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綿花栽培農家の苦境1 [シルク・コットン]

しばらくインドネタを取り上げていなかったが、来週母校でゲスト講師として「インド繊維業原料生産にみるグローバル化の影響」というタイトルの講義をやるにあたり、少しばかり情報収集をしておこうと思い、新聞・雑誌の記事の検索や、関連するウェブページの読み込みをやった。講義で使うスライドの方はこの2日ほどの作業でだいたい出来上がったので、今日はその一部を紹介してみたいと思う。

Indian Agrarian Crisis(インドの農業危機)と題したウェブページがある。全体としてはグローバル化の流れに沿った商品作物化や遺伝子組み換え種子導入には反対で、有機農業や在来種子の保存利用に賛成の立場を取っているウェブサイトで、よく読んでいくと結構面白そうなサイトだ。そこに12月5日(月)、「農民の自殺:防止に成果を上げている州もあるものの…(Farmers Suicides: Some States fight the trend but …)」という記事が掲載された。有名な環境ジャーナリストP.サイナートの分析を転載したもので、おそらく元ネタは全国紙Hindu紙のサイナートの寄稿ではないかと想像する。
http://agrariancrisis.in/2011/12/05/farmers-suicides-some-states-fight-the-trend-but-%e2%80%a6/
http://www.thehindu.com/opinion/columns/sainath/article2577635.ece

毎年この時期になると、National Crime Records Bureau(NCRB)がインド全国の自殺者の統計値を発表する。今年も10月下旬に2010年のデータが発表になった。NCRBが統計数値を取り始めたのは1995年からなので、今年のデータで16年分となる。そこで、サイナートはこのデータを、前半の8年(1995~2002年)と後半の8年(2003~2010年)とで区分し、州別の年平均農民自殺者数を比較してみた。

farmer-suicides-95-02-and-03-10.jpg

この結果からわかることは以下の通りである。

1)自殺者の絶対数が多いワースト5州で明暗が分かれている。カルナタカ州と西ベンガル州では前期から後期にかけて自殺者が減少しているのに対し、マハラシュトラ州、マディアプラデシュ(MP)州(集計の便宜上、チャッティスガル州も含まれている)、アンドラプラデシュ(AP)州では自殺者が激増している。記事ではAP州のことを取り上げているが、2010年には毎月210人が自殺している計算となる。

2)ケララ州は商品作物化が進み、最もグローバル化に取り込まれて外的ショックに対して脆弱な州と言えるが、2005年に債務救済法廷が開設され、コメの最低保証価格を100kg当たりRs.700からRs.1400に引き上げるなど農業部門への支援策の制度化が進んだため、特に近年の自殺者数の減少が著しい。(但し、2010年データでは増加しており、今後は予断を許さない。)

3)ケララのような例外はあるものの、インド全国を通じて、商品作物生産農家の自殺は穀物生産農家に比べてはるかに多い。

もう1つの記事は、隔週刊誌Down To Earthの2011年11月1-11日号に掲載されていた「インドでは毎日45人の農民が自殺する(45 farmers commit suicide each day in India)」という記事である。この記事には、サイナートの上述の記事で抜けている、2010年のインド全国での農民自殺者総数が15,964人だったということが掲載されている。1998年以降ずっと16000人台を下回ることはなかったが、2010年は前年比8%減少し、久し振りに16000人台を下回った。
http://www.downtoearth.org.in/content/45-farmers-commit-suicide-each-day-india

india%20map.jpg


vbk-28graphic1stpag_820574a.jpg4)2010年のデータを分析してみると、農民自殺者総数15,964人のうち、9,910人は30歳から59歳という働き盛りの年齢層で、4,409人が30歳未満、1,645人が60歳以上の高齢者だった。

5)ワースト5州は、①マハラシュトラ(3,141人)、②カルナタカ(2,585人)、③AP(2,525人)、④MP(1,237人)、⑤チャッティスガル(1,126人)の順。過去10年の合計数で換算すると、1日45人が自殺。うち約15%が女性だという。

6)2009年から2010年にかけて、全国の自殺者総数は8%減少したが、その多くはチャッティスガル州とMP州の自殺者の減少によるものである。

年間自殺者数が3万人超が14年も続いている日本に住んでいると、人口が日本の11倍もあるインドで、農民の自殺者が日本の半数程度だというのを軽く見る声もあるかもしれない。問題だ問題だといっても、インドの総人口に比べてどうだという発言をシャラード・パワル農相が以前していたのを何かで読んだことがある。ちなみにこのパワル農相、前職はマハラシュトラ州の首相だった人であり、州首相時代に僕は一度だけお目にかかったことがある。マハラシュトラ州のIT化推進には非常に積極的な人だったが、お膝元での農民の自殺問題には有効策を打てず、そんな人が中央で農業大臣をやっているわけである。

このテーマは、2、3回に分けて今後も掲載していくつもりだ。
タグ:綿花 自殺
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