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『疾走中国』 [読書日記]

疾走中国 ─ 変わりゆく都市と農村

疾走中国 ─ 変わりゆく都市と農村

  • 作者: ピーター ヘスラー
  • 出版社/メーカー: 白水社
  • 発売日: 2011/03/19
  • メディア: 単行本
内容紹介
急速に整備される道路網を駆使して各地を巡り、北京郊外の農村と南部の工業都市を舞台に、変化の荒波に翻弄されつつたくましく生きる人びとの日常を描いた傑作ルポ。
本日が図書館への返却期限なので、取りあえずその前にアップしておきます。

結局第3部「工場」まで読み終われないうちに返却期限を迎えてしまったので、紹介するのもおこがましいが、この本は早晩自分で購入し、もう少しじっくりと読んで、マーカーで線を引きまくりたいと思っている。それくらい、自宅の蔵書として持っておく価値のある本だと思う。

出会うきっかけは、毎年年末になると新聞各紙で掲載される「私が選ぶ今年の1冊」といった類の特集。日経新聞だったと思うが、各界の有識者が今年よかった本を3冊挙げるという企画で、どなたかがこの『疾走中国』を挙げていたこと。実はその新聞記事が出る以前に、僕は本書をコミセン図書室で借りていたのだが、3冊まで借りれるコミセンで、この本は3冊目のいわば数合わせに近い位置付けで借りていた。最初の2冊を読み切れたら、3冊目を読もうかと…。ところがその3冊目の本が新聞書評欄で紹介されたので、少しぐらいは読んでから返却しようと考えた次第である。

中国に住んだことがある人から聞いたことがあるが、外国人が中国の農村部に入るのはかなり難しいらしい。ところがこの著者は、北京市内で車をレンタルして、万里の長城沿いに西へ西へと走り、甘粛省や青海省、内蒙古自治区にまで1人で行くは、北京郊外の寒村に家を借りてその村の変容のプロセスを描いたりしている。これは珍しい本だと思う。日本にいながらにして中国の農村の本当の姿を知ることはかなり難しいが、この米国人の著者は、中国語を駆使して住民とのコミュニケーションもとれ、村のリアリティを相当に深いところまで描いている。それでジャーナリストとして農村に垣間見える中国社会の問題点を非常に冷静なタッチで客観的に描いているのである。

英文にありがちな、見出しをほとんど付けない書きぶりは、四六判上下二段組みとも相まって、本自体をとっつきにくいものにしている。実際に読み始めてみても読みにくいし、読み進めるのに本当に難儀した。

そうした不利な点があっても、本書の内容は非常に面白いと思う。第1部「長城」に掲載されていた免許証の筆記試験の問題の数々は、本気でこんな問題を出題しているのかという驚きだけではなく、選択肢に挙げられている3つのポイントも今の中国の世相を反映しているものとして興味深い。また、第2部「村」では村の特定の人物とその家族に密着取材して、その生活の変化、意識の変化、家族の関係の変化、ひ弱だった一人息子が肥満児に変貌を遂げて行く過程を相当具体的に追いかけている。いわゆる参与観察というやつだ。

聞けばこの著者は1996年から1998年にかけて、米国平和部隊(ピースコー、日本の青年海外協力隊に似た制度)で四川省の大学で英語教師を務めて中国駐在経験があり、その後米国の雑誌『New Yorker』の記者として2001年から2009年までの長きにわたって北京に駐在して中国各地を見て歩いたという。

訳者あとがきの中でも説明されているが、本書全編を通じて浮かび上がってくるのは、急激な変化の中を生き抜こうとする中国の人々の素顔で、著者は「中国に長く住めば住むほど、私は人びとが急激な変化をどう受け入れていくかが心配になった」と述べている。
近代化が(少なくとも近代化自体が)問題だと言っているのではない。私は、発展に反対はしない。貧困から脱したいという人びとの気持ちはわかるし、努力して順応しようという中国人の意欲を深く尊敬している。だが、あまりに急激な変化は犠牲を伴うものだ。問題はとらえにくい場合が多い。外国人にはなかなか見えないのだ。西欧メディアは中国の政治や劇的な事件に関心を寄せ、農村暴動など不安定化のリスクを大きく報道する。だが私の見る所、個人の内面的な動揺こそ、もっとも深刻な問題ではないか。
都市やその近郊の生活は急激に変化しつつある。その一方で、役人のルール運用は旧態依然として全く柔軟性を描き、未だに共産党員であることによってメリットがある社会でもある。著者は2004年頃を境に急激に中国の農村が変化し始めたと述べているが、その変化についていけない旧来の制度との間で起きる摩擦のしわ寄せは、そこで住む農村世帯の構成員ひとりひとりに行くことになる。そんなことがわかった気がする。

原著は下記の通りである。体裁はとっつきにくいが、訳文自体は非常にわかりやすいので、ご興味ある方は是非とも一度挑戦してみて下さい。

Country Driving: A Chinese Road Trip

Country Driving: A Chinese Road Trip

  • 作者: Peter Hessler
  • 出版社/メーカー: Canongate Books Ltd
  • 発売日: 2010/03/04
  • メディア: ペーパーバック


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