『玉村警部補の災難』 [海堂尊]
内容紹介はじめにお知らせですが、ちょっと「マイカテゴリー」をリニューアルして、比較的よく作品を読んでいる作家については、マイカテゴリーから検索がしやすいようにしてみました。本日のところは、「朝井リョウ」「池井戸潤」「奥田英朗」「海堂尊」などです。
田口&白鳥シリーズでおなじみの、桜宮市警察署の玉村警部補とキレ者・加納警視正が活躍する、ミステリー短編集です。ずさんな検死体制の盲点を突く「東京都二十三区内外殺人事件」、密室空間で起きた不可能犯罪に挑む「青空迷宮」、最新の科学鑑定に切り込んだ「四兆七千億分の一の憂鬱」、闇の歯医者を描く「エナメルの証言」――2007年より『このミステリーがすごい! 』に掲載してきた4編をまとめた、著者初の短編集です。
実際、この作業をやってみると、インド駐在時代の職場の同僚から薦められて読み始めた海堂作品も、気付いたら17冊も読んでいたことになるのに気付かされた。僕は基本的に小説は図書館で借りて読むようにしているので、人気のある作家の新作はなかなか読むことができないが、たまたま書架で読んでない作品を見つけた時には、何をおいてもとにかく最優先で借りることを心がけている。一期一会というか、ここを逃したらすぐにまた読めるかどうかわからないし…。
このところ、比較的新しい海堂作品を2冊続けてゲットすることができた。小説なので、通勤時間か寝る前のひととき、それと、これを書いたら図書館の関係者の方々からお叱りを受けること必至だが、朝風呂派の僕は、湯ぶねの4/5程度を蓋で覆った状態でテーブル代わりにして、ぬるめのお湯に浸かりながら30分程度の読書をしたり、出勤前のトイレでのお籠りに小説を持ち込んで読んだりしている。(本当にゴメンナサイ!)先週末に近所のコミセン図書室で借りた本だが、こんな調子で読む時間を作ったら、2日程度で読み終わった。
桜宮市警察署の玉村警部補が警察庁の加納警視正と事件解決に活躍するお話と紹介はされているけれど、この2人の関係は、東城大学附属病院の田口医師と厚生労働省の白鳥との関係に似ており、要は前者は後者に振り回されてばかりいるということだ。田口医師(グッチー)に同情的な読者であれば、玉村警部補(タマちゃん)に対してもある程度は同情的であろう。ただ、本書に収録されている4件の事件ファイルを通しで眺めてみると、本書の本当の主人公は加納警視正だとしか言いようがない。タマちゃんは、結局加納に振り回されて不幸のどん底に叩き落とされてばかりいるという設定になっている。
それがいいという人にとってはいいと思う。純粋にミステリーとして考えたとしても面白い作品ばかりだったし、実際にはそういう「裏の世界」も結構ありそうだと思うと背筋がゾッともした。しかし、ふと疑問もわいた。加納警視正の東城は『ナイチンゲールの沈黙』からだったと思うが、この当時の加納が電子機器オタクだったという印象はあるが、本書で描かれているほど猪突猛進型で周囲を巻き込んで大騒ぎをするようなアクの強いキャラだったという記憶はない。僕がちゃんと「桜宮サーガ」を理解していないだけかもしれないが。
グッチーとタマちゃんの冒頭の会話はいいとしても、できればエピローグのところにも一節欲しかった。結局のところ、この本は「このミステリーがすごい」の第1回大賞受賞作家として、毎年著者が「このミス」に寄稿してきた短編ミステリーを繋げただけなのだ。それに冒頭でのグッチーとタマちゃんの僚友あい慰め合う会話があり、4篇の幕間に短い会話が挿入されている。4件の事件ファイルに改めて目を通しながら、加納から押し付けられた宿題のレポートをどうまとめるのかに玉村は腐心しているのである。これだけの難事件の真相究明でそれなりの実績をあげているにもかかわらず、警察庁では加納のパフォーマンスが良くないと考えているらしい。でも、どうしてそう思われるのかがあまりよくわからなかったし、実際こ4件の事件ファイルを改めて分析してみた結果として、いや加納警視正はこれだけ実績をあげておられるのですという実証が最後になされなければいけないが(それが玉村に課せられた宿題であるから)、それをどのようなロジックで行うのか、どうこじつけるのかが最後に書かれていても良かったのではないかと思う。
そういう意味では、最後をもうちょっと工夫して欲しかった作品である。
これから読もうとしていた本です。
非常に参考になりました。
by こっちゃん (2012-08-22 16:13)