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『マイノリティと国民国家』 [読書日記]

マイノリティと国民国家―フィリピンのムスリム (イスラームを知る)

マイノリティと国民国家―フィリピンのムスリム (イスラームを知る)

  • 作者: 川島 緑
  • 出版社/メーカー: 山川出版社
  • 発売日: 2012/05
  • メディア: 単行本
出版社 / 著者からの内容紹介
1960年代末に開始されたモロ民族独立運動に焦点をあて、その運動の展開過程と指導者の政治思想、社会的基盤をわかりやすく説明し、それ以前の諸運動や、近年の新しい動きとの関連を考える。
山川出版社の「イスラームを知る」シリーズは、1冊100頁程度で既刊11冊を世に出している。高校時代に山川の歴史の教科書のお世話になったことのある人なら想像できると思うが、サラッとひと通り主題を概観するのには向いている。1日もあれば通勤電車の行きと帰りの道程で読み終われるぐらいの分量だ。

今回ご紹介する1冊は、フィリピンのムスリムのお話。ご存知の通り、フィリピン自体はキリスト教徒の方が圧倒的に多く、その中でムスリムは生活している。歴史的にどちらが古いかというと、これまでに他の文献でも調べて見たが、先に伝来したのはイスラム教で、キリスト教はそれに遅れて入ってきた。遅れて来たキリスト教徒が布教のためにどのような手を使ったのかは、インドでキリスト教徒が何をやったのかを知っている僕には容易に想像がつく。かくして大多数がキリスト教徒になった現代のフィリピンでは、世俗主義をとりつつも当たり前のように政府の打ち出す政策が多数派のキリスト教徒の価値観に根ざしているものが多い。マドラサ(イスラム宗教学校)を出ても正規教育の修了資格が認定されない教育制度が改正されたのはつい最近のことで、それまではマドラサを出たら中東に留学するしかなかったらしい。

本書を読もうと思った最大の理由は、モロ民族独立運動について知りたかったからだ。だから、第4章だけは格段に面白く、勉強にもなった。例えば、1960年代末から70年代初頭にかけて、既成ムスリム政治家の腐敗や無能ぶりを批判して、より急進的な運動を通じてフィリピン・ムスリム社会が置かれてきた状況を変革しようとする新世代の青年ムスリムリーダーが台頭したとあるが(p.58)、その中にもいくつかのグループがあり、学生運動左派と一線を画して、リベラルな民主主義の立場から、ムスリムの権利擁護や地位向上に取り組むリベラル派西洋型ムスリム知識人のグループもあったが、そのグループの中心人物の1人、マイケル・マスツラ氏とは、僕は仕事を通じてお目にかかったことがある。

その時まだ東南アジアのイスラームというテーマについてほとんど予備知識がなく、マスツラ氏のバックグランドについても理解していなかった。本書によれば、彼らリベラル派知識人は、フィリピンの憲法・法律や、国際法を根拠として、議会制民主政治の制度的枠組みの中で、英語による言論活動を行なってきたのだという(p.62)。(が、正直なところ、マスツラ氏の英語はものすごく難しく、書かれた論文は何度読んでもまったく理解できなかった。まるで、「お前に俺の言ってることがわかるか」と挑戦を受けているような感覚…。)本書によれば、彼らの多くはマニラと南部フィリピンの出身地の双方に活動拠点を持ち、ムスリム社会の中間層上層から富裕層出身者が多いらしい。こういう背景がわかると、マスツラ氏の論文も読めるようになるのだろうか、ならねぇだろうなぁ。

もう1つ、本書でとても参考になったのが、モロ・イスラーム解放戦線(MILF)の創設者であるサラマト・ハシムの思想的背景の解説である。この、概説を述べるにとどめている100頁あまりの本の中で、サラマトの生い立ちと思想に関する記述だけで10頁以上を割いている。これだけをもってしても、本書を読む価値はあるというものだ。



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