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俳優アーミル・カーンの挑戦 [インド]

先週、インドに出張した際、昔の同僚から、ボリウッド俳優のアーミル・カーンが最近テレビのインタビュー番組のホストを始め、そこでインドが抱えている社会問題を毎回取り上げて視聴者に対して問題提起をしていると聞いた。週末滞在先のカトマンズでこれまた別の知人とスーパーマーケットで買い物をしていた際、この知人が、「カーンがタイムの表紙に載ってますね」と教えてくれた。さっそくTIMEの2012年9月10日号を1冊購入し、カバーストーリーを読んでみた。「スターの力(Star Power)」(Bobby Ghosh記者)と題した6頁の記事である。

1988年に「Qayamat Se Qayamat Tak」で初めて主役を演じたアーミルは、1990年代を通じて、いわゆるボリウッドの定番であるラブストーリー作品で実績をあげ、押しも押されぬスター俳優の仲間入りをした。僕が初めてボリウッド映画に接した1990年代半ば以降の出演作品としては、「Rangeela」(1995)、「Raja Hindustani」(1996)、「Ishq」(1997)、「Mann」(1999)などがあって、ウルミラ、カリーシュマ・カプール、ジュヒ・チャウラ、マニーシャ等と踊っていた。僕が駐在地だったカトマンズで、現地人スタッフを集めて謝恩夕食会を開いた際に、瞬間芸でボリウッド映画のダンスのまねをやって大いに受けた(?)が、その元ネタは「Ghulam」(1998)劇中のアーミルのダンスだった。

そんなアーミルが社会性のあるメッセージを発信し始めたのは、2001年公開の「Lagaan」からだと記事では書かれている。大英帝国支配下にあった植民地インドで、干ばつに苦しむラジャスタンの村人が、駐屯英国人を相手にクリケットの試合を挑み、租税の軽減を勝ち取るというストーリーで、アカデミー賞外国映画部門でノミネートされた。(僕は個人的には1999年の「Mann」じゃないかと思っている。不慮の事故で両足切断を余儀なくされたフィアンセが、障害を負ったがゆえに彼から距離を置こうとするところを、それでも愛を貫いて最後は結婚するという話だった。)「Lagaan」を見てなかったら、僕は今でもクリケットのルール、面白さが理解できずにいただろう。

その後、2006年の「Rang De Basanti」、2007年の「Taare Zameen Par」、2008年の「Ghajini」、2009年の「3 Idiots」といった作品に、アーミルは制作、監督、出演といった形で関わった。「Taare Zameen Par」は、ディスレクシア(識字障害)の小学生が芸術面での才能を開花させていく話、「3 Idiots」は詰込み式の大学工学教育に対して、実技の必要性を強調した作品だ。ボリウッド映画で何がお薦めかと聞かれれば、これらの一連のアーミル出演作を挙げる。多少はコメディタッチでお決まりのダンスがあったりもするが、作品を通じて聴衆に何を伝えたいのかは、ヒンディー語がわからなくても十分に理解できると思う。

そんなアーミルがテレビショーに進出した。毎週日曜午前11時から放送された1時間番組「Satyamev Jayate(真実だけがものを言う)」第1クールは、13回の放送で、8月中旬のスペシャル番組をもってひとまず終了した。扱われたテーマは、家庭内暴力やお金をかけ過ぎのインドの結婚式、女児堕胎、カーストなど、ある意味インドの触れられたくないタブーともいえる問題を取り上げている。日曜のお昼前に視聴率を取れる番組を放映し、番組後の昼食で家族の間で考えてもらおうという意図で、アーミルがこだわったのがこの放送時間であったという。

ご参考までに、女児堕胎を取り上げた第6回の番組の雰囲気を下記にご紹介しておきたい。出演者の話を聴きながら、会場の観客もアーミル自身も時に涙を流し、時に怒りを露わにする様子がよくわかる。


こうしたアーミルのアプローチには批判的な意見もある。「映画俳優は夢を売る仕事。映画館に来てくれる人々は、日常の現実を一時でも忘れたくて来ているのであって、わざわざ金払ってまで現実を見せられるのはどうか」というものだ。記事ではカバーされていないが、アミターブ・バッチャンは「スラムドッグ$ミリオネア」に対してそのような批判的なコメントを流していた。多くのボリウッド俳優は、こうしたイシューには敢えて言及を避けている。

映画出演で得た影響力をどのように使うのかは、その俳優ひとりひとりの考え方にもよる。個人的なことを言わせてもらえば、YouTubeの番組動画を見てもヒンディー語があまり理解できず、インドに長期滞在できずリアルタイムでテレビ番組をみることがかなわない僕にとっては、ディテールが理解しづらいテレビのインタビュー番組よりは、映画を沢山制作してほしいと思う。後で英語キャプション付きのDVD入手できるし…。

インド、ネパール出張から今朝戻ってまいりました。どれくらいの頻度でブログ更新できるかわかりませんが、引き続き宜しくお願いします。
タグ:ボリウッド
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