『星やどりの声』 [朝井リョウ]
内容(「BOOK」データベースより)僕の高校の後輩、朝井リョウ君の作品。朝井君お得意の連作短編の手法を採用しているが、各短編が6人兄弟の誰かの視点から描かれていて、しかもストーリーが1つの方向に収束していくので、とても読みやすかった。『チア男子!』を読んだ時に感想で述べたような、「誰の視点なのか時々わからなくなる」というような問題は、短編集なのであまり感じなかった。
星になったお父さんが残してくれたもの―喫茶店、ビーフシチュー、星型の天窓、絆、葛藤―そして奇跡。東京ではない海の見える町。三男三女母ひとりの早坂家は、純喫茶「星やどり」を営んでいた。家族それぞれが、悩みや葛藤を抱えながらも、母の作るビーフシチューのやさしい香りに包まれた、おだやかな毎日を過ごしていたが…。
こういう大家族を主人公にした小説とかテレビドラマとかアニメとかは、僕らの小学校時代にはよくあった。しかし、今のような少子高齢化の世の中では、それはものすごく奇異な設定に思える。がんで亡くならずに生きていたら今の僕ぐらいの年齢である筈の父が、建築家のようなお仕事でよく6人も子供をもうけたものだと感心する。さらに下らない突っ込みを入れるなら、長女、長男までは許せるとしても、次が双子の姉妹だったという時点で「打ち止め」にせず、さらにその下に2人の子供をもうけている。そんな財力や気力、どこから生まれてきたのだろうか。しかも、本書には祖父母というのは登場しない。つまり、残された6人の兄弟とその母、そして近所に住んでいる伯父が登場するぐらいなのである。大学を出て早々に結婚してしまった長女はともかくとして、あとの5人を育てるにはカネも時間もかかる。それが純喫茶の経営だけで暮らしていけるとは正直思えない。
読者としての僕の年齢が作品中の6人兄弟の父親や母親に近いということもあり、読みながらどうしても父親や母親の行動が気になってしまった。母がファミレスで会っていたスーツ姿の男性がどういう人だったのかを、子供達に問い詰められた時になぜすぐに答えなかったのかとか、がん発症がわかって入院する前夜に、なぜ父は娘たちの寝室を訪れ、子供ひとりひとりに心の中でではなく声を出して語りかけたのか(目を覚ますことは考えなかったのか)とか、同じ状況に身を置いたら僕ならやらないようなことが話の中で出てくる。
そんなところをいちいち突っ込んでいてはきりがないが、若い読者ならこういうお話には憧れることは間違いない。そして、こういう話に騙されて(?)、結婚して6人とは言わないけれど2、3人子供をもうけてくれたらいい。本書の結末が示唆する通り、現実はそれほど甘くはない。甘くはないけれど、夢は見させくれて、少しばかり安らぐ気持ちにさせてくれる作品だ。それにこれは強調しておきたい。一人っ子ではなく兄弟が何人かいれば、お互いに助け合ったり対立したり、駆け引きを繰り広げたり、かまってもらおうと親にアピールしたり、コミュニケーションは豊かになる。その点は、3人の子持ちの僕がとても共感するところである。フィクションなのだから大半の状況設定はありえなくても許せるが、この1点については真実だ。家の中での豊かなコミュニケーションを通じて育った子供達なら、きっといい大人になっていくだろう。
これは、江ノ電の七里ガ浜駅あたりが舞台の作品なのかな?ちょっと行ってみたくなった。モデルになったようなお店が、そこにはあるのだろうか。
*朝井リョウ著『桐島、部活やめるってよ』が映画化されるらしい。2012年8月公開とか。「桐島」は当然、登場しないが。
http://www.kirishima-movie.com/index.html
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