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『人生教習所』 [読書日記]

人生教習所 (2011-09-30T00:00:00.000)

人生教習所 (2011-09-30T00:00:00.000)

  • 作者: 垣根 涼介
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2011/09/30
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
ひきこもりの休学中東大生、南米へ逃亡していた元ヤクザ、何をやってもダメな女性フリーライターなど―人生に落ちこぼれた人間たちが目にした「人間再生セミナー 小笠原塾」の募集広告。錚々たる団体・企業が後援し、最終合格者には100%就職斡旋。一体、主催者の目的は何なのか?遙かなる小笠原諸島で、彼らを待ち受けていたのは、自分たちが知らなかった日本と世界、そして美しい自然。今、彼らの中の「なにか」が変わりはじめた…。清々しい読後感へと誘う物語。
近所のコミセン図書室で本を借りる時には、最低1冊は小説を含めることにしている。最近専門書や洋書を読む機会が多いので、たまに読書に集中できないことがある。そういう時には活字からいったん離れるのも一案なのだが、逆に読みやすい小説を一気に読んでしまうのも僕の常套手段である。

垣根涼介の作品は今まで読んだこともなく、単に冒頭の内容紹介にもあるような図書の「帯」に興味を惹かれて借りてしまったに過ぎない。ページ数が相当多いが、スラスラと読めるのでページ数が気になるということはなかった。

それにしても、不思議な小説だった。これはどういう目的で書かれたものなのだろうか。世界遺産として今ある自然の姿が礼讃される小笠原の、僕らが知らない話がたくさん登場する。島の商業地域での飲食や島内散策で訪れる観光ポイントの紹介などがふんだんに取り上げられている。小笠原諸島が一時は米カリフォルニア州の一部でもあったという歴史的経緯や、そのために1968年に日本に返還された際、島の学校を卒業してグアムや米本土の高校や大学に既に進んでいた子息は米国籍を選び、まだ小中学生だった弟妹は両親とともに日本人になったという話は、今まで考えたこともなかった。国籍が変わることで家族が股裂きになるという事態は想像できなかった。

また、今島で見られる地形や自然の姿に至った経緯――例えば島内の森林に外来樹種が増えて原生林を侵食している話とか、周辺の小島に食用にヤギを放牧させておいたら、ヤギが増え過ぎて島内の草木を食べ尽くしてしまい、それでかえってヤギが飢えて頭数が減ってしまったという事態がここでも起っていたとか、さらには、島に住む人々が、昔から住む欧州系の日本人の子孫だったり、小笠原の自然に魅せられて本土から移り住んできた人々だったり、果ては離婚してもそのまま島内に住んでいたり、そういう住民の人口構成が今の状態に至った経緯とか、そういうのは短期訪問ではとうてい気付かない島の現実だろう。

本書は小説という形をとりながら、実際には小笠原の現実を読者に広く知ってもらうために書かれたのではないだろうか。人間啓発セミナーの有効性については甚だ疑問だが、小説としても楽しく読めた。


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宇宙恐竜ゼットン

お節介な突っ込みですが…
「コモンズの悲劇」って、そういう意味ではないと思いますが…
by 宇宙恐竜ゼットン (2012-04-26 15:51) 

Sanchai

ご指摘ありがとうございます。確かに不用意に使っています。
あとで修正したいと思います。

が、今後はできればこの種の指摘は直接メールでお願いします。
by Sanchai (2012-04-26 20:33) 

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