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VOA、チャクラボルティ教授を紹介 [インド]

久し振りにコルカタのチャクラボルティ教授からメールをいただいた。米国の通信社VOAが彼を取材し、バングラデシュやインド東部のガンジス川流域で深刻な問題となっている地下水の砒素汚染について報じたので、その記事を読んでみて欲しいというのが趣旨だった。記事としては非常にコンパクトだが、汚染のきっかけを作ったのが何だったのかも含め、押さえるところは押さえた内容になっていると思ったので、全文和訳してブログに掲載することにした。

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砒素専門家語る「何百万ものインド人が危険にさらされている」
2011年9月29日、Voice of America、Kurt Achin記者(コルカタ)

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《ダッカ近郊に住むバングラデシュ人が砒素中毒におかされた手のひらを見せてくれた》

ディパンカール・チャクラボルティは2つのことにはまっている。1つはヨガで、これによって朝は目覚める。もう1つは砒素汚染である。彼はこのために夜なかなか眠ることができない。

西ベンガル州のジャダブプール大学の環境学部長であるチャクラボルティは、既に何千万人もの人々が直面している健康上の危機――自分が生まれ育った西ベンガルの地下水砒素汚染問題の最前線にいる。

彼が何十年も前に発した最初の警告は無視された。しかし、その後世界保健機関(WHO)が彼の警告の正当性を実証し、西ベンガルと隣接するバングラデシュの地下水砒素汚染問題を「人類史上最大の大規模中毒」と呼んだ。

チャクラボルティは言う。その問題に気付いて数十年経つが、インドは依然として農村の貧困層に飲み水の危険性について知らせる取組みをもっと強化する必要があると。さらに、農業灌漑に砒素汚染水を利用することでこの問題はさらに劇的な広がりを見せる可能性があると警告している。

人体への影響
被害者への影響はすぐには起きない。汚染地下水を飲み続けることによって砒素中毒は徐々に進行し、人体に目に見える影響を及ぼすのに何年もかかる。砒素中毒患者には、皮膚の色素斑や鮫肌、手足や関節の腫れ、腫瘍などがその砒素中毒の症状である。

初期の症状が目に見えるようになってくる頃までには、患者は癌に侵されている。「色素斑が現れると、すぐに私は痩せはじめました」――犠牲者の1人はこう語った。彼は一家の主だったがVOAのインタビューに答えた数週間後に亡くなった。「毎晩高熱にうなされ、吐血するようになりました。」

原因と解決策
汚染された水は深井戸から汲み上げられたものである。こうした深井戸は、1970年代に国際援助機関が病原性微生物に汚染された表流水に代わる安全な代替水源の供給を目的として掘ったものである。いわゆる「安全な代替水源」は、ガンジス川流域の砒素を含んだ地層によって汚染される結果を招いてしまった。

最近、チャクラボルティはほとんどの時間を村の訪問に充て、砒素汚染被害者の支援と飲料水の水質検査を行なっている。より安全な浅井戸も掘られていても、多くの村人が汚染された地下水を飲料用に当て続けている。

村人はまた、砒素に汚染された水を農業灌漑用に使用し続けているとチャクラボルティは指摘する。こうした水利用は、コメや家畜、調理用燃料としてよく使われている牛糞に砒素が蓄積されるというリスクを生み出している。

チャクラボルティは、政府関係者が遠隔村での啓発活動にもっと力を入れる必要があると指摘し、西ベンガル州の汚染地域を広くカバーする移動式ラボ(実験室)を設置するよう提言している。この移動式ラボは水質検査と啓発活動を行なう機能を持ち、最貧困層のインド人のニーズに応えるものだという。彼によると、より長期的な解決策はこの地域に豊富にある地表水のよりよい管理にあるという。

「雨水が利用できるところであれば雨水を利用し、ため池の水が利用できるところではため池の水を利用すればいい」――そう彼は言う。現代の浄水技術があれば安全な水の消費を保証してくれる。「西ベンガル、ビハール、ウッタル・プラデシュ、ジャルカンドの各州にまたがる砒素汚染地域の村はみな、水に囲まれています。」

問題の規模からして農村住民の草の根レベルでの参加なくしてどのような解決策も成功しないことを意味している――チャクラボルティはそう強調した。

*記事全文は下記URLからダウンロード可能です。
http://www.voanews.com/english/news/asia/Arsenic-Expert-Millions-of-Indians-at-Risk-130807418.html

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記事を読んでちょっと目新しさを感じたのは、チャクラボルティ教授が「移動式ラボ(mobile labo)」について言及し始めている点だった。僕が教授と直接お目にかかったのは今から2年前の2009年11月のことであるが、この時点では明示的に「移動式ラボ」のことは言ってなかったと記憶している。

実はこの「移動式ラボ」のプロトタイプは、日本のNGOであるアジア砒素ネットワーク(AAN)が、JICAの草の根技術協力事業のスキームを利用し、2000年代前半にバングラデシュで導入を試みている。チャクラボルティ教授はAANのダッカ駐在員のことを高く評価しており、僕が初めて教授を訪ねた時も、「砒素汚染対策として最も進んでいる優れた取組みを行なっているのはAANである。本当にこの問題への取組みのベストプラクティスを知りたければ、バングラデシュに行ってAANの活動を見て来い」とまで言われている。明言はしてなくても、「移動式ラボ」のアイデアはAANのバングラデシュでの取組みから得ているに違いないのだ。

残念ながら、インドでは砒素汚染問題を州政府あたりが真剣にとらえていない状況があるので、移動式ラボ構想もそうそう簡単には実現しないと思う。教授が外国のメディアの取材を受けたのは、国際社会からインド政府、州政府にプレッシャーをかけて欲しいという期待があったのだろうと推測する。

とはいえ、インドでも草の根レベルでこうした移動式ラボを特定地域でテスト的に導入する取組みはあり得ると思う。これに簡易浄水器を製造販売しているメーカーあたりからサポートが得られれば、水質検査と啓蒙活動に代替水源確保の解決法までセットにして、かなり効果的な活動が行なえるのではないかと思う。大学と環境NGO、そして企業が連携して移動式ラボを運営し、どこかの地域で成功事例を生み出すことができたら、砒素汚染地域を大きく変えるきっかけになるのではないか――VOAの記事を読みながら、そんなことを考えた。
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