SSブログ

『オーガニックコットン物語』 [シルク・コットン]

オーガニックコットン物語

オーガニックコットン物語

  • 作者: 宮崎 道男
  • 出版社/メーカー: コモンズ
  • 発売日: 2010/04
  • メディア: 単行本

著者の宮崎です。恥ずかしながら評価に5星をつけてしまいました。「オーガニックコットン」という言葉は、かなり浸透しているようですが、詳しい内容については、ほとんど認識されていません。一般的にも農薬を使わないからエコロジーにいい、安全で健康にいい位の認識だと思います。実は、オーガニックコットンの背景には、現代と言う資本の論理で動く特異な時代にある不都合を元に戻そう、変えてゆこうというはっきりした意思があります。著者自身1973年にアメリカからこのオーガニックコットンを持ち帰り普及活動をしてきましたが、オーガニックコットンがもつテーマはこれからの未来に向けてみんなが幸せになる、あるべき姿を見せていると考えています。この本を読んで頂き、どうぞ健康で平和な時代を担うお気持ちを高めていただけたら嬉しいす。(Amazonでの著者コメント)
今週、ブログ更新が滞ってしまい申し訳ありません。(なんて、謝る必要があるのだろうか…。)仕事が猛烈に忙しく、月曜から金曜まで、ブログ更新に充てる時間がありませんでした。極限まで生活時間の無駄を省いて(最低4~5時間の睡眠時間は確保して)、仕事に充てたらこうなるだろう…という生活を送ってきました。今朝(18日)は今週初めて自宅に仕事を持ち帰っていない早朝となったので、1つぐらい記事アップしようと思ってPCに向かったところです。

本書は、GW中に駅前の市立図書館で借りて、早々に読み終えてしまった1冊である。僕が自分の読書記録を管理するために利用している「読書メーター」で、2009年6月の記録開始以来、通算500冊目の読了書籍となったのがこの1冊だ。(だからといって何もお祝いはしていないが…。)

インド駐在時代にフェリシモの「PEACE BY PEACEコットンプロジェクト」(PBP)というのの立ち上げに関与した経緯があって、僕はインド産オーガニックコットンについてまんざら知らないわけでもないが、コットンについてちゃんと知らないという自覚が常にあり、いつかコットンについてちゃんと勉強しようという思っていた。本書は、そういう事情から細々と始めたコットン関連書籍の読み込み第1弾である。

著者が宣伝しているように、オーガニックコットンについては名前はよく知られているがその実態についてはちゃんと理解されていない。ひとえに「オーガニック」と言っても、その「オーガニック性」を管理し保証するためには、関係者の間で大変な努力を必要とする。例えば、自分の農園ではオーガニック栽培が行なわれていたとしても、隣りにノーマルコットンを栽培する農家があったりすると、花粉が飛んできてノーマルコットンの花粉がオーガニックコットンに受粉してしまうことがある。似たことはジン工場(種除去)でも起きうる。オーガニックとノーマルとを交互にジニングしているような工場では、やはりオーガニックにノーマルコットンが混入するようなことが起こりかねない。同様に、自分は在来種子でオーガニック栽培をしていても、近隣に遺伝子組み換え種子(GM種子)で栽培している農家があれば、GMが混入してしまう恐れがある。綿毛は軽くて飛びやすいということを、本書で初めて理解できた気がする。

しかも、こうした混入のリスクを、コットン原料を調達した側がどう判断するのか―――100%オーガニックが保証できない場合、それでもその原料を用いて綿布を作って製品加工して「オーガニックだ」と言って商品販売するのか、或いは100%が保証できないなら「オーガニック」ではないとして、商品への加工・販売は中止するのか、そのあたりの判断は、仕入れる側のモラルが問われるところである。著者はそういう経験を何度もしてきているので、語られるエピソードがとてもリアルで、説得力がある。

世間一般にある「オーガニック」商品への誤解についても具体的に述べている。
東京・新宿にある大手デパートの売り場に行き、客を装って販売員に尋ねました。
「オーガニックコットンって、なんですか?」
「このTシャツのように、草や花など自然の柄がデザインされたものをオーガニックコットンと呼びます」
(中略)
また、ありえないような低価格で売られているスーパーやデパートもありました。たとえば、オーガニックコットン製のTシャツは当時2900円が相場でしたが、1500~1800円で売られていたのです(認証ラベルはなし)。8000~1万円のパジャマが2500円で売られていたケースもありました。(pp.49-50)
オーガニック栽培は、疾病対策や害虫駆除、土壌管理等で手間がかかるため、単位収量当たりの生産コストは通常高くなる。そのために20~30%のプレミアム付きで取引され、それが生産農家のインセンティブになっている。だから、オーガニックコットン製品がノーマルコットンの製品よりも安く売られること自体が考えられない。(この話は他のオーガニック食材にもかなり当てはまると思う。)

加えて、本書ではインドのビオレ(Bio-Re)プロジェクトのことに若干触れられていて、その部分は参考になった。インドに駐在していた時からビオレのことは知っていたが、スイスの民間団体が主導していたプロジェクトだが、2009年当時は既に終了していたと記憶している。プロジェクトとしてはそうだが、既に生産チェーンとしては確立されているということなのだろうか。いずれにしても、著者がビオレからオーガニックコットンを買い付けて日本で製品販売しているという、著者とインドとの関わりが知れて、良かったと思う。

ただ、「なぜGM種子がいけないか」の理由が述べられている章は、若干論理展開が散漫になっているような気がした。引用している事例がコットンではなく食用作物の話であったりして、そりゃ食べ物がGMだったらどんな健康被害が将来起こり得るかは想像もできず、リスクがないとは言えないだろうが、GM種子を原料に用いた衣料品が在来種種子を原料にした衣料品よりも肌触りが有意に違うとか、使用していて健康に影響があるとか、少なくとも消費者にとってはそういうことはないのではないかと思う。コットンならコットンを中心とした論理展開をして欲しかったところはある。

著者は「化学物質を使わないから着る人に快適」だという。オーガニックコットンとノーマルコットンを比較したらその点は確かに言えるのかもしれないし、そうした論拠となる事例が多く本書では紹介されていると思う。ただ、GM種子の使用とオーガニック栽培とはイコールではない。GM種子を使ってオーガニック栽培を行った場合と比べて、在来種子を使ってオーガニック栽培を行った場合も「着る人に快適」と言い切れるのだろうか。(勿論、オーガニックコットンを推進している関係者は、GM種子にも反対の立場をとっておられる方が圧倒的に多く、著者もそんな1人なのだが。)

いずれにせよ頁数としては薄いがとても勉強になる本である。と同時に、もし僕達がPBPコットンプロジェクトの立ち上げに至るまでのストーリーと実際の現場のコットン栽培農家や地域の人々の生活の様子などを紹介した本を書こうと思ったら、コモンズのような出版社に原稿を持ち込んでみるのは1つの手だなとも思った。

ちなみに、文中言及したフェリシモのPBPコットンプロジェクトについては、今月号の女性月刊誌LEEでも紹介されているので、是非買ってご笑覧下さい。(買わなくても、図書館で立ち読みしてね!)

LEE (リー) 2012年 06月号 [雑誌]

LEE (リー) 2012年 06月号 [雑誌]

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2012/05/07
  • メディア: 雑誌


nice!(3)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 1

宇宙恐竜ゼットン

丁度ベトナム航空の機内誌「HERITAGE」の、本誌ではなくファッション誌の方の5~6月号に、ベトナムのホイアンにブティックを持つフランス人デザイナーのインタビュー記事があり、オーガニックコットンを使いたいが、ベトナムでは難しいとの話が掲載されていました。
エコ指向のブランドで、現在はGOTS認証を受けた南インドの生産者から原料を買って、ベトナムで加工し、Organic Exchange standardsの認証を受けて販売しているそうです。
ベトナムにはそもそも綿花がないので、インドのオーガニックコットンに頼る状態が続くのでしょう。
by 宇宙恐竜ゼットン (2012-05-22 14:57) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0