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綿花栽培農家の苦境3 [シルク・コットン]

ヴィダルバ地方の綿花栽培農家の自殺問題に関して、インドの週刊誌INDIA TODAY紙が2011年10月7日号で「ラフルが見捨てた未亡人-自殺と困窮がヴィダルバの村を襲う(Rahul's Lost Widows: Suicide and starvation haunt Vidarbha villages)」という特集記事を組んだ。この記事は、農民の自殺行為そのものに対してではなく、残された家族に注目した特集となっているのが特徴だ。夫の自殺により残された妻とその家族はどのような生活が強いられているのか、それを描いている。
http://indiatoday.intoday.in/story/rahul-gandhi-kalawati-suicides-in-vidarbha/1/157746.html

Kalawati.jpgカラワティ・バンドゥルカーさん(55)
◇ジャルカ村
◇夫は2005年に服毒自殺
◇継承債務残高:Rs.100,000(銀行、親戚)
◇債務は、NGO Sulabh InternationalのRs.360,000の無償資金により全額返済。政府の支援なし(農民自殺として認定されず)。
◇近隣農場にて契約労働者として勤労。3エーカーの農地を所有し、そこで耕作。
◇8人家族(孫6人、義理の息子は2010年、28歳の娘は9月に焼身自殺)
◇大きな支出項目:電気代月Rs.400~500、大豆油Rs.75/㍑

記事では、夫の死がもたらす「貧困の悪循環」を次のように描いている。夫の死により巨額の債務が残る。この債務は残された妻が継承せざるを得なくなる。妻は債務返済と生計維持のために仕方なく働き始める。1日12~14時間の過重労働が当たり前になり、健康悪化に繋がる。ヴィダルバ地方の農村女性の95%が貧血に悩まされているという。労働に縛られるため、女性の地位向上の機会も失われる。農場で働き続けなければいけないが、女性の労働だけでは家計がまかない切れず、年老いた親や幼い子供までも農作業に動員される。そうすると子供は教育すら受けられない。そんな負の連鎖だ。

冒頭で紹介したカラワティさんという方は、全国的にも有名だ。2008年7月21日、ラフル・ガンジー国民会議派幹事長は国会の演説でカラワティさんに言及し、ヴィダルバ地方の農家の重債務問題の解決に向けた問題提起を行なったからである。この特集記事によると、ラフル幹事長はその後のカラワティさん一家の状況について何らフォローもしていないという。重債務問題のシンボルとして持ち上げておきながら、その後のUPA政権はこうした女性に対して何らの救済策を施すこともできていないと、ポピュリスト的傾向が強いラフル幹事長を批判している。

カラワティさんの自殺した夫が耕作に従事していた農地は彼の名義になっていなかった。このため、夫の自殺は「農民の自殺」としてはカウントされず、よって政府の債務免除の対象ともならなかった。義理の息子は昨年自殺し、娘も今年9月に自殺した。スラブ・インターナショナルというNGOが36万ルピーの無償資金援助を行なったお陰で彼女の債務は返済することはできたが、月25,000ルピーという利払いや義理の息子や娘の残した債務の返済も含めると、36万ルピーはほとんど残らなかった。

なぜUPA政権はこうした農村女性とその家族を救えなかったのか、なぜラフル幹事長はこの女性のその後をちゃんと見守らなかったのか―――記事は政府と与党を痛切に批判している。

Chandrakala.jpgチャンドラカラ・メシュラムさん(35)
◇サイケダ村(140世帯で7人の自殺者)
◇夫は2006年に首つり自殺
◇継承債務残高:Rs.50,000(銀行、高利貸し)
◇債務は全て彼女が返済。政府、親戚、兄弟からの支援なし。
◇5エーカーの農地で自ら耕作(12~14時間働いてRs.1,500の月収)。所得補填のために近隣農場で契約労働者として月15日勤労(Rs.100/日)。
◇3人家族。夫の自殺後、親戚から絶縁される。
◇大きな支出項目:大豆油Rs.70/㍑、娘の衣類Rs.500~600

Nanda.jpgナンダ・バンダレーさん(31)
◇バドゥマリ村
◇夫は2005年に服毒自殺
◇継承債務残高:Rs.35,000(銀行)、Rs.50,000(高利貸し)
◇政府補償金Rs.100,000で債務全額返済
◇7エーカーの綿花畑で自ら耕作(8:00am -6:30pm)。家計のたしにするために近隣農場でも働く。
◇4人家族(義母と15歳の娘も農作業従事)
◇大きな支出項目:大豆油Rs.75/㍑、ダル豆Rs.60/kg、教育費年Rs.650

Aparna.jpgアパルナ・マリカーさん(27)
◇ヴァーラ・カワータ村
◇夫は2008年に服毒自殺
◇継承債務残高:Rs.150,000~200,000(銀行)、加えて高利貸しからの借入
◇政府補償金Rs.100,000で債務全額返済。
◇6エーカーの農地で自ら耕作
◇3人家族
◇大きな支出項目:学費月Rs.350、娘の衣類月Rs.500~600

Ujjwala.jpgウジュワラ・ペトカーさん(35)
◇クルザディ・フォート村
◇夫は2002年に服毒自殺
◇継承債務残高:Rs.50,000(政府系銀行)
◇政府補償金Rs.100,000の給付により債務全額返済
◇5エーカーの農地で綿花、大豆を作付。高卒という比較的高い学歴を生かして農業経営。
◇3人家族
◇大きな支出項目:大豆油Rs.75/㍑

記事によれば、遺された家族にとって、綿花栽培は儲からないという。生産コストは1エーカー当たりRs.30,000かかる。牛や人夫にRs.500/日、高収量種子は450gにつきRs.250、化学肥料も50kg袋Rs.960はする。銀行借入限度額は1エーカーあたりRs.10,000/が上限だ。差額Rs.20,000は自費、または市中高利貸しからの借入に頼らなければならない。降雨量が十分あれば、収穫高は1エーカー当たり1,500kg程度で、売上高はRs.30,000だという。つまり、収支はトントンということになる。

3エーカー当たりの農業生産収入は月Rs.2500~3000、これに女性は他の農園で1日Rs.100で賃金労働する。1ヵ月の半分ぐらいは農場労働に従事する。これでRs.1500の収入だ。しかし、食費は3人家族で月Rs.1500程度かかる。

この記事は少なくとも遺伝子組み換え種子(Btコットン)に対してはネガティブな論調ではない。ある研究機関が先行5研究のレビューを行った結果を照会し、Btコットンの方が農家は儲かると述べている。在来型コットン栽培農家に比べ、収益が50~100%増加したという。

記事がむしろ批判しているのは、政府の怠慢である。2010年4月以降、インド政府は綿花の対外輸出規制を行っている。綿花の国際市況が急騰し、国内需要に対して品薄感があったためだと考えられる。しかし、この措置によって、インド産綿花の国内価格は、国際取引価格に比べて20%程度安いと言われる。

また、Btコットンとひとくちに言っても、様々な遺伝子組み換え種子が流通している。政府は無認可の遺伝子組み換え種子については公的融資を行わない厳しい銀行融資審査基準を敷いている。市中の種屋で無認可の種を買わされる農家は、年利7~9%の公的制度金融を利用できず、市中の高利貸しから年利25~40%でお金を借りないと種の購入代金を支払えない。

インド駐在時代からなんとなく感じていたのだが、ラフル幹事長、不可触民の家に平気で上がって食事をご馳走になったり、いろいろ世間受けするパフォーマンスはやっている。その行動力、フットワークの軽さが彼の魅力に繋がっているとは思うのだが、その後のフォローをちゃんとしていないのがいけない。

ラフル幹事長、もうすぐウッタル・プラデシュ州の州議会議員選挙戦に臨むが、ここで国民会議派の議席を伸ばせなかったとしたら、次期首相の座も結構危ないかもしれない。
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ラフル幹事長、もうすぐウッタル・プラデシュ州の州議会議員選挙戦に臨むが、ここで国民会議派の議席を伸ばせなかったとしたら、次期首相の座も結構危ないかもしれない。
by MONCLER レディース (2011-12-20 17:07) 

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