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『国づくり人づくりのコンシエルジュ』 [読書日記]

国づくり人づくりのコンシエルジュ―こんな土木技術者がいる

国づくり人づくりのコンシエルジュ―こんな土木技術者がいる

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 土木学会
  • 発売日: 2008/06
  • メディア: 単行本
シビル・エンジニアとはなんと魅力的な人間だろうか―――。
世界の国々で「土木」を創ってきた男たちが、次の世代に手渡すメッセージ
あまり我が子に自分の期待を押し付けてはいけないのはわかっているが、本音のところでは、僕のような文系人間が事務系の仕事につくようなパターンではなく、ちゃんとした技術や技能を身に付けて欲しいものだと常日頃から思っている。3年ほど前のブログの記事で、我が子に医師か看護師になってくれないかなということも書いた記憶があるが、それもあくまで実学修得の選択肢の1つである。だからといってイラストレーターが食っていける仕事なのかどうかはよくわからないが(苦笑)。ガンオタの息子が将来ロボット工学や宇宙工学の道にすんなりと進むとはあまり思っていないが、エンジニアは目指して欲しい。ガツガツ商売やって欲しいとは思わないが、せめて、人と社会の役に立つ技術の開発には携わって欲しい。そのためには、大学も文系ではなく、ちゃんとしたエンジニアリングを学ぶ工学系に進んで欲しい。

元々本書はそういう目的で読み始めたわけではないが、我が子にも本書を読ませてみて、シビルエンジニアという仕事に対して、我が子がどのような感想を持ったか聞いてみたいものだと思った。ダムにしても、道路にしても、橋梁にしても、シビルエンジニアが関わる土木案件はどれも一様ではない。ひとつひとつがそれぞれ異なる特徴を持ち、異なる地理的条件、経済社会条件の中で造られていく。だから、シビルエンジニアは多くの仕事を手掛けることでその経験と技術に磨きがかかってくる。そういう人間として成長できるプロセスがある仕事について欲しいと我が子には期待する。間違っても、慣れてしまったら定型の業務ばかりで人間的成長を期待できない事務職には就かないでほしい。

さて、元々本書は別の目的があって読み始めた。そちらの目的の方は達成できたと思えるほど多くの情報を得られたわけではないものの、先の感想で述べたように、紹介されている7人のシビル・エンジニアたちは、魅力的な人ばかりだ。国内国外を問わず土木作業現場を渡り歩き、設計、施工管理に携わる。特に海外の場合、経験と技能の乏しい地元の土木作業員を、建設工事を通じて育てていかなければならない。ビジネスライクな表層的人間関係や単なる命令する者される者の上下関係とは異なり、ともに苦労を分かち合い、成功を喜び合う、血の通った連帯感がそこにはある。陳腐な言葉は使いたくないが、こういうところにも「絆(KIZNA)」が生まれているのだ。

本書から幾つか含蓄のある記述を拾ってみよう―――。

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海外で仕事をするには、まず日本語と日本文章を正しく使えることが第一条件です。日本語でしっかり表現できる能力がなければ、異なる言語で相手に自分の気持ちを伝えることができません。ですから日本で活躍できる人は海外でも活躍できます。言葉が不自由でも心は伝わります。相手は、言葉で人を見ず心で人を見るのです」―――語学力を否定しているわけではない。英語やその国の言語に堪能であることに越したことはない。でも言葉が、誠意や熱意を上回る力を持っていないことを、加藤は長い海外経験で痛感してきた。(p.17)

「海外に向いている人と向いていない人との明確な違いなどないけれど、海外で仕事をしてみたいと思う人は、それだけですでに海外に向いている人です。ある商社が海外勤務に適した性格を見る目安として、社内や学内に友人が多い人、知らない町を散歩するのが好きな人、喜怒哀楽を率直に出せる人、をあげていますが、的を射ているかもしれない。(中略)でもいちばん大切なのは、感性の鋭さです。人、モノ、自然の愛情や変化を敏感に感じ取れる感性が、国境や民族を越えた視線や真心を創り出すのです」(pp.18-19)

海外の土木工事の魅力は、ゼロからもの造りを体験できることです。日本ではどの分野にも専門工事業者がおり、電話1本の指示で工事が進行する。でも海外では全て自分でアレンジしなければならない。それだけに現場に対する愛着も、無事に竣工した時の喜びも大きい。工事のスケールが非常に大きいことも魅力の1つです。プロジェクトマネージャーには大きな権限が与えられ、当然責任も重い。でもそれが土木技術者の醍醐味でもあるのです。さまざまな国の人たちと一緒に仕事することによって、国境や文化を越えた連帯や友情を実感できるのも海外だからこそであり、技術的な蓄積だけでなく、かけがえのない心の財産となる」(pp.47-48)

〈アメリカの(援助の)最も大きな欠陥はそれが常に戦争と同時に行なわれているという点でしょう。(略)アメリカ人がヒューマニズムの発露からの援助を行う時にも多くの弊害を生み出していると思われます。あのホエイサイの慈善病院(ラオス)でも、あれ自体素晴らしい行為に違いありません。しかしそのすぐ前にアメリカの造った軍事目的の飛行場があると云う事実は、善意のアメリカ人にとって非常に悲しむべきことなのです〉(p.65)
 
 アジアの空と土と人に直接触れて帰国した吉田は、サルトルの「飢えた子を前に何ができるか」の問いに、もう迷うことがなかった。
 「答は、食糧を生産する手段を提供することだった。それをできるのは農学か工学であり、文明工学とも呼ばれる土木工学の技術者になれば、アジアの開発に最も貢献できると考えた」(p.67)

佐藤が長年掲げているコンサルタントのモットーは、「責任」「柔軟性」「何か新しいことを」「現場主義」の4つである。その言葉の中にコンサルティング・エンジニアが要求されている資質と使命が凝縮されている。コンサルティング・エンジニアの職能を鋭く衝いている。(p.87)

『情報は発信者が得をする』「社内外の人脈、社内資料は貴重かつ無料の宝。人脈を広げるコツは、自分の持っている情報を発信することにある。情報を出し惜しみすると、入ってくる情報も少なくなる。情報というのは発信者が最終的に得をする不思議な要素を秘めている。SSIMPで初めてダムの施工監理をすることになった時には、社内にあるダム施工監理事例の資料を漁り、良いとこ取りをして自分なりの施工監理計画を立て、社内の人脈をフルに活用して、予定工期を短縮して無事にダムを完成させた。(p.99)

 国際プロジェクトは入札の国際化だけでなく、人材の国際化、技術の国際化の舞台であり、そのネットワークやステージで活躍していくには、技術者個人の存在感を示していくことが必要になってくる。これまで組織で動いてきた日本人技術者が転機に立っている。
 日本の土木技術者には、国内プロジェクトと海外プロジェクトを異次元のものと捉える意識があった。現在もその発想を払拭しきれずにいる。一方、世界の土木技術者たちは、地球上のプロジェクトは全て自分の能力を発揮できる舞台であると捉え、飛び回っているのだ。(pp.116-117)

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本書で紹介されたコンサルタントは最大級の評価を受けた業界の第一人者ばかりだ。その経歴と実績は輝かしいが、時代背景が違うので、これから土木工学を志す者にとって、同じようなキャリアパスを歩めるかどうかはわからない。ODA予算もかなり減っているし、それがコンサルタント業界にもシワ寄せが行き、1つの案件を受注してもその中で若手コンサルタントを育成するような余裕は徐々に失われてきているのも事実だ。

それでも僕は思う。実学を身につけることが身を助けると。巷には多くのビジネス書、自己啓発書が溢れている、自分の隠れた能力をいかに引き出すか、ビジネスで成功を収めるにはどうしたらいいか、残業せず定時に退社するにはどうしたらいいのか、著者の体験に基づいて多くの見解が述べられている。まるで、今まで目一杯頑張ってきた人に、さらに頑張るにはどこをどうしたらいいのかを示しているようでもあり、絶対量が決まっている仕事を、要領よく他人にやらせるにはどうしたらいいのかを示しているようでもある。でも、そういうのには違和感を禁じ得ない。必要あれば徹夜して頑張る時があってもいい、時に失敗があってもいい、試行錯誤を繰り返しながらも、少しずつでも前進していき、成功のあかつきには達成感を味わうことができる、そんな仕事を我が子には見つけて欲しい。

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