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『2020年のブラジル経済』 [読書日記]

2020年のブラジル経済

2020年のブラジル経済

  • 作者: 鈴木 孝憲
  • 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
  • 発売日: 2010/11/23
  • メディア: 単行本
内容紹介
2020年には世界第5位の経済大国も夢ではないというブラジル。14年ワールドカップ、16年オリンピック開催で、同国への関心は飛躍的に高まろう。経済を中心に新大統領の政策など政治の動向も絡め第一人者が展望する。
先週から今週にかけて、僕の仕事の焦点の1つはブラジルだった。ブラジルの農業開発について人が書いた本の第1稿を読み込み、自分だったらどういう目次構成にして、想定される本のページ数にするためにどこをどう削るか、あるいは読者を惹きつけるためのつかみの序文をどう書くか、といったことを考え、もう1人その作業を手伝ってくれている職場の同僚と意見をすり合わせ、「ここをこうした方がよい」というコメント案をまとめて、執筆者のお二人に送った。執筆者のこだわりの部分もあるかもしれないので、コメントを素直に受け取ってくれるかどうかはわからないが、目下の僕の仕事はそんなことも含まれている。

もう1つ今週やったブラジル絡みの仕事は、この原稿執筆過程でブラジルの識者に書いてもらったポルトガル語のバックグランドペーパーの英訳が業者からあがってきたので、その英訳文のチェックだった。これも、職場の同僚にも手伝ってもらいながらなんとか作業を進め、20日(金)にブラジルの翻訳業者にコメントを返した。

そんなことを仕事としてやっているから、プライベートにおいても読む本にブラジル関係のものを含めて、知識獲得のレバレッジを効かせるのは当たり前といえば当たり前のことだ。元々現在進めている本の出版プロジェクトの執筆原稿の中でも、本日紹介する1冊について執筆者が言及している箇所があるため、参考文献としても押さえておく必要があった。

その割には本書はあっという間に読み切ってしまった。

新聞の経済面を読んでいるような感じだった。いかにもブラジル特派員が現地で報道されているニュースや評論、政府が公表した統計数値や発表した政策などを組み合わせ、新興国ブラジルの今を描いた時事解説の本だ。

こういう本は賞味期限があるんだろうなとしみじみ感じた。2009年頃の経済統計の分析がされているが、それから既に2年が経過しており、ルーラ大統領は退任して、ジルマ・ルセフ新大統領が既に就任している。本書では、2010年の大統領選の予測まではしていて、ルセフ候補も最有力として言及しているが、大統領交代を挟んでしまうと本の商品価値が一挙に落ちてしまうような気がして仕方がない。

さて、本書は日経から出ているだけあって鉱工業やインフラ整備の話はとても詳しいが、実のところ僕が知りたかった農業の話についてはカバレッジがイマイチだった。

今週、日経新聞の商品市況欄に、ブラジルの大豆輸出が昨年米国を追い抜いて世界第1位に躍り出たとの記事が紹介されていた。ブラジル国内では大豆の消費需要はそれほどないが、中国の旺盛な需要に支えられて、ブラジルは輸出を大きく伸ばすことができたのだという。

実はこうした快挙には、1970年代に始まった日本の経済協力が大きく貢献している。本書にこのことへの言及は2ヵ所しかない。この「セラード開発」自体が快挙なのに日本であまり知られていないのが残念だと言っている割に、著者自身のセラードのカバレッジもこの程度であることが残念と言えば残念である。

かつての日伯農業開発セラード・プロジェクトは、日本の官民がブラジル側に協力して、ブラジル中央部の雨季が不規則で農産物が何もとれなかったセラードと呼ばれる低灌木地帯の土地を改良して灌漑を行い、世界の大豆生産の10%が収穫できるまでにした。まさに快挙だった。しかし、プロジェクトの第三フェーズ終了後、日本側が仕事が終わったとして撤退したのは、極めて惜しい出来事だった。日伯経済関係の大きなくさびとして、日伯共同経営の大農場などが何らかの形で残せなかったのだろうか。(p.234)

日本勢も一部の商社がブラジルの農場経営に他の外資と組んで進出し、大豆などの生産に乗り出しているケースはあるが、前述の韓国や中国の動きは食料自給率40%の日本にとっても大いに参考になろう。第二のセラード農業開発プロジェクトのようなものを、官民合同でブラジル側パートナーの協力を得ながら推進し、収穫する農産物を優先的に日本へ輸出できるようなプロジェクトが望まれる。日本の技術協力はすでにセラード農業開発で実証済みであり、ブラジル側も歓迎してくれることは間違いないだろう。(p.127)

セラード開発によりブラジルが大豆生産大国に変貌を遂げたのは日本の経済協力の中でも指折りの特筆すべき大きな成果だと僕も思うが、ではなぜこうした成果を上げることができたのかというと、日本側の関係者が珍しく一貫してセラードに関わってこられたという方が多いというのもあるのではないかと僕は思う。いみじくも本書の著者もそれを暗示するような意見を本書で述べている。これまでの日本企業のブラジルでの経験から導き出される反省点、改善点の1つとして、次のことが挙げられている。

③日本から来ている現地経験の少ないトップが、3~4年の短期間で交代していては、現地社会に溶け込めず人脈もできない。その結果、ビジネス・チャンスを逃すことにもなる。(p.129)

別にこの点はブラジルだけで言えることでもなく、インドでのビジネスでも同じようなことは言えると思う。実は、今週、僕がやっていた仕事の中で、本の原稿を書いていた執筆者に対して「もっと強調すべき」とコメントしたのがまさにこの点である。その人生の大半をブラジルでの農業開発に関わってこれたという人がいたからこそのセラードの大きな成果なのだ、だからその人の羨ましい生き方というのをもっと前面に出すべきだと…。

いずれにしても、農業への言及が少なかったがために、本書はとっとと読んでしまった。


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