガーナ・ケニアでの欧州の人々との交流について、次のように述べている。
文化や教養の積み重ねがあって、しかもそれがふだんの生活に入っている。それが社会の骨太さにつながっている。かつては日本にもそういう部分があったはずなのですが、いつの間にか、すっかり影を潜めてしまったようです。(p.64)

本当に良質なものを、さらっと生活の中に取り入れていきたいというのは今も心がけていることです。自分の生活をあるグレードに保つことは大切だと思います。人としての最低限のノーブルさを保ち、知的に生活すること。大きな仕事を成し遂げようと望むときには、私的な部分がだらしなくなっているとダメです。経済的にも、特に大金持ちでなくてもいいけれど、ちゃんと食べられる程度の収入があって、家もそれなりに堂々としたところに住む。そこで、きちんとした生活をする。その上で、精神的にはハングリーで、フーリッシュでいること。そこまで整っていてはじめて、あるレベルの仕事ができるのだと思います。(p.66)
耳が痛い指摘で、僕自身が実行できているとも思えないけれど、これから長い人生を生きて行く我が子には、その重要性を常に言い聞かせたいと思う。今既に始めていること、武道でも音楽でもいいが、長く継続して取り組んで欲しいし、受験勉強でテストで良績をあげるための詰込み勉強ばかりではなく、一生の糧になる教養を身につけて欲しいと願っている。

もう1つは、やはりアフリカで人を雇うにあたっての示唆である。「奮闘記」と呼べるほどの苦労話は本書ではあまり登場せず、わりとさらっと書かれている印象があるが、詳細な具体例の紹介はないけれど、人を雇う際にはアフリカ人との倫理観・道徳観の違いで戸惑ったとして、それを一般化して整理しておられる。
 日本人の私にとってはごく当たり前の最低限のモラル――例えば、嘘をつかないとか、約束した時間を守るとか、公共の場にやたらと物を捨てないとか、職場や家をきれいに掃除するとか――をアフリカの人たちはほとんど守れませんでした。(中略)
 アフリカでは「言葉は風」と言われます。人と人が交わす言葉は所詮、草原を吹き渡る風のようなものだという意味です。(中略)
 アフリカでは、実際に言葉よりも表情とかリアクションの方が信用できるということがあります。言葉はいくらでも取り繕うことができますが、人が発する波動みたいなものは嘘がつけないのです。
 生存することの厳しさの度合いが違うところですから、そういう土地の人を使って仕事してもらうときには、まず生活の保障をしてあげなくてはなりません。決まった期日にきちんと給料を払ってあげるということです。(中略)毎月、月末になったら必ずお金が入るとなると、物を盗む必要はないし、ツケで物を買うことだってできます。食用粉も砂糖も石けんも買える。ツケで物が買えるというのは、その人が社会的に信頼されていることを意味します。人として認められるということです。そうなると、その人の生活態度が変わってきます。ちゃんと食事を取るようになり、清潔な衣服を着るようになります。そして、掃除もできるようになります。(pp.118-120)
それでも直らないのが、アフリカ人が嘘をつくことだという。「言葉は風」にも通じるが、場を取り繕う嘘というのが頻繁に見られるらしい。そして、氏のそれへの対処法は、先ずは「受け入れる」こと、それは嘘だろうと最初から決めつけずに、いったん彼らの言うことを受け入れるのだという。僕はアフリカでビジネス云々を考えるような立場ではないが、これからアフリカに渡って、ビジネスにせよ開発協力事業にせよ、関わっていく予定がある人には、アフリカで働くにあたって心得ておくべきこととして、本書の第3章はお薦めする。

ケニアのマカダミアナッツについては、書かれた本がもう1つある。そちらの方は事業が行なわれたのが1970年代末から80年代にかけてであり、その事業を実施した組織で今勤めている関係者の間では、ほとんどその記憶が継承されていないし、ケニアに駐在していても、その事業地を最近訪れたという話は聞かない。そのため、佐藤氏の事業とこちらの事業との繋がりがいまひとつよくわからなかった。繋げられたらオールジャパン的には面白いストーリーになるのではないかと期待し、本書を購入して読み始めたのだが、なにせ佐藤氏のアフリカ渡航は60年代で、KNC設立も1974年だ。もう1つの80年代の事業との関連付け云々よりも、KNCの事業の方が歴史としては圧倒的に長く、佐藤氏のご経験だけでも素晴らしいストーリーになっていると思った。

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