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アジア経済展望2011アップデート版 [少子高齢化]

Asian Development Outlook 2011: South-South Economic Links

Asian Development Outlook 2011: South-South Economic Links

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: Asian Development Bank
  • 発売日: 2011/05/31
  • メディア: ペーパーバック

昨年10月頃にダウンロードし、印刷までしてあった資料、2月に韓国に出張した際に帰りのフライトの機内でようやく読み、そしてそれからさらに1ヵ月以上経過して、ようやくブログでも紹介しようという気持ちになった。上に挙げたのはアジア開発銀行(ADB)が毎年4月に公表している「アジア経済展望(APO)」の2011年版で、これも新しい報告書が間もなく発表されるだろう。僕がダウンロードしたのは、APO2011年版のアップデート版で、昨年9月にADBが発表したものだ。各国別分析も含めた全文は、ADBの下記URLからダウンロードができる。
URL:http://beta.adb.org/publications/asian-development-outlook-2011-update-preparing-demographic-transition
内容紹介
 アジア経済展望年次報告「Asian Economic Outlook」は通常毎年4月に発表され、アジアの開発途上国経済パフォーマンスの分析と向こう2年間の経済見通しについて述べたアジア開発銀行の年次報告書である。そして、その半年後に公表される「アップデート」は、こうした予測が当たっているのかどうかをレビューし、予測と実際の乖離が生じた理由について分析し、その後18カ月の予測修正値を改めて公表するものである。
 2011年9月に発表されたアップデートでは、米国、欧州、日本の低調な経済パフォーマンスに比べ、向こう2年間、アジアの開発途上国が高い経済成長を持続するとみている。 アジア地域は堅調な国内需要と拡大基調の域内貿易に支えられる。インクルーシブな成長を実現するには、インフレ抑制が経済政策の鍵となってくる。
 こうした成長は高齢者にも裨益するものでなければならない。アジアの伝統的家族扶助ネットワークが弱まるにつれ、あまりにも多くの場合、 高齢者は置き去りにされてしまう。今後数十年間にわたり、高齢者は地域の人口の高い割合を占めるため、各国とも高齢者の経済的保障を確実なものとし、社会にとってより広い含意をもたらす政策を実行していかなければならない。

今回本書をご紹介したのは、このアップデート版の特集記事「人口学的変化に備える(Preparing for Demographic Transition)」にある。ADBの年次報告を毎年欠かさず読んでいるわけではないけれど、人口高齢化を取り上げて分析結果をADBが公表したのはこれが初めてではないかと思う。

この特集記事の内容を簡単に纏めてみよう。

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1)アジアの開発途上地域では人口転換が進んでいる。高齢化の速度は速く、しかもそのペースは加速している。

2)これまでの30年間、急成長を遂げてきた東アジアと東南アジアの経済は、成長を支える人口構造から大きな恩恵を受けてきた。これを「人口ボーナス」と呼ぶ。しかし、人口ボーナスは高齢化が進むにつれて徐々に少なくなっていき、時として「人口税(demographic tax)」と化すこともあり得る。アジア地域全体では、人口学的要因は経済成長の源としての重要性が低下していく。2011~2030年の期間、人口構造の1人当たり国民所得の成長率への貢献度は0.6%にまで低下する。

3)家族が伝統的に行なってきた高齢者への支援は劣化傾向にあるが、その一方で高齢者への公的所得移転システムは未整備である。

4)アジアの開発途上地域は今すぐ行動を起こし、将来の人口構成に今から備える必要がある。幸い、アジアの多くの国々は未だ比較的若いため、改革に必要な時間的猶予が多少残っており、かつ多くの国々では財政的ポジションが健全であるため、人口学的変化に対応するための資金的リソースの配分が行ないやすい。

5)アジアのより若い国々では、人口ボーナスが持続している間にそのボーナスを存分に享受しておかなければならない。積極的な労働市場政策と職業訓練プログラムを通じて、若い労働人口のために就職機会を十分に創出するための努力が求められる。

6)中程度ないし高度に高齢化が進んだ国々では、構造改革を進め、人口ボーナスの減少を相殺するような取組みが求められる。

7)アジアの開発途上地域、取り分け高齢化が進行している国々では、高齢者支援制度が重大な岐路に立たされている。政府は、国民年金、ヘルスケア、さらには社会保障制度全般を拡充していく必要がある。しかも、財政的持続可能性を確保した上で行なわれなければならない。

8)地域の人口学的多様性は、潜在的に地域橋梁と域内統合から得られる利益を最大化する可能性を秘めている。人口構成が若く、労働力が豊富な国々から、高齢者人口が多くて労働力が希少な国々へと労働者が移動することが容易になれば、老いた国々の労働力不足が解消し、若い国々の労働者に十分な雇用機会を提供することができる。

9)こうした課題を超えて、人口高齢化は新しい機会も生み出している。老いた国々では、退職時に備えて積み上がった貯蓄を金融セクター、tりわけ長期資本市場の発展を支え、他の域内諸国の収益性の高い投資機会で資金運用するのに活用することができる。

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上で挙げた8)と9)は、ADBが2007年頃に盛んに提唱していた「人口学的相互補完性(demographic complementarity)」に基づく論点で、若い国から老いた国への労働移動と、老いた国から若い国への資本移動が障壁もなくスムーズに行なわれれば、それによって地域全体が発展できるという楽観的な見通しだ。ただ、もう5年にもわたってADBはこの相互補完性を提唱している割に、個別具体的な事例分析の積み上げはまだあまり行なわれていないのではないかという気がする。人の移動や資本の移動を域内でもっとスケールアップさせるためには、どのような障壁が今も残っているのかを本書でももう少し論じて欲しかったが、相互補完性は最後の結論の部分で言及されているだけだったので、正直物足りなさを感じるレポートだった。

まあ、ブログでの紹介記事はこれくらいで。なぜこれを読んだかといえば、それが自分の研究にも繋がる重要参考文献だからである。特集記事の中には参考になる分析手法もあったのだが、理解するには相当な読み込みが必要だ。本来ならばこのレポートが公表された時点ですぐに読み込んで頭の整理をしておかなければならないところが、半年もかかってしまったところに今の僕の問題があるように思う。

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コメント 1

宇宙恐竜ゼットン

5)も6)も、言うは易し行うは難し、といった感じですね。結局気がついたら高齢化が進んでいて慌ててもどうにもできない某国の、二の舞三の舞が続出しそうですが…
by 宇宙恐竜ゼットン (2012-03-23 07:10) 

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