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『モルフェウスの領域』 [海堂尊]

モルフェウスの領域

モルフェウスの領域

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
  • 発売日: 2010/12/16
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
日比野涼子は桜宮市にある未来医学探究センターで働いている。東城大学医学部から委託された資料整理の傍ら、世界初の「コールドスリープ」技術により人工的な眠りについた少年・佐々木アツシの生命維持を担当していた。アツシは網膜芽腫が再発し両眼失明の危機にあったが、特効薬の認可を待つために五年間の“凍眠”を選んだのだ。だが少年が目覚める際に重大な問題が立ちはだかることに気づいた涼子は、彼を守るための戦いを開始する―“バチスタ”シリーズに連なる最先端医療ミステリー。
金曜日恒例の手抜き記事を1つ―――。

今週前半、仕事で韓国に行ってきた。こういう旅の場合、僕はお供に1冊ぐらいは小説を携行することが多く、仕事を終えた帰りの飛行機の機内は、居眠りよりもむしろ読書タイムという感じで捉えている。この韓国出張は僕的には急に決まったもので、韓国との仕事上の繋がりはこれまで全くなかったにも関わらず向こうの相手とビジネストークをちゃんとして来なければならなかったため、週末は2日とも近所の図書館にこもり、社内の関係者から提供された資料を読み込んだ。ついでに、出張明け後すぐに開かれる勉強会で検討対象となる文献も読み込んでおいたのだが、その時に、ついでに小説も借りておくことにした。

海堂作品にしようとは考えていたが、『ナニワ・モンスター』か『モルフェウスの領域』かどちらにしようか迷った挙句、最終的には後者にした。決め手になったのは作品の舞台が桜宮市であったからである。「桜宮サーガ」を復習するいい機会だと捉えたのだ。

その目論見はだいたい当たった。過去の海堂作品を読んでいれば、登場人物の素性や背負っているものが、詳述されてなくても想像ができてしまう。例えば日比野涼子の手首のやけどの跡とか、佐々木アツシ君の「ハイパーマン・バッカス」とか、佐藤先生の「チュパチャップス」とか。それに、嬉しかったのがアフリカ某国の日本大使館で涼子が出会った飲んだくれ医務官の登場。結局名前を明かさずに終わっているが、『ブラックペアン1989』以来姿を隠していた渡海先生じゃないかと容易に想像がつく。渡海さんがどうやって「海を渡った」のか、海外でどんな仕事をしているのかを描いた作品も期待してしまうな。

そうしたところはまあ海堂作品を読む面白さではあると思うのだが、正直に告白すると、この作品は頭がこんがらがるところが多かった。僕自身の理解能力の問題かもしれないが、涼子と曽根崎教授のメールのやり取りも、涼子の決断も、そして何かともったいつけるしゃべり方がムカつく西野のセリフも、はっきり言ってついていけない。展開が速い場面では苦にならないが、特に「モルフェウス」が凍眠している間の涼子と曽根崎教授のメール問答は、ただでも場面展開が全くない中でのメールだけでのやり取りなので、読み進める前に眠くなり、10頁を読むのにも時間がかかってしまった。そういう難しい会話はすっとばして場面展開だけを追いかけていれば楽しい部分もかなりあるので、お薦めしないわけではないが、読了後にもう一度理解し直すために読み返そうとは思わないので、わからないままでもう読まないだろう。

それだけではない、戸惑うこともかなり多かった。

第1に、5年の歳月を経て再登場する多くの人たちのキャラ。『ジェネラル・ルージュの凱旋』以来のご登場で、オレンジ病棟の師長にまで昇格した如月翔子がこの典型で、僕は『ジェネラル・ルージュ~』の時にはあまり印象に残らないキャラで花房師長の引き立て役になってしまっていたが、今回はたいそうなご出世で、背中に鬼の刺繍が大きく施されたサテンのジャンパーを羽織って下はGパン――なんて姿で登場している。明らかにキャラが変わっていて、戸惑いを覚える。翔子ほどではないけれども、そういう例は多々見られた。田口先生が真面目に仕事しているのにも違和感あったな。

第2に、相変わらず意味不明のカタカナを多用される。「モルフェウス」や「ステルス」、「リーパー」、「フロイライン」などがその典型例だ。海堂作品の1つの確立されたスタイルなのだが、医療関係者って本当にこんなニックネームをつけたりつけられたりしている人ばかりなのだろうか。あまり度が過ぎるとかえってそれがあだになって、読みづらいし、あまりにキザな野郎どもに思えて、抵抗感すら感じてしまう。だいたい、こんな言葉を多用する人物に限って天才が多く、ストーリーの中の他の登場人物だけではないく、読者を小馬鹿にしている感じがする。「お前に俺が言ってることが理解できるか」と問いかけられているような気すらしてしまう。

第3に、思い込みが激し過ぎてついていけない人物もいる。涼子は理解することが難しかった。

中盤からのストーリーの展開は非常に速いので一気に読めるが、前半も集中して読まないと、論点を把握する前に眠さが襲ってくるので要注意。心して読みましょう。僕はこの前半部分をソウルの宿のベッドの上でダラダラ読んでいたので、いつの間にか眠ってしまっていた。

なお、『ジェネラル・ルージュの伝説』に書かれていたが、海堂は『モルフェウスの領域』について、「この物語は私の虚数空間のほころびを繕うための壮大なつじつま合わせ」だと述べている。「桜宮サーガ」を広げ過ぎて、年代のつじつまがどうしても合わないところが出てきたので、それを取り繕うために書いたのだという。どうりでいろいろな人物が登場しているわけだ。
タグ:海堂尊
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電子カルテシステム

遠隔医療への応用も期待される、映像技術というのは、
どんどん進化していくのだなと思います。
by 電子カルテシステム (2011-12-11 19:35) 

Sanchai

遠隔医療の話など、ひとことも書いてないんですけどね。
by Sanchai (2011-12-14 20:23) 

藍色

こんにちは。同じ本の感想記事を
トラックバックさせていただきました。
この記事にトラックバックいただけたらうれしいです。
お気軽にどうぞ。
by 藍色 (2012-04-13 10:24) 

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