国際NGOの信頼度 [読書日記]
The Credibility of Transnational NGOs: When Virtue is Not Enough
- 編者: Peter A. Gourevith, David Lake and Janice G. Stein
- 出版社/メーカー: Cambridge University Press
- 発売日: 2012/01/12
- メディア: ペーパーバック
内容説明今日は、ケンブリッジ大学出版からまだ出たばかりの政治経済学系の本を紹介したい。勿論、全部読んだわけではない。こういう本では、中盤から後半の章は事例研究が並び、重要なことはたいてい最初の序論か第1章に書かれている。本日ご紹介するのは、本書の第1章をなす、共編者のうち2人、Peter GourevitchとDavid Lakeが書いた「Beyond Virtue: Evaluating and Enforcing the Credibility of Non-Government Organizations(美徳の向こうに:NGOの信頼度を評価し、高める)」から紹介してみたいと思う。
政府や営利企業の行動を倫理的見地からモニターし、官民アクターが行なわない多くの人道的活動を行なうNGOには信頼を寄せている。我々は官民両部門の失敗に対しては批判的であるが、彼らの果たす役割を一部担っているNGOへの信頼を省みることは少ない。NGOの製品ラベルにある「児童労働は使っていません」というのは本当にそうなのか、「フェアトレード」とラベルにあるコーヒーは本当に持続可能な方法で生産されているのか、NGOがモニターしている労働環境は本当に安全で賃金はリーズナブルなものなのか、我々はあまりこれを疑ったことはない。人道組織は実際に我々の寄付を人々の困窮を解消するために使い、それ以外の目的追求のために使っていないといえるのだろうか。本書は、労働条件や人権、選挙を監視し、マイクロファイナンス金融機関や開発援助、緊急援助を通じて資金提供を行なっているNGOの活動に信頼を構築するという重要な課題に取り組んだ1冊である。
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1)近年、人道支援などの分野で国際NGOの活動が活発化している。その活動形態はNGO自身が公表している報告書により知ることができるが、NGOの活動を直接観察することは不可能に近い。ただ一般的には責任ある行動が取られていると思われている。大概のNGOは十分な信頼性を保持していると考えられるが、規模が拡大するにつれて組織は官僚化し、NGOの違法行為も増大している可能性があり、NGOは信頼性を喪失するという脅威にさらされている。本稿におけるキーワードは「美徳(virtue)」である。美徳が不足していると外部から思われている時にはNGOは積極的にそれを補填、獲得しようと主体的行動をとるアクターである。自主的に透明性を高めたり、スタッフのプロ意識を高めたり、他のNGOと連携して相互チェックを行なったりして、信頼性があると見られているかどうかに非常に敏感である。
2)本稿では、国境を超えた社会変革に取り組む、他者の行動を監視するNGOや、人道援助を実施するNGO、苦しんでいる人々への支援を行なうNGO、具体的には人権擁護、選挙監視、児童労働反対運動などに関与するNGOを取り上げる。こうしたNGOは、彼ら自身の行動規範に従い活動している。他国で活動しているため、彼らの活動を直接観察することは困難である。特に、準拠すべき公的な法がない場合、NGOの信頼度は非常に大きな問題となる。フェアトレード・コーヒーのように、倫理的な行動というのは、法的な基準に依拠できないだけではなく、観察すること自体がしばしば困難である。例えば、最終的な製品を見ただけでそれが本当に倫理的な行動によって製造されたかどうかはわからない。
3)NGOの信頼度は、その主張が信じるに足りるものだと判断されるか、または聴衆に受け入れられた時に成立する。基本的にその主張が信じられるかどうかに依存している。その信頼性の起源は個人にあり、我々は有徳な個人や組織を信頼している。従って、組織が大きくなってくると、組織的な病理が表出するケースもある。
4)「共通利益」:また、聴衆がNGOとの間に「共通利益」を有していると認識すると信頼度は高まる。これはNGO側だけが考えればよい「美徳」とは異なり、聴衆との間で利害が一致しないと信頼度は高まらないし、聴衆が異なると利益が異なり、信頼度が低下することもある。
5)「コストのかかる努力」「虚偽に対するペナルティ」:NGOでは費用がかさむと思われる努力(取組み)をしていると見られるほど「信頼度」が高まる傾向がある。例えば、多くの報酬をもらうリーダーよりは、少ない報酬で働くリーダーのいるNGOの方が信頼性は高い。狭いオフィスを使用するNGOの方が信頼性は高い。大手のスポンサーとの関係性の悪化というリスクに直面しつつも自らの主張を守るNGO、自身の組織の失敗を公の場で認めることができるNGOほど自身の誠実さを示すことにもなり、信頼度は高い。自らの利益のために真実を偽っていることがバレた場合、そうしたNGOは、スポンサーを失うことやNGOコミュニティから締めだされるといったペナルティを受けることになる。
6)「外部検証」:NGOの主張が、外部から監査を受ける可能性が高ければ、そのNGOの信頼度は高い。組織内の手続や予算の透明性が高いほど、外部からの検証が容易であり、そうしたNGOはより信頼度の高い組織として見なされやすい。
7)「信頼を高める戦略」:NGOは受け身のアクターではなく、積極的にそのイメージや評判、組織機構、信頼性の向上に努めるアクターである。そうした信頼度を高める戦略としては、次の6つが考えられる。
①Promoting Bonds Around Shared Values
NGOは同じような価値を共有する聴衆との結びつきを強めようとする。エコツーリズムがその典型例。
②Adopting Autonomous Governance Structures
NGOは自らの倫理的な目的を実践するのに適切な、自立した統治機構を採用する。成功しているNGOの
多数は、非営利組織である。営利と倫理は必ずしも対立するものではないが、両者の間に緊張関係は存在
する。
③Increasing Transparency
資金源や税還付率といった財務情報を積極的に公表し、透明性を高める。成功した取組み事例についても、
定量的なデータを提示する。
④Professionalizing
内部運営規程、手続面の整備により、よりプロフェッショナルな組織形態にする。特に、外部からの約束を
しっかり果たせる組織であることを示す必要がある時には有効。
⑤Integrating into the Community of NGOs
関連するテーマを扱うNGOのコミュニティに参加する。こうしたコミュニティに参加しているNGOは、少なくとも
同じコミュニティに参加しているNGOからは十分な信頼を保持していると考えられている。1つの加盟NGOの
非倫理的行動がコミュニティ全体の信頼の低下に繋がる可能性があるからである。
⑥Expending Costly Effort in Other Field
自らの主要な活動でないことにコストがかかっていることに目に見えるような形で取り組むことで、信頼度の
向上に貢献する。
8)「NGOに対する聴衆の多様性」:NGOには異なる聴衆がおり、その間でバランスを取る必要がある。
①対象
NGOが目指す「社会変革」の対象がターゲット。例えば、選挙監視のNGOであれば、ターゲットは政府。
ターゲットとNGOの利害は度々対立する。しかし、NGOが活動するにはターゲットからの幾分かの協力が
なければ活動が成立しない。勿論、状況によってはターゲットから独立してNGOが活動を実施することも
可能である。
②スポンサー
スポンサーとNGOとの間にはプリンシパル・エージェント関係が成り立つ。スポンサーがなければNGOは
活動できないし、スポンサーが撤退すれば活動は停止せざるを得ない。数少ないスポンサーからの資金
拠出で成り立っているNGOは、スポンサーによるコントロールが及びやすく、他の聴衆からの信頼の確保が
難しくなる。逆にさまざまなスポンサーの資金により運営されるNGOでは、スポンサーの支配は及びにくく、
NGOの自立性が高まり、他の聴衆からも信頼が置かれるようになる。
③一般大衆
社会変革などを成し遂げる上で、NGOが利用しようとしている相手が一般大衆である。購買者や投票者、
ボランティアなどである。そのNGOに信用がなければ、一般大衆はNGOが期待したようには動かず、購入を
控えるような行動に繋がる。ターゲットとなる国の市民を動員することで、政府への圧力をかけることが
できる。
④他のNGO
他のNGOに認められ、NGOコミュニティに受け入れられることは信頼性を高める意味からも重要。
⑤外部検証
自国政府やマスメディアなど、NGOの活動や主張をチェックする外部検証者の役割にも注意。NGOに真摯
な活動を行なわせるという上では有用な聴衆である。
9)結論:現在世界で活動しているNGOは、その多寡にかかわらず聴衆(特にスポンサー)からの信頼を確保している。規模が小さく、特定の課題に特化するNGOは、自らの「美徳」を利用、もしくは共通利益のある支持者を惹き付けることで信頼度を高める。逆に、組織の透明性や外部検証、組織の自律性といった要因はあまり信頼度を高める上では重要ではない。組織の規模が大きくなるとコストのかかるシグナルを発することが、信頼度の向上には重要となる。透明性、自律性を高め、プロフェッショナルな集団になっていくことが重要。
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日本のNGOにもいろいろあって、今やラジオやテレビでCMまで流し、新聞雑誌で広告まで掲載する国際協力NGOもあるかと思うと、狭いオフィスで平日夜や休日に集まってくる無償ボランティアを多数動員して、マンションの1室のような狭いオフィスを利用して活動展開しているところもある。どちらかというと老舗の団体ほど後者のイメージがあり、1990年代後半頃から名前をよく耳にするようになった団体ほど前者のイメージがある。前者の団体の中にはファンドレイジングを担当する専門部署まで設けていて、組織形態が会社に近いところもある。
どういうところにシンパシーを持つかと聞かれると、僕も古い人間なので、老舗の団体の活動の方に信頼を置いているという傾向はあると思う。新世代の団体であれば、わざわざ僕が会費を払わなくたって誰かが払ってくれると思うし、有難がられもしないのではないかと思う。そんなわけで、本稿の議論には賛成したいところも多い。
本書を勉強会で取り上げた職場の同僚が、著者は著名な政治経済学者で、そういう研究者がNGO研究を始めたところが興味深いと言っていた。これのどこが政治経済学的分析なのかは僕にはよくわからないが、もし「プリンシパル・エージェント理論」のことを捉えてそう言われているとしたら、この議論はNGOの実務者の間ではかなり前から言われている話で、だからいくら日本のODAがNGOにもっと資金を供与して草の根の活動展開を規模拡大しようとしても、そうした公的資金が5割を超えてしまうと政府機関の声が大きくなり過ぎるので、NGO側で自主規制を設けてそれ以上の公的資金を取り込まないようにしているという団体の話を聞いた。
タグ:NGO
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