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『人口激減』 [読書日記]

人口激減―移民は日本に必要である (新潮新書)

人口激減―移民は日本に必要である (新潮新書)

  • 作者: 毛受 敏浩
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2011/09
  • メディア: 単行本
出版社/著者からの内容紹介
日本の人口減少が止まらない----。このままでは、内需の縮小による経済的後退のみならず、活力そのものが失われ、日本は世界から取り残されていくばかりだ。本書では、人口減少化社会への劇薬として、移民受入れを議論する。彼らの労働力や「多文化パワー」を最大限に活かす方法、その経済的効果、本当の受入れリスクなどを検証。はたして移民は、"救世主"となるのか。国際交流のスペシャリストによる、新しい日本再生論。
著者は日本での国際交流推進の第一人者であり、討論会などでそのご意見を聞く機会もあったりもしたので、『人口激減』なる物々しいタイトルの本を出されたというのにはちょっと驚いた。サブタイトルが「移民は日本に必要である」となっているのも意外な気がした。著者について何の予備知識もない人なら、日本の人口減少を埋めるために外国人移民を積極的に受け入れようという趣旨の経済学か政治学系の本かなと誤解するかもしれないが、無論そんな主旨の本ではない。むしろ、日本が活力を維持していくには、異質な文化的背景を持つ外国人も地域社会で積極的に受け入れ、多文化共生によって地域を活性化していこうという主旨で書かれている。

だから、タイトルもサブタイトルもすごく誤解を招きやすいし、そちら方面の議論を期待して本書を手に取った読者からは、相当手厳しい批判もあったことと思う。著者は議論大いに結構、議論を喚起するためにあえて書いたと仰ってはいるが、本が売れるためにはここまでやるかという気がしないではない。

著者は言う、長年国際交流に携わってきた身としては、本書は単なる数合わせのための移民受入れではない、外国人のもたらす「異文化」を日本のパワーとして取り込み、それをもって再生を図ろうと提案したいのだと。

ただ、人口学的にいって人口減少を埋め合わせるための移民受入れを考えたら日本人自身がマイノリティ化すると言われている中で、「数合わせ」を考えて移民受入れを主張しているような論者自体が今の日本ではあまり多くないのではないだろうか。移民受入れを積極的に支持している論者の多くは、著者と同じく地域活性化の問題意識からそれを論じているように思う。

僕はその主張には基本的には賛成だ。外国人に気兼ねなく我が街に来て欲しいと思っているから、国際交流協会の活動のお手伝いもしている。気兼ねなく来てもらうためには、受け入れる側が適切な受入れ姿勢と受入れ環境を整備しておく必要があると考えている。もっと言ってしまえば僕は僕なりにうちの町の国際交流協会の活動にはプライドも持っている。僕が住むのは東京都三鷹市で、僕がお手伝いしているのは三鷹の国際交流協会(MISHOP)だが、著者はお隣りの武蔵野市国際交流協会(MIA)との関係が強いようで、本書でも随分とMIAの活動への言及がある。隣りのMISHOPも見に来て欲しい、僕が知る限り著者がMISHOPと関係を持たれているとは聞いたこともない。

「多文化パワー」の一例が、武蔵野市国際交流協会が行う外国人会員企画事業である。在住外国人からの「サポートされるだけではなく、得意分野を生かして何かの役に立ちたい」という声を受けて始まったこの事業では、書画や音楽、民族舞踊などといった分野で、市内に住む外国人が講師となり、市民向けの講座を開いている。
 このような外国人の「日本社会とつながりたい、地域に貢献したい」という意欲を、地域が受け止め、活用することができれば、社会を活性化する起爆剤になり得るだろう。外国人の発想や行動は、日本人の常識を飛び越えたものがあるかもしれない。それを「日本には馴染まない」と頭ごなしに否定するのではなく、彼らの発想を上手に活かすことができれば、前述のように地域が活性化していくきっかけにもなる。(p.158)

最初ここを読んだ時、武蔵野は進んでいるなと思ったのだが、よくよく考えたら三鷹でも同じような企画が行なわれている。ただ、三鷹の国際交流イベントを見渡してみても、市内在住の外国人が積極的に企画立案と実施に関わるところまでいっているかというと、そうは見えないというのが正直なところである。吉祥寺のような人が集まる街を抱える武蔵野の方が、アクティブな外国人居住者は多そうだという気はするし、MIAのHPを読むと、大学生を上手く活動にも取り込んでいるように思える。

そういった点では、我が三鷹ではその活動について見直すべきところがまだまだ多いように思う。本書の著者にも少しは振り向いていただける活動にしたいものだし、それ以前に、三鷹の活動にも指導助言をいただきたいと思う。

最後に、基本的に趣旨には賛成と述べた本書について、2点だけ批判的なコメントをつけ加えておきたい。

第1に、著者は「移民」という言葉が持っている「長期にわたる人の移動」というニュアンスに何らの修正や補足を加えていないが、仮にある程度の永住を想定して述べているとしたら、著者が視野に入れている2035年頃には、今既に日本に移り住んでいる外国人居住者自身も高齢者の仲間入りしている可能性が高いということをあまり考えられていないように思う。またその頃になると、アジアの多くの国々の少子高齢化も相当進んでおり、いかに日本の都市が魅力的になっていたとしても、そうそう簡単には流入してきてくれたりはしないだろう。

第2に、全国どこでも武蔵野と同じようなことをやれと言われてもできないということ。隣りの三鷹ですらできていないという話は別として、武蔵野がなぜできたのかというところにはそれを積極的に推進できるリーダーとそれをサポートできる有能な人材がいたからではないかという仮説を僕は持っている。同じことを今僕がこの記事を書いている岐阜県池田町の「みの池田国際親善を進める会」にやれと言われても多分できないだろう。

そう、僕は著者の主張の裏に潜む危うさとは、多文化共生への取り組みと外国人パワーを地域活性化に積極的に活かしていける自治体と、そうでない自治体との間に、今後大きな格差が生まれてくる可能性が高いという点にある。

今日(10月16日)の日本経済新聞社会面に、日経が毎年実施している「サステナブル(持続可能な)都市調査」の今年の結果が報じられていたが、それによると、調査対象の全国809都市のうち、回答のあった630市について偏差値ランキングを行なったところ、三鷹は第3位、武蔵野は第4位だったという。昨年のランキングではそれぞれ第2位、第1位と、両市はこのランキングでは常に上位に顔を出す常連の都市である。元々都市を対象としたランキングなのでそもそも地方の町村など対象外なのだが、そんなところで「外国人パワーを地域活性化に活かそう」と叫んでも、それを推進できるだけの行動力があり発想が豊かな若者がそこにはそもそも少ないだろう。
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コメント 1

毛受敏浩

拙著についてのコメントありがとうございました。外国人受け入れには反対論が多いのですが、先進国でそれを行なっていない国はありません。在住外国人の現在の比率1.6%、世界170位という状況でよいはずはないと思います。「開国という選択」は日本に残された最後の切り札だと信じています。
by 毛受敏浩 (2012-02-19 13:33) 

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