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綿花栽培農家の苦境4 [シルク・コットン]

先々週来、インドの綿花栽培農家の自殺問題を重点的に取り上げているが、本日はその関連で、隔週刊誌Down To Earthの2011年12月1-15日号に掲載された「技術の罠にはまった農民(Farmers in tech trap)」(Latha Jishnu記者)という記事を紹介してみたい。
http://www.downtoearth.org.in/content/farmers-tech-trap

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2011-12-15.jpgアンドラプラデシュ(AP)州とマハラシュトラ州の綿花栽培地帯が農民の自殺多発地帯と化す中で、種子と農薬における技術変化のスピードが速すぎるという問題がインドの農民にとって最も深刻なものとなりつつある。

2002年に遺伝子組み換え(GM)種子、Btコットンがデビューして以来、農民は技術変化のトレッドミルの上で走らされているような状況で、彼らが元々持っていた伝統的な農業知識が奪われ続けているのである。科学者はこれこそが綿花栽培農家を苦しめている問題の核心であると指摘する。特に天水依存地域においては、その収穫はモンスーン期の降雨量の変動に大きく左右されるにも関わらず、農民は高騰し続ける投入財コストの悪循環に囚われている。

農民組織40団体の集合組織であるRaitu Swarajya Vedikaによると、AP州の6県だけで11月の1ヶ月間に90件もの自殺があったという。マハラシュトラ州の乾燥地帯では、Vidarbha Jan Andolan Samitiによると、綿花栽培農家の自殺が今年だけで既に671件も起きている。これらの2州では、綿花の作付面積が劇的に増えてきた。

確かに、綿花の収穫に悪影響を与えて農民を自殺に走らせたのは降雨量の不足である。しかし、ワランガル県で2000年以来調査を続けているワシントン大学の環境人類学者グレン・デービス・ストーン教授によれば、遺伝子組み換え(GM)種子/Btコットンが自殺の問題を悪化させる役割を果たしているという。いわゆる「技術変化のトレッドミル」の問題だ。

技術変化のトレッドミルとはどういうことか。農薬のトレッドミルは、雑草や害虫を殺すために作られた毒薬に対して耐性を持つものが生き残り、農民により強力な農薬の使用を強いることを指す。同様に、種子もまた急速に変化する。同じ種子を使っていると収穫が徐々に先細りになっていく。例えば、市場には800種類以上の種子が流通しており、農民はどれを使用するのが適切なのか途方にくれている。

ストーン教授はBt技術自体がトレッドミル問題を引き起こしているわけではないとしつつも、技術変化のトレッドミルは農場経営に破壊的な影響をもたらしかねないと警告する。種子と農薬のトレッドミルは少し事情が異なるが、どちらも地域の生態系や農業経済、農民の意思決定能力に悪影響を与える。最悪の場合、自分の問題解決能力に対する農民の自信を破壊してしまう。

「私は、2000年にワランガルに初めて来て以来、農民が農薬のトレッドミルにどのように囚われていくのかを見てきました。農民は私に、新型の農薬を何か知らないかと尋ね続けました。自分たちが使った最後の農薬でも生き残った害虫がすぐに繁殖するからです」――ストーン教授はこう述べる。農民は効果を失った農薬を自宅の軒先で焼却処分したという。同様に、Btハイブリッド種子の急速な普及が問題を悪化させたと教授は指摘する。

年々新たな農薬や種子が市場に溢れかえることで、農民は混乱している――こう指摘するのはナグプールの中央綿花研究所(CICR)のケシャブ・クランティ所長である。どのようなハイブリッド種子や原種であっても、試験に合格して承認されたものだけがその地域の生育条件に最も適合する。地域の研究機関によって開発された栽培法のパッケージを用いないといけないし、それが農民にも利用可能でなければならない。

しかし、そのようなシステムがないと、農民はそうした技術を不用意に用い、誤って使用したり、使いすぎたりすることが起こりうる。投入する資源を無駄に使って高い投入コストを負担し、期待されるような高収量を実現できないということが起きるという。

しかし、企業はこうした懸念を一笑にふす。市場で幾つかの銘柄を扱っているメタヘリックス・ライフサイエンス社のK.K.ナラヤナン社長は、「単純な計算でも、平均して1社あたり30種類程度のハイブリッド種子の認可を受けているに過ぎない」という。しかし、現実は平均の話ではない。「中には50種類以上のハイブリッド種子の認可を受けた企業もあるし、わずか数点の認可しか受けてないところもある。全ての企業が市場に認可種子を流通させたとしても、「洪水」と呼べるような状況になるにはどれくらいのハイブリッド種子の種類があるだろうか。聞いてみたいものだ。」

それでも農民を混乱に陥れるには十分といえるだろう。ワランガル県メカボッドゥ村のナルシ・レディは、農地8ヘクタールのうち、4ヘクタールで綿花を栽培する農家であるが、どの種を購入するかはいつもギャンブルのようなものだと認めている。「通常、ほとんどの農民は近所の農民が購入しているのと同じ種子を選びます。どれを買ったらいいのか皆目見当もつかないからです。「ボールガード1号」をそれまで使っていたら、「ボールガード2号」の方がいいと言われます。」「ボールガード」は米国モンサント社が開発した銘柄で、同社のパートナーやライセンス企業によって市場で販売されている。

Btコットンは元々ワタキバガの幼虫を駆除するために開発されたものだが、今ではこの技術が効かない他の害虫の攻撃にさらされている。クランティCICR所長は毎年新種のBtコットン・ハイブリッド種子が市場に出回る中で、多くの新種の病害虫が出現し、繊細で影響を受けやすいハイブリッド種を経由して増殖し、病虫害のホットスポットを形成する恐れがあると警告している。こうして、農民はより速い速度のトレッドミルの上で走らされているのに気付くのである。

(中略)

レディは言う。以前は彼も近隣の他の農家も、自分たちの使用する種子について1~2年テスト的に使用してみてその効果を評価し、それでその種子を使うか止めるかを決めていた。「でも、今では全てがあまりにも速く変化していき、私たちには付いていけません」――レディの近所で同様に綿花栽培を営むチナタラ・バライアはこう述べる。こんな問題は稲作では起こらないという。コメの場合は、地元の農業科学センター(KVK)で推奨された銘柄がより規模の大きな農家によって先ず試され、それが地域全体に普及していくのだという。KVKは州が運営する普及サービスセンターである。

ストーン教授もクランティ所長も、企業の操作的な姿勢に対して批判的である。「小規模農家が狭い農地であまりにも多くのハイブリッド種子をテストして最適の種子を選ぶような期待をされるというのは不幸なことです」とクランティは言う。多くの農民はこの10年間、病害虫や地域への不適合性によって相当の収穫を失ってきた。組織化された専門農業研究機関がその地域に最も合ったハイブリッド種を特定するにも、あまりに大きな努力とインフラ、科学的知見の豊富な人材の投入が必要とされる。それほど科学技術集約的なプロセスを農民に期待するのはアンフェアだと2人は言う。

ストーン教授は、種子の選択は往々にしてそのときの気まぐれの結果に過ぎないと考えている。2005年に米国の研究者が行った調査によると、隣同士の村であっても全く異なる嗜好を示し、それには農業生態学的な根拠は全くなかったという。「それは、農民がそんな事前評価を自ら行うような立場にはないということをはっきり示しています。」

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以上、長々とすみません。これにて、綿花栽培農家の自殺に関する手元の資料は全部吐き出したことになる。なお、フェリシモが「haco. PEACE BY PEACEコットンプロジェクト」と称して農家のオーガニックコットン栽培への移行を支援しているオリッサ州カラハンディ県では、栽培農家の自殺の問題は起きていないそうだ。現在日本側のプロジェクト関係者の方々が現地に入っておられるが、現地調査の結果確認できたということで知らせて下さった。
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