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人口ボーナスか、災難か? [インド]

世界の総人口が10月末に70億人に到達したという話は、11月5日付の記事「日本よりも速いアジアの高齢化」の中でも紹介したところであるが、どうも日本でこの報道を読むと日本人のパースペクティブで捉えられる傾向が強いので、それではインドのコンテクストならこの70億人というのをどう見ているのかというのは興味があるところだ。

そうしたところ、おあつらえ向きの記事をOneWorld South Asia(OWSA)のサイトで発見した。2011年11月2日付の「インド:人口ボーナスか、災難か?(India: Demographic dividend or disaster?)」という記事で、元々は10月24日付英国The Guardian紙に掲載されたJason Burke記者の記事が紹介されたものである。
*記事URLはこちらから!
 http://southasia.oneworld.net/opinioncomment/india-demographic-dividend-or-disaster
 http://www.guardian.co.uk/world/2011/oct/24/india-seven-billion-global-population

記事はデリー南部郊外のマダンプール・カダル地区(Madanpur Khadar)の取材に基づく。実はこの地区、僕が雇っていた運転手グラムの自宅があるサリタ・ビハール地区の東隣にあり、職場のオフィス移転先物件探しをやっていた2008年2月頃に何度か通ったことがある。サリタ・ビハールの北隣にジャソーラ(Jasola)という地区があるが、ここは元々灌木に覆われた未開拓の土地で、それが急速なデリーの都市化の影響でオフィス需要が高まり、近代的なオフィスビルが何棟も建設されるラッシュが起きていた。要するにグルガオンのようなところである。そのジャソーラの建設現場に通う人々が集まり、マダンプール・カダルは急速に規模を拡大していった。サリタ・ビハールには政府が建てた低所得者層向け集合住宅が整備されていたが、マダンプール・カダルも同様で、デリー中心部の再開発に伴って移転を余儀なくされた住民用にデリー市当局が受け皿として整備した地区なのである。

記事によれば、マダンプール・カダルの人口は約4万人。煉瓦とセメントで出来た5階建ての集合住宅に、1部屋10人程度が暮らしている。上下水道は未整備で、時として仕事もない。歩道には子供と身重の女性が溢れ、人口大国インドの現実がそこでは垣間見えるという。世帯当たりの子供の数は4人から8人はいる。


記事はここでチャンチャールという27歳の女性にスポットを当てる。石工として働く夫と3人の子供と暮らす彼女の住まいは15フィート×10フィートの地階の1部屋だけで、家賃は月2,000ルピーだという。僕が駐在していた当時の私用運転手の月給の相場は手取りで6000~8000ルピーというところだったから(僕は9000ルピー以上払っていたが)、その1/4から1/3が家賃でふっとんでしまう計算だ。しかも彼女は4人目の赤ちゃんを身ごもっている。

マダンプール・カダルは2001年に整備された。移転させらてこの地区に移ってきた当初の住民は2万人。それが10年間で倍増した。この地区の人口増加率はインドの全国平均と比べてはるかに高い。インドの総人口は、2001年から2011年にかけて1810万人増加し、12億1千万人に達した。このままだと2035年には14億5千万人にも達すると見られている。

DelhiCrowded.jpg

インドの政治家はこの国の人口構成が若いことで大きな人口ボーナスが発生し、経済活動の拡大を促すとの期待を寄せているが、中にはそれが人口学上の災難でもあると指摘する声もある。マダンプール・カダルの状況は人口増加がもたらす希望と課題の両面を浮き彫りにしている。地元の学校は教員が不足し、教具も足りない。教員不足や教育に必要な資機材・施設の不足は、インド全国で大きな課題となっている。

チャンチャールは、4歳、5歳、7歳の3人の娘を地元の私立学校に通わせているが、その月謝は1,000ルピーにもなる。チャンチャール自身は文盲である。だからこそ彼女は自分の子供たちを学校に通わせ、将来は学校の先生になって欲しいと期待する。最新の国勢調査では識字率は9%改善し、74%に達している。インドの若い人口の将来は、彼らに十分な仕事を提供できるかどうかにかかっている。

もう1つの重要な問題は、幼児の栄養不足である。それは大人になってからの認知能力に影響を与え、今日の若者たちの将来の被用可能性(employability)にも影響する。

女児よりも男児が好まれる傾向も観察される。女児堕胎が一般化し、2011年国勢調査によると、新生男児1,000人に対して女児は914人に過ぎない。これは2001年の927人よりもさらに悪化している。国勢調査実施機関の高官によれば、こうして生まれてきた世代が将来家庭を持とうと考えた時に、いびつな男女比が大きな社会問題を引き起こす可能性があると指摘されている。

そしてこの記事では、最後に、これだけ大勢の人々が希少な資源に依存していることに懸念を示している。野生動物は生息地を奪われ、環境汚染の影響も受けている。医療サービスは大きく見積もっても未整備と言わざるを得ない。チャンチャールのような妊婦は、出産の時には2時間もかけてバスでデリーの中心地に出かけなければならない。このコロニーからの道路は未整備で、リキシャーに乗って移動すると何度も大きく揺られる。住民は危惧する。今でもバスに乗ると、5つの座席に15人もの乗客がひしめく状況で、しかも交通渋滞で思うように車が動かない。人口がもっと増えたらどうなるのか、考えただけでも恐ろしい。

それでもチャンチャールは楽観的だ。「私はいい生活を送れています。うちの子供たちもきっとそうなるでしょう。」
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