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ガンジー主義者が見たアンナ・ハザレ [インド]

10月19日(水)、来日中のショバナ・ラダクリシュナ女史、ラヴィ・チョープラ氏ご夫妻と代々木で夕食を食べたという話は先週の週報の中でもご紹介した。ショバナ女史はマハトマ・ガンジーの思想を広めるため、2009年秋に引き続いて二度目の来日だった。

デリーに駐在していた頃の僕は、このご夫妻が共同代表のような形で活動されている青年の船インド同窓会(SWYAA-India)が主催する会議やジャナクプーリー地区のスラムで活動するNGOディシャ(DISHA)の事業地見学等を通じてお二人を見てきたので、それ以外でのお二人の活動については正直言ってあまり知らなかった。

ショバナ女史はお父様が有名なガンジー主義者であり、それもあってアーシュラムでの共同生活を経験もされている。ショバナ女史の売りはそこにあるのだが、なぜこのような一種の「布教活動」をわざわざ日本を選んでやっているのかは、今でもよくわからない。今回は実際に女史の講演も聴いてみたが、本当にマハトマ・ガンジーの思想の一般論だったので、あまり心にも響かず、「So what?」というところで終わってしまっていた印象だった。これをやることでどのような成果が期待できると見込んでインド文化協会(ICCR)は助成金を付けたのか、実際に2009年の講演ツアーの成果は何だったのか、残念ながらよくわからない。

ご本人たちは思想を広めるという良いことをやっているという思いがあるのだが、各講演の主催者側はそれなりに受入れ準備で苦労をしている。講演場所の選定は両氏がインドでの活動を通じて面識ができた日本人にメールで協力依頼をしまくるという方法が取られており、僕も「あなたの会社で講演会をやれるよう手配してくれないか」というメールを受け取り、対応に苦慮した。僕は今の職場での権限から言ってそれができる立場ではないので、然るべくルートを通じて依頼されたらどうかという返事でお茶を濁した。大学での講演ならそこにはガンジー研究者がいるだろうから受入側にもメリットがあると言えるのかもしれないが、右も左もわからないインドからのお客様を受け入れて、恥をかかせない程度に観客動員を確保するのにはどこもそれなりに苦労をされたに違いない。

そんなガンジー主義者の来日に際して、僕は折角だから聞いてみたいと思っていたことが1つあった。アンナ・ハザレ氏の汚職腐敗撲滅キャンペーンを同じガンジー主義者としてどう見ているのかという点だった。

これまで僕はアンナ・ハザレという人物についてブログで二度書いているが、その記事を読み返していただけるとわかると思うが、この人物に対してあまり良い印象は持っていない。ロク・パル(市民オンブズマン)法案審議を巡るここ半年ほどの事の経過を見ながら、「アンナ・ハザレってそもそも何者なのか?」、「なぜアンナ・ハザレなのか?」、「なぜアンナ・ハザレの支持者がこれほど拡大したのか?」、「ロク・パル法案検討委員会の市民社会側代表5名はどのような顔ぶれなのか?どのように選ばれたのか?」、「他のガンジー主義者はアンナ・ハザレ氏のことをどう見ているのか?」といった疑問が湧いてきていた。ショバナ女史の来日は、そうした質問をぶつけるのにはちょうど良い機会だった。

*過去にアンナ・ハザレ氏を取り上げたブログ記事は以下の通りです。
 http://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2011-07-23
 http://sanchai-documents.blog.so-net.ne.jp/2011-08-17

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1)アンナ・ハザレ氏はマハラシュトラ州アーメドナガル県で「ラレガン・シッディ(Lalegan Siddhi)」というコミュニティの開発で実績をあげた有名なガンジー主義者で、この実績によりインドのガンジー主義者の間では名がよく知られた人物だったらしい。しかし、ことがラレガン・シッディでのコミュニティ開発という実績に過ぎないために、中央政界や実業界ではあまり名が知られていなかった。

2)ロク・パル法案審議に向けたキャンペーンは、元々はデリー市内ラジパット・ナガル地区に拠点を置く別の活動家が構想していたものである。しかし、この人が90代と既に高齢でハンガー・ストライキを行なうにはリスクが高すぎるということで、74歳のハザレ氏にその活動の継承を要請し、氏もこれを受け入れた。ハンストにはショバナ女史も参加した。ガンジー主義者によるごく少数のハンストにとどまるのかと彼女自身は思っていたそうだが、実際にあれだけの大きな運動に発展したのは驚きだったという。

3)ロク・パル法案を検討する政府・市民社会合同委員会の市民側代表5名は、アンナ・ハザレ氏が選んだ。その人選には市民活動家としてのショバナ女史、チョープラ氏も納得感はあるそうだ。

4)ロク・パル法案審議入りを働きかけるハザレ氏とその支持者達(俗に「チーム・アンナ」と呼ばれる)の方法論に対しては、市民活動家の間でも反対論は見られる。その代表例はラジャスタン州で活動しているアルーナ・ロイ女史である。彼女は2005年情報公開法(Right To Information Act 2005)の制定とその運用に大きな役割を果たし、現在はソニア・ガンジー国民会議派総裁が委員長を務める国家諮問評議会(National Advisory Council)の委員を務めている。しかし、このソニア・ガンジーに近いというイメージがあだになり、最近の国民会議派中心の与党の迷走ぶりから支持を落としている。

5)チーム・アンナの現在の活動は、地方議会選挙でロク・パル法案審議に賛成の立場を取らない候補者に対してネガティブ・キャンペーンを展開するというもので、現在はハリヤナ州の各選挙区での活動が中心となっている。

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以上はショバナ女史に聞いてみてわかったことだが、その後の報道などを見ていると、チーム・アンナの主要メンバーが腐敗の嫌疑をかけられたり、仲間割れがあったりして、チームを離脱する人が出てきているようである。離脱した1人、スワミ・アグニヴェシ氏は、ハザレ氏の汚職腐敗撲滅キャンペーンに支持者から集められた活動資金の一部を、アルヴィンド・ケジュリワル氏が自身が代表を務める財団の口座に振り替えたと主張し、ケジュリワル陣営が現在反論に追われている。また、ハザレ氏のハンスト運動の有力な支持者の1人で元デリー市警トップを女性として初めて務めたキラン・ベディ女史も、某NGOの招聘で利用した国内線のフライトで、実際にはディスカウント料金でチケット購入したのに、ノーマル料金分の航空賃を受け取ったことが腐敗だとの批判を受けている。(これって、新幹線料金分を定額渡し切りで現金支給を受けて実際には夜行バスで移動したというケースとよく似ていて、一概に悪いとは言い切れないような気もするが…。)

その他、ショバナ女史と会話していて気付いた点を付け加えておこう。

第1に、不殺生について。僕が6月にインド渡航して南インドで養蚕農家の訪問調査を行なった件に話が及ぶと、「糸をとった後のさなぎはどうなるのか」と盛んに聞かれた。糸を繰る前に殺蛹処理されると説明したところ、露骨に嫌な顔をされてしまった。不殺生が良くないのはわかるが、F1ハイブリッドのカイコは生殖能力が弱くて子孫を作れないということもわかって欲しいなと思う。

第2に、ビジネスとガンジー主義について。ショバナ女史はインドでも主要なインド企業を訪問してガンジー主義を説いて回っているのだそうだ。去年秋頃から始めた取組みなので、何か成果が上がっているのかはまだよくわからない。忙しい企業経営者がなぜガンジーの思想に耳を傾けるのか、一見するとよくわからないので自分なりに調べてみたが、BOPビジネスとガンジー主義は親和性が高いことがわかった。BOPビジネスの提唱者である故C.K.プラハラード博士がハーバード・ビジネス・レビューに寄せた遺稿でも「ガンジー主義イノベーション(Gandhian Innovation)」という言葉が使われている。BOPビジネス普及面を狙ってショバナ女史は企業経営者にアプローチしているのかと思ったら、彼女はむしろ企業の社会的責任(CSR)を普及するために企業まわりをやているのだと答えておられた。

最後に、今回の日本講演ツアーの中で知り合った日本人の方からインスパイアされ、東北の被災地に行きたいと言われた。あなた達を受け入れるのにはそれなりに時間と金の投入が必要になるので、機会費用をちゃんと考えた方がいいのではないかと釘を刺したところ、岩手の国際交流協会は受け入れてもいいと既に言ってくれているのだから何が悪いのかと逆に聞かれてしまった。しかし、岩手までの国内移動の旅費が確保できないのでどこかスポンサーになってくれそうなところを知らないかと僕に質問されても、それだったら岩手のその受入団体がしかるべき助成金を申請すればいい話ではないかと反論せざるを得なかった。その助成金を申請するのに余計なエネルギーを使わなければいけないところに機会費用があると僕は言いたかったのだけれど。
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