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『努力しないで作家になる方法』 [読書日記]

努力しないで作家になる方法

努力しないで作家になる方法

  • 作者: 鯨統一郎
  • 出版社/メーカー: 光文社
  • 発売日: 2011/06/18
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
内容(「BOOK」データベースより)
ひょっとして、大いなる勘違いなのか…。頭をかすめる強気と弱気。妻と子どもの運命まで背負っての、作家修業の道はいつまで続く!?怪作・話題作を連発するミステリ界のトリックスターが明かす、驚きのデビュー秘話。
間もなく単著で本を1冊出す人間としては、小説が認められるまでに17年もかかったというこの作品のお話には背筋がピンと伸びる思いがする。主人公は「鯨統一郎」ならぬ「伊留香総一郎」だが、この主人公が書いた作品は実際に鯨作品として世に出ているものであり、これはこの作家の自叙伝として読んでもいいものだと思う。

「プロだったら、お客さんがお金を出してまで買いたいと思うだけのおもしろさがないといけない」――某出版社の編集者から同じことを言われた経験が僕にもある。僕は小説家志望ではないが、自分の著書を出版することがどれだけ大変なのかを改めて本書で感じさせられた。いろいろな賞に投稿しては落選し、次への希望を持ち続けるために他の賞にも投稿し、そんなことを17年も続けるのは大変な根気がいる。好きだから、これしかないからというだけではなかなか続かない。「努力しないで」どころか、人よりもうんと「努力」してるじゃないですか。

それと、奥様がご立派だ。小説版の「ゲゲゲの女房」だな。ご結婚の経緯などはあまり述べられていないが、夫が作家として認められるまでに9年ぐらいは添い遂げているわけで、しかもお嬢さんまでいて、よくその困窮生活を耐えしのいだものだと感動すら覚えた。僕が書いた原稿が本になり、見本が手元に届いた時の自分の妻の反応とどうしても比べてしまった。書店に夫の名前の載った作品が置かれているのを見て一緒に涙する最後のシーンは、ジーンときた。

鯨作品をこれからも読んであげたくなった。本書を読んでみると、誰かが書評で指摘されているように不必要に難しい漢字を用いているところもあるが、そこはその出版社の編集の方針にもよるものだと思う。それは置いておくにせよ、この作家、「自分が書きたいことを書く」と言ってはいるが、「読者が読んで面白いものは何か、面白く見せるにはどうしたらいいか」を相当研究なさっている。それに、思いついたネタをノートに書き出す作業を長年励行していたとあるが、そのネタがかなり面白そうだ。読みやすい文章だと思うし、ネタのとっつきやすさは星新一にも通じるものがあり、試しに1冊文庫本を読んでみようかと思うが、内容によっては子供達にも薦めたい。

最後に、当然のことながらこの本は出版社の編集者とのやり取りも後半には書かれており、そこで出てくる業界用語や業界の慣習には参考になるものが多いということを付記しておく。「校正」と「校閲」はどう違うのか、僕はよくわからなくてウェブで調べたことすらあるが、要は編集・出版サイドで行なうのが校正で、著者が行なうのが校閲なのだろうというおぼろげながらの整理が本書を読んでみてできた。そういう意味でも参考になった本だ。
タグ:鯨統一郎
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plant

こんにちは。
そういうことであれば、デビュー作『邪馬台国はどこですか?』をお薦めします。
学問上の通説を覆すような歴史ミステリの短篇が並んでいます。
議論されている内容からも、作者の興味の広さ深さが分かります。
一方、近作はキャラクター重視の読み物にシフトしている感もあるので、大人が読むと不当にがっかりしてしまうかもしれません。
by plant (2012-01-13 14:18) 

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