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『キス・キス』 [読書日記]

キス・キス (異色作家短編集)

キス・キス (異色作家短編集)

  • 作者: ロアルド・ダール
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2005/10/07
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
予期せぬ出来事が日常の扉を開き、あなたをさりげなく訪れる…。全篇に漂う黒いユーモア、微妙な残酷さ、構成の巧みさ、豊かな文章力を特徴とするダールの短篇集。「天国への登り道」ほか全11編を収録。
最近は我が娘が『チャーリーとチョコレート工場』や『マチルダはちいさな大天才』といった児童小説でお世話になることが多いロアルド・ダール。僕にとって最初で最後のダール作品は、1995年に読んだ『Someone Like You(あなたに似た人)』である。当時駐在していたネパール・カトマンズで、活字欠乏症の最中に現地の書店で英文ペーパーバックを購入して読んだ。以後ずっとご無沙汰だったが、娘がはっきりと「好きな作家」と明言するようになった今、児童小説ではないダールのブラック・ユーモアの効いた作品でも久し振りに読んでみるのもいいかと思い、図書館で借りてきた。

『Someone Like You』を読んだ時にも面白い短編を書く作家だなという印象は強く持っており、その後米国駐在した際にも『Someone Like You』と『Kiss Kiss』、『Switch Bitch』から選ばれた短編小説のオムニバス版のハードカバーを1冊購入して日本に持ち帰っている。いつの日か、うちの子供達が英文を多少読めるようになったら、これくらいの短編を試しに挑戦してくれたらという淡い期待を胸に抱いて…。

Roald Dahl Omnibus

Roald Dahl Omnibus

  • 作者: Roald Dahl
  • 出版社/メーカー: Hippocrene Books
  • 発売日: 1987/06
  • メディア: ハードカバー
今改めてダールの短編集を読んでみて感じるのは、情景描写を淡々と積み重ねつつ、グロテスクな結末に向けて読者に想像を膨らませる余地を相当与えている作風の秀逸さである。例えば、本書でも代表的な作品として評価が高い「女主人」や「天国への登り道」は、それぞれ猟奇殺人や夫に対する復讐劇を想像させるかなりグロい作品だが、実際の殺人シーンや復讐シーンは描かれておらず、単に場面場面の描写だけで状況証拠を積み重ね、読者が自分で結末を想像できるよう仕向けている。

以前お世話になった方に僕の原稿の良くない点として、結論を自分で書いてしまっており、読み手のイマジネーションを働かす余地を与えていないことを指摘されたことがある。何でも提供してしまったら、読者は面白くない。事実と情景描写だけで淡々と描いて、最後の部分は読者の想像に任せるべきだというのである。

本書を読みながら、結末は読者の想像に任せるとはどういうことか、本書を読んで改めてよく理解できた気がした。実は相当に陰惨な結末であるにも関わらず、直接的な描写を避けることで、その陰惨さのトーンを相当に抑えることに成功している。人が殺されるシーンや殺された現場の描写などが出てこないことによって、ライトな怪奇小説としてうまく仕上がっている。これなら中高生にも勧められると思う。

本書を読んだ後、ちょっと原書の方で英語での表現振りを確認してみた。割と簡単な表現、短めの文章にまとめており、日本人の原書初挑戦の題材としてはかなりの適材ではないかと改めて感じた。
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