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移民と開発の交差点 [外国人労働者]

The Migration-Development Nexus: A Transnational Perspective (Migration, Diasporas and Citizenship)

The Migration-Development Nexus: A Transnational Perspective (Migration, Diasporas and Citizenship)

  • Thomas Faist, Margit Fauser, Peter Kivisto eds.:
  • 出版社/メーカー: Palgrave Macmillan
  • 発売日: 2011/06/15
  • メディア: ハードカバー
内容説明
本書は、国際問題研究に移民と開発という視点を導入して新たなアジェンダを提案しようというものである。移民と開発を軸に現在行なわれている政策議論を検証し、国をまたぐというレンズを通じて厳しい概念的批判を試みる。著者は移民が開発のエージェントであるとする現代の再発見を、歴史的見地から捉え、労働移動や難民をテーマに詳細な事例分析を提示するとともに、社会学、政治学、社会人類学、地理学、政治経済学といった領域における概念と理論に政策論争を繋げようという試みを展開する。こうした取組みを通じて、国をまたいで活動する新たな開発エージェントがどのように構成され、どのように行動するかを、マクロで起っている社会構造変革と関連付けようとする。
「Migration」という言葉は日本語に訳しにくい。「移住」、「移民」というとかなり限定的な定義になってしまうし、「労働移動」というのもしっくり来ない。「人の移動」というのが本当は最も近いような気がするけれど、それだと日本語にした時になんだかのっぺりした表現になってしまうような気がする。最近は「ディアスポラ」という表現もそのまま日本語で使われるようになったが、これも適当な日本語訳がないからで、しかも「ディアスポラ」と「Migration」はイコールではない。

だから結局、「国境をまたぐ人の移動」を総称して「Migration」という言葉をそのまま用いてみたいと思う。

本書の紹介のところでも述べた通り、今日、開発の主体・エージェントとしてのmigrationに対する関心が高まっている。2000年代に入って注目されているのはmigrationに伴い生じる「外国送金」が、外国援助(ODA)資金に比べても馬鹿にならない規模で先進国から途上国に流れ込んでいるからである。しかも、援助国の景気動向に影響を受けやすいODA資金と違い、外国送金は移民受入国の景気動向にあまり左右されず、堅調に途上国に流入し続けている。

送金を巡る最近の議論では、送金は、被仕向国の貧困削減やローカルビジネス、インフラ投資等に活用され、開発に貢献する大きな潜在性を持っていると評価し、さらに送金に伴い、先進国から途上国に技術や知識、その他の社会的規範や価値観、アイデアといったものが伝播するという側面も重要だという。さらに、一時的な労働人口移動が望ましいとも見られている。

さらにmigrationと開発の関係性に関する論調を見ると、最初に活発に議論された1950~60年代は、ホスト国側の労働人口不足を埋めるという一時的な労働需給調整を評価する声が大きかったという。当然、ホスト国の景気動向が悪化すれば、今度は外国人労働者をレイオフして本国に帰すようなことが考えられていた。
第2期は1970~80年代で、この時期には送出国側の低開発がプッシュ要因となり、優秀な人材が先進国に流出してしまうという「頭脳流出」の問題が大きく取り上げられた。

勿論、1960年代の移民の中には、本国政府の政策に抵抗して国を出た者も多い。冷戦期はディアスポラがホスト国を拠点として行なう本国の反政府活動をホスト国が支援することもあった。

そして現在の議論はmigrationがもたらす国境をまたいだ資源の循環を評価する声が強まっているという。現在は、仮に移動した人々がすぐに帰還しなかったとしても、出身国に貢献する可能性があると考える。ホスト国でこうした人々が形成する移民コミュニティやディアスポラが開発エージェントと認識されており、さまざまな越境ネットワークも形成されている。ディアスポラは、出身国の紛争後の再建、平和構築や民主化推進を支援する重要なアクターとして認識されているという。

経済的インパクトは労働人口受入国にはプラスだが、送出国にとってどうなのかは明確ではない。Migrationと開発に関する先行研究では、ホスト国側からの見方が多く、送出する途上国側の見方も踏まえた包括的アプローチはまだまだこれからの課題だという。

取りあえず、以上は本書の以下の章を読んでのポイントである。

Chapter 1
"The Migration-Development Nexus: Toward a Transnational Perspective"
Thomas Faist and Margit Fauser

Chapter 3
"The Dialectic between Uneven Development and Forced Migration: Toward a Political Economy Framework" Raul Delgado Wise and Humberto Marques Covarrubias

Chapter 5
"Diasporas, Recovery and Development in Conflict-ridden Societies"
Nicholas Van Hear

僕は実は大学卒業時にmigrationが送出国(本国)と受入国(ホスト国)の双方に及ぼすと思われる影響について整理したゼミレポートを書いて提出したことがある。その時のおぼろげな記憶で言うと、移動した人々がそのままホスト国にとどまるのか、あるいはそれが一時的なものですぐに本国に帰るのか、ホスト国にとどまるとしたらどれくらいの期間か、どのような年齢層の人々が主に移動するのか、単身なのか家族同伴なのか、といった条件によって、影響の生じ方が違うというようなことを但し書きで書いていた記憶がある。それに、送金にしても、移動する時に仲介者に相当な手数料を払わなければいけなかったとしたら、送金で誰が恩恵を得るのかも変わってくる。

このように、migrationは扱う事例によって影響の受け方が大きく異なるため、一般化した分析がしづらいのではないかと思う。難しいですね。

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