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『絶対貧困』(文庫版) [読書日記]

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

絶対貧困―世界リアル貧困学講義 (新潮文庫)

  • 作者: 石井 光太
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/06/26
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
絶対貧困―世界人口約67億人のうち、1日をわずか1ドル以下で暮らす人々が12億人もいるという。だが、「貧しさ」はあまりにも画一的に語られてはいないか。スラムにも、悲惨な生活がある一方で、逞しく稼ぎ、恋愛をし、子供を産み育てる営みがある。アジア、中東からアフリカまで、彼らは如何なる社会に生きて、衣・食・住を得ているのか。貧困への眼差しを一転させる渾身の全14講。
10月31日に予定している大学での講義に、ゲストとしてムンバイのスラムで活動している日本のNGOの代表の方にお越しいただいてその活動内容についてご紹介いただくことにしている。ムンバイのスラムといえば言わずと知れたアカデミー賞受賞作品『スラムドッグ$ミリオネア』のまさにその世界である。

そこで、講義の準備のために、ずっと積読にしてあった文庫版『絶対貧困』を読んでみることにした。

本書は2009年3月に単行本として発売された直後に一度読み、その時に学んだことをこのブログの記事として紹介している。今読み直してみても結構詳述しており、内容について参考になるところはあると思うのでご関心ある方はそちらもご覧下さい。下記URLです。
http://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2009-06-12

2年経過してから改めて読み直してみると、初めて読むような新鮮さも感じた。このブログの読者の方々は既にお気付きかと思うが、僕は最近「フィールドワーク」の本を何冊か読んでいる。一見しただけではなかなか見えてこない現地のリアリティを浮き彫りにするのがフィールドワークの醍醐味だと思うが、それに近いことをまさに実践されているのが本書の著者だと思う。

フィールドワークを専門にされているような研究者の方々でも、こういうスラムや路上生活者の実態、売春商売の実態を、参与観察のような形で現場に入り込んで調べるということはなかなかできるものではない。犯罪に巻き込まれるリスクも相当高いし、変なものを食べさせられたり飲まされたりして、後で下痢や高熱に苦しめられるようなリスクもあるに違いない。恥ずかしいけれど、僕にはここまではできない。

それだけに、フィールドワークの成果物としても、本書を含めた石井光太作品は優れたものが多い。途上国の大都市に行くと、交差点で信号待ちしている車の運転手や乗客を相手にいろいろなものを売ろうと歩き回っている若い物売りや、荒んだ生活をアピールして同情をひき、お恵みを貰おうという物乞いが多い。そういう人々が自分の乗った車に近付いて来ると、窓を閉めてドアロックを確認し、頑なに目を合わせないようにした経験が僕にはあるし、途上国を旅した多くの方々が同じような経験をされていることと思う。もしそうした人々が、この石井作品を読み、彼らの「ビジネス」の背後にある売上金の配分のメカニズムを知ったとしたら、目の前で展開している物売りや物乞いの見え方がきっと変わってくるに違いない。

読み返してみて改めて感じたのは、スラムや路上生活、売春は、政府が強制的な退去や摘発措置を取ったところで容易には無くならないものなのだということだ。考えてみたら欧米諸国や日本にだって存在するわけで、こうなると僕らはそういうのを与件として考えないといけないのかなとすら思えてくる。そうした環境下においてもそこで住む人々はしたたかにサバイバルしようと日夜取り組んでいるわけで、そこにお金を落とすのが一概に悪いことだとはいえないのではないだろうか。

僕も少ないながらもインドのスラムを訪れたことがあるが、もし本書を読んでそうした場所に入っていたとしたら、少なくとも路上で遊んでいる子供達や食器や衣類の洗濯を汚い泥水で行なっている女性たち、やることもなくボーっとしている男たちといったスラムでありがちな光景を見るだけではなく、その背後にある生活のしたたかさ、頭を相当に使った商売の巧みさにまで思いをはせ、「貧困」という言葉だけでは言い表せない人間の生活の奥の深さというものを感じられたに違いない。
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