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『峠うどん物語』(上・下) [重松清]

峠うどん物語(上)

峠うどん物語(上)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/19
  • メディア: 単行本

峠うどん物語(下)

峠うどん物語(下)

  • 作者: 重松 清
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2011/08/31
  • メディア: 単行本

内容(「BOOK」データベースより)
中学二年生のよっちゃんは、祖父母が営むうどん屋『峠うどん』を手伝っていた。『峠うどん』のお手伝いが、わたしは好きだ。どこが。どんなふうに。自分でも知りたいから、こんなに必死に、汗だくになってバス停まで走っているのだ。おじいちゃん、おばあちゃん、お父さん、お母さん。そして『峠うどん』の暖簾をくぐるたくさんの人たちが教えてくれる、命についてのこと―。
久し振りに重松清の作品を紹介する。既に高校入試は終わり、中学校は卒業式を迎えたところだというが、東京での中学高校受験にやたらと詳しくなった妻によると、重松作品は国語の入試問題でよく取り上げられるのだとのこと。森浩美じゃねーのと即座に反応した僕ではあるが、重松作品は中高生を読者層として狙って書かれているものがかなり多いので、さもありなんだ。ただ、読んでいた作品が入試で出題されたら即試験で有利かというとそういうものでもないような気がする。理想を言えば、重松作品を数冊読んで、その傾向を大づかみで把握しておくことがよいと思う。作品は幾つもあるけれど、そこで込められているメッセージは意外と共通していたりする。


本書は上下巻とも近所のコミセン図書室で借りて読んだ。去年8月の発刊だから意外と読み始めるのが遅かったが、それは1つには上巻が貸し出されていることが非常に多くて順番がまわって来なかったというのが大きい。それともう1つ白状すると、表紙とタイトルだけ見て想像していたのは『希望ヶ丘の人びと』のようなストーリーだったので、自分の中で読む優先度を意識的に下げていたということがある。『希望ヶ丘の人びと』は僕としては好きな部類に入る重松作品なのだが、今すぐ読まなければいけないものなのかというとそうでもない。半年近くが経過してほとぼりが冷めてきたからまあそろそろ読んでもいいかなという時期が到来したかなと思うが、8月発刊と同時に手にすることができたとしても、読み始めるには時間がかかったに違いない。

ところが、読んでみたら全然印象が違った。重松清には読者を泣かせる作品が多いと言われ、それがこの作家の作品を読もうとする読者の動機の1つともなっている。読者も小説を読んで素直に泣ける作品を求めているのだろう。しかし、「死」と向き合う当事者を中心に据えて作品が描かれると泣かせようという著者の意図が透けて見えるような気がして嫌な気分にもなる。残念ながら重松作品にはそういうのもあると思う。賛否両論あろうが、僕にとっては『カシオペアの丘で』は苦手な作品だった。

しかし、本書はそれを峠にできた葬儀場と通りを隔てて昔から店を営んでいるうどん屋という、適度な距離感をもって割と冷静に描いているのがよいと思う。上下巻を合わせると10篇が収録されている連作短編集だが、主人公の中学生・淑子とその両親、そして「峠うどん」を営む祖父母というコアな登場人物は変えず、さらに、短編毎に登場する人々も単発ではなく二度三度と登場させている。物語は中二の淑子が中三になり、卒業式を迎えるまでの出来事が時系列的に並べられており、読みやすくもなっていたと思う。

さて、葬儀場の向かいという微妙な立地にあるため、通夜や告別式に参列前または参列後に一度だけ立ち寄るという客が多いのがこのうどん屋の客層の特徴である。基本的に舞台はこのうどん屋を訪れる客と老夫婦、そして孫娘のやり取りが中心であり、葬儀の場面は意外にも殆ど登場しない。また、重松作品でお得意な癌によるゆっくりとした死とか、突然の交通事故、自殺、そして空襲や洪水災害など、毎回誰かの「死」が必ず登場するけれど、病室や事故現場などの「死」の現場を直接描いておらず、しかもさっきまで生きて喋っていた登場人物が死んでしまったというようなことも少ない。いわば、誰かしらの眼を通じて「死」が冷静に描かれており、そこに落ち着きを感じる。うどん屋のじいさんのように、殆どセリフがなく、その仕草や短いセリフで語る人がいると、これほど落ち着いた小説になるのかというのが新鮮だ。全体を通じて鍵となるこのおじいさんが寡黙な人物であることから、従来の重松作品と比べて情景描写が多いという印象だった。

泣かせる意図が見え見えだとかえって泣けないが、本書については上巻第1章からいきなり泣いた。この作品はおススメだと思う。


タグ:重松清
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