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『現場主義の知的生産法』 [読書日記]

現場主義と研究者
関満博著『現場主義の知的生産法』 筑摩新書、2002年4月
 我が社の社長は、3年前に就任して以来、「現場主義」というのを言い続けてきている。僕の勤めるのは研究部門であるが、研究部門と現場主義とでどう折り合いをつけるのか、僕はずっと悩んできた。例えば、ある研究プロジェクトを実施するとしても、プロジェクトはいずれは終了するし、僕達も人事異動で全く異なる部署に移ってしまうということもある。
 (中略)
 本来なら、これから始めるか始めることを具体的に検討する前の事業にベタ張りして、現場の現況と事業を行うことによって生じる現場の変化をくまなく追いかけていくタイプのものができるといいと思う。それを上司に述べたところ、「そんなのは実行でできる」と一言。ただ、僕が見るところ、うちのビジネスモデルはそのようなタイプの研究活動とは折り合いが悪いような気がする。やれるのであればとっくの昔にやっている。
今からちょうど6年前の11月、僕は上記囲みにある記事を書いた。その時は近所の図書館で本書を借りたのだが、フィールドワークに関する入門書でこの関満博教授の著書がお薦めの参考文献として紹介されていたのを受け、再び読んでみることにした。

現場主義の知的生産法 (ちくま新書)

現場主義の知的生産法 (ちくま新書)

  • 作者: 関 満博
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2002/04
  • メディア: 新書
内容(「BOOK」データベースより)
現場には常に「発見」がある!国内5000工場、海外1000工場を踏査した“歩く経済学者”が、現場調査の勘どころを初めて明かす。実際に行ったモンゴル2週間40社調査をケースに、海外調査のルートづくり、インタビューの要諦、調査結果のまとめ方など、その全プロセスを公開する。調査が終わったらとにかく早く形にする、整理はしない、現場は刈り取るだけではなく育てるもの、等々、IT時代だからこそ心に染みる、超アナログ知的生産のすべて。

今回、5年振りに読み直してみたけれど、「現場とは一生付き合っていく態度」とか、ポイントをよく押さえている記事になっていると思うので、あえて今回改めて本書を紹介するということはしない。ただ、読んでみて今思っていることを書き連ねておきたい。

先月から今月上旬にかけて、僕は3組ものインドからのお客様とお目にかかった。いずれも、インド駐在時代に懇意にしていただいた現地NGOの方々である。加えて、インドに活動の拠点を置いておられる日本のNGOの駐在員の方とか、インドに事業地を持っておられる日本のNGOや企業の方にも4回、のべ7名の方々にお目にかかっている。これに加え、メール等でやり取りをさせていただいた日本のNGOは2団体ある。自分が関わった事業が何らかの表彰を受けたケースも二度あった。駐在員生活を終えて我が社本体のインド事業とは関わりが途切れてしまったけれど、駐在員時代にお世話になった方々とは概ね関係を途絶えさせることなく来ているような気はする。

皆さんから一様に「また現場来て下さい」と言っていただく。こちらの事情が想像つかないからだろう、「次はいつインドに来るのか」と何度も聞いてくる「優しい」インド人も何人かいる。それだけ実際に彼らの現場に足を運び、そこに住む人々の話を聞き、そこで活動する人々と意見交換を交わしてきたからだろうと自画自賛するが、問題はその彼らの「現場」に再び足を運ぶ術がないことである。いつもお詫びのメールを返信する度に、悔しさを噛み締めている。

勿論、誘われた全ての現場に平等に足を運ぶことは難しい。しかし、ここと決めた現場については、理想を言えば2、3年に1回ぐらいは再訪して、地域社会の変化を見守っていけたらと思うのである。3年間の駐在員生活は、定点観測するためのベースラインとなる情報を押さえるのには有意義だったが、次のステップがなかなか踏み出せない。

先週、僕の本のタイトルについて出版社側とようやく合意ができた。6月に行なった南インドでの農村調査は、フィールドでの村人へのインタビューの仕方を実戦で学ぶのに非常に役だったし、4年前に全員引き揚げた日本人の養蚕専門家の南インドに残した足跡を探るのには有効だったと思うが、僕自身はこの調査をベースにして、折角築いた現地での人間関係を、この先どう維持発展させていけばいいかが大きな課題だと思っている。私費でもいいのでこの現場には今後も何度か通い、その中から南インドで起っている大きな動きを浮き彫りにできたらいいと思うし、そこでの政府の技術者や農家の方々との交流の中で、彼らにとっての気付きも促せて「あいつを受け入れて良かった」と思ってもらえるような関係が築けたらいい。

関教授の現地調査の実践ノウハウが詰まった本書を読みながら、現場と一生向き合うことを改めて意識した。

但し、現場に行ったら何でもいいから1つは訪問先に対して「提案」や「提言」を残してこいというその姿勢については、受け入れた側にも何らかのメリットがなければ調査者を快く受け入れられないという点については理解するものの、調査者が訪問先の企業に残していった「提案」や「提言」がどういうものだったかが具体的には書かれておらず、よくわからなかった。「トイレが汚い」といった類の話でも可ということらしいが、もう少し具体例があった方がわかりやすかったのではないかと思う。

タグ:関満博
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