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『日本企業のBOPビジネス』 [読書日記]

日本企業のBOPビジネス

日本企業のBOPビジネス

  • 作者: 日本企業のBOPビジネス研究会
  • 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
  • 発売日: 2011/09/23
  • メディア: 単行本
内容紹介
世界が「次の40億人市場」としてビジネス展開を急ぐBOP(=Base Of the Pyramid)と呼ばれる低所得者層マーケットに、果たして日本人はこれまでどうアプローチしてきたのか。そして、これからどうアプローチしていくのか。本書は8社の先進企業を取材し、その起こりから将来のビジョンまで、親しみやすいストーリー文体で紹介します。「ビジネスを開拓する」すべての人に贈る、日本人の海外奮闘記です。

「BOPビジネス」といったら、今では多くの人が普通に使っている言葉となっている。故C.K.プラハラード教授の著書『ネクスト・マーケット』が日本に紹介された2004年当時、読んで目からウロコが落ちた気がしたが、それから7年が経ち、今では日本企業のビジネスチャンスはBOPにあると言わんばかりに書籍は増えたし、実際に途上国での成功事例も目立ち始めているようだ。

今週行なった大学での講義では、途上国開発における企業の役割という話をするために、実際に企業の方に来ていただいた。ご本人は「この事業はBOPビジネスじゃない」と言われるが、僕は「途上国のBOP層を消費者と見なして売れる商品を開発・販売することだけがBOPビジネスではなく、BOP層を生産者と見なしてそこで作られた素材を加工・販売するのもBOPビジネス」だと思っている。それじゃ「フェアトレード」のことじゃないかと言われるかもしれないが、通常の販売ルートに大きく乗せて、生産者と消費者を繋げるような企業の活動は、「フェアトレード」というよりももっとスケールが大きいように思う。

いずれにしてもそういう企業の方にお越しいただいてゲストとしてお話をしていただいたのだが、授業を総括する段階で、他に日本企業で途上国のBOP層を生産者や消費者と見なして通常の企業活動で成功している事例とそのバリエーションについて触れる必要があるかもしれないと思い、先週から読み始めていたのがこの本である。

いきなり登場したのが今や経団連に会長を送り出すまでになった住友化学の「オリセット・ネット」だったので当惑した。あれは公的機関が全品買取りして初めて成り立つビジネスモデルなので、途上国のBOP層が負担可能な価格で直接商品を販売するという僕の「BOPビジネス観」とは相容れない。しかし、全品買取りであっても補助金給付であっても、公的機関やNGOがパートナーとして加わることで成り立つ企業活動があることは事実である。

また、ヤクルトの販売がBOPビジネスなのかという点についても、インドで販売されていたヤクルトの価格を考えたら販売のターゲットがBOP層だとはとても思えなかったので、僕はヤクルトはBOPビジネスとは言えないと勝手に整理していた。しかし、ヤクルトの購買層はそうかもしれないが、現地での販売を担っている「ヤクルト・レディ」に関してはBOP出身者も多く、ヤクルト社と個人事業主として契約しており、小売業の部分をしてBOPビジネスとは言えるのかもしれないなと思った。

このように、個々の事例はどれも魅力的で、古くからあって評価が既に定着しているもの、最近発展してきたばかりで成果が目に見えるようになってくるのはもう少し先というもの、いずれもあってとても参考になった。また、著者はあえて冒頭で本書で取り上げた事例の選定根拠を明示していないが、先ずは日本企業が途上国でBOP層を消費者、事業主、あるいは生産者と見なして事業展開している事例を幾つか挙げて、その後でBOPビジネスの類型化を図っているところには、著者の意図も感じられた。

本書で紹介されている事例を整理すると、BOPビジネスのパターンは次の4つだという。このうちのどれか1つに該当するというだけではなく、紹介された事例は幾つかのモデルに跨っている場合もある。ヤクルト・レディなんて、②と③に跨っているわけだ。

①小分け販売モデル
②直売モデル
③起業家育成モデル
④アライアンス(連携)モデル

また、著者の考察の中には、「日本からBOP市場を眺めているのはナンセンス」とか、「現地目線、現地発想を徹底させる」とかが含まれているが、まさにその通りだと思う。インドで日本企業を見ていて、今日本で売っている商品をそのまま持っていってどう売るかという考えがとても強いように感じた。勿論個々の企業の強みはその扱う主力商品に凝縮されているのだからそれはそれでいいにしても、インドのBOP層というのがどういう生活をしているのか、現場のリアリティを知るのに、わずか1日の訪問で本当に良いのかという点は気になった。3年駐在してもわかったとはとても言う自信がない僕が言うのもなんだが(苦笑)。

現場のリアリティを短期間ででも知ろうと思ったら、それなりに社会調査的な方法論の習得が必要なのではないかと思うが、そういう人材は企業では確保されていないと思う。それに、本書で扱われた事例の中には、まさにこの現場のリアリティを知るために時間をかけて現場を歩き回ったという貴重な経験をされている企業の担当者のお話が幾つか紹介されている。

もう1つ、僕が以前から強調してきたのは「現地のパートナー」を見つけることであるが、これについても本書の事例は裏打ちしてくれているものが多いように思う。

冒頭紹介した僕の大学での講義にお招きしたのは、株式会社フェリシモで「haco. PEACE BY PEACE COTTON」プロジェクトを立ち上げられたKTさんだったのだが、このプロジェクトが立ち上がった際のキモは現地パートナーとしてチェトナ・オーガニック・グループと提携することができた点にある。このカップリングを仲介するところで僕も現地でお手伝いをさせていただいた。そのご縁でKTさんにゲスト講師で来ていただけたのだが。

などとこうして本書とフェリシモの紹介をしたが、KTさんに今月末までに終わらせるとお約束していた別の仕事があるのに今気付いた。今日は11月25日(金)、作業の期限まであと5日しかない!先週から睡眠時間を削って本の原稿校閲をやって意識朦朧としていたが、23日の祭日のお陰で少し体力が回復したところだ。30日締切の仕事が2つも重なっており、またこれから数日間は、寸暇を惜しんでの作業となりそうだ。
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