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『世界を救う7人の日本人』 [読書日記]

世界を救う7人の日本人~国際貢献の教科書~

世界を救う7人の日本人~国際貢献の教科書~

  • 作者: 池上彰
  • 出版社/メーカー: 日経BP社
  • 発売日: 2010/10/14
  • メディア: 単行本
内容紹介
 本書では、日本でナンバーワンのニュース解説者であり、国際問題を誰よりもやさしく読み解いてくれるジャーナリスト池上彰さんが、現場で活躍する国際貢献のプロフェッショナルたちにインタビューし、自らもアフリカ・スーダンの紛争地帯やウガンダに足を運んで取材を行い、「国際貢献」の意義と意味、そして「国際貢献」という仕事の価値について解説いたします。
 日本も世界も長年の不況にあえいでいます。そんな中、遠く離れたアフリカや西南アジアの途上国を支援する余裕などあるのだろうか? ODAなど、ただの無駄遣いではないか? 「国際貢献」が国内で語られるとき、こうした否定的な意見が目立ちます。また、青年海外協力隊の活動にしても、「途上国で井戸を掘っている」以外の情報が、一般の目に触れることはありませんでした。
 でも、一方でいま世界で急成長している市場は、環境をキーワードとした途上国などのインフラ事業であり、あるいは年収3000ドル以下の貧困国が経済発展してできつつあるBOP市場です。こうしたインフラや新しい消費市場を形成するためには、それぞれの国の基礎インフラ、水、医療、食料、教育、平和、経済といった社会インフラ作りが欠かせません。本書では、国際貢献先進国ニッポンがいかにこうした分野で、プロフェッショナルたちが命をかけて地道に活動し、現地の人たちと社会発展につくしているのか、池上さんならではの的確な質問とわかりやすい筆致で紹介していきます。
 いま、世界と日本が注目する新しい市場の行く末を見る上でも、ビジネスパーソンこそ、国際貢献の現場を知る必要があるのです。 さらに国際貢献は、女性たちの活躍の場でもあります。本書では、日本を代表する国際貢献のプロフェッショナルである、緒方貞子さんと池上彰さんの対談も収録しました。元気のない日本に、明るい「喝」を入れてくれる、緒方さんの国際貢献論も必読です。 本書は、いままでなかった「国際貢献の教科書」です。国際貢献について知りたいひと、国際貢献の先にある途上国とのビジネスを知りたいひと、そして自ら国際貢献の現場に行きたいひとにとって、最高のテキストになるはずです。
池上彰の著書といったら、以前『知らないと恥をかく世界の大問題2』をブログで紹介した際に結構ひどいことを書いてしまった。「Easy come, easy go.(わかりやすいが忘れやすい)」などと述べ、読んでその時はわかった気になれるけれど、後になってみると何も残っていないなどと、辛辣なコメントを残している。

そういう先入観を抱いて本書を読むと、そういう印象が全くなかった。本書は一応池上彰著となっているが、実際には各章の執筆(いやおそらく池上氏がインタビューした内容をライターが文章に落としたものである)は「7人」の日本人が行なっている。主役が別にいて、各章末の2頁だけ池上氏が解説を付けているわけで、池上氏の著書にある軽さを伴ったわかりやすさは取りあえずは抑えめで、むしろ重厚感のある中味になっている。

「世界を救う7人」とのかなり誇張のある題名になっているが、実質的にはJICAの取組みを紹介する内容になっており、国際機関やNGOのスタッフとしてフィールドを走り回っているような日本人にはそもそもフォーカスされていない。はっきり書かれていないが、おそらくJICAがネームバリューのあるジャーナリスト池上氏にお願いしてスーダン・ウガンダに視察旅行をアレンジし、それに付随して国内で幾つかの追加取材を行なって、その結果をまとめたものなのだろう。

そういう辛辣な見方は可能ではあるが、内容としてはかなり面白かった。先ずはその構成。「水の問題」「復興支援の問題」「命の問題」「食糧の問題」「教育の問題」と紛争国での紛争後の国づくりの中で先ずは取りそろえなければいけないベーシックヒューマンニーズ(BHN)、武器を捨てて新たな仕事を始めるのに必要なスキルの開発といった基盤の整備から話が始まり、そして民間セクター開発や経済インフラ整備といった「経済の問題」を取り上げ、最後はJICAの緒方貞子理事長との対談という形で「国際協力の問題」としてまとめている。本書は「国際貢献のテキスト」と銘打たれているが、確かに各章とも示唆に富んでいて、元々国際協力に関わっているような人にはいいテキストだと言える。だが、僕達一般の民間人が国際貢献をしたいと考えた場合に、その気持ちを実現させる手段として何があるのかについてはほとんど書かれていない。そういう業界で就職することを考えなさいとしか述べられていないような印象だ。

だから、JICA関係者だけで固めた「7人の日本人」ではなく、もっと広く捉えてもっと多くの日本人を紹介して欲しいものだと思う。著者は序文で日本の国際協力の取組みについて、「徹底的に途上国の人たちと足並みを揃えてプロジェクトを進めていくところがユニーク」だと述べているが、途上国の人たちと足並みを揃えてプロジェクトを進めているのはJICAの専門家ばかりではないのだ。

一応、本書で書かれている各章のポイントを挙げておく。

1.「水」の問題
1)飲み水の確保は、子供の就学率を向上させ、女性の社会進出を促す。
2)環境問題=気候変動に伴い、水の問題はますます深刻化する。
3)日本の水の技術は世界トップ。今後もっと世界の市場で活躍すべき。

2.「復興支援」の問題
1)戦争より平和の方が何倍もすばらしいことを国民に実感してもらう。
2)職業訓練を施し、仕事を斡旋し、平和な状態で「食べられる」ようにする。
3)現地の人々が自ら社会を運営できる様、各種インフラを整備する。

3.「命」の問題―母子保健の問題
1)「読み書きそろばん」教育の普及が、母子保健問題改善の近道である。
2)「母子手帳」の利活用など、情報伝達の工夫が母子保健を改善する。
3)日本の医療改善のためにも、若手医療従事者を途上国に送ろう。

4.「食料」の問題
1)ネリカ米の普及は、アフリカに新しい主食と新しい商業作物を供給する。
2)世界銀行からアフリカ開発会議まで、世界がネリカ米に注目している。
3)アフリカでの稲作普及には、日本の農業技術の応用が欠かせない。

5.「教育」の問題
1)学校教育を浸透させるには、子供以上に親に教育の意義を理解してもらう。
2)学校教育の成果を、親と地域住民に共有してもらう。
3)援助する側の都合ではなく、地域のニーズを第一に学校教育を再構築する。

6.「経済」の問題
1)途上国は、世界にアピールできる「自国の魅力」を探り当てよう。
2)経済発展の核となる大企業や大プロジェクトを海外から呼び込む。
3)現場から経営レベルまで、経済の担い手となる人材育成を、積極的に行なう。

7.「国際協力」の問題
1)国際協力に必要なのは、自分の仕事の枠組みを超える創造性である。
2)時には他人の領空侵犯をするくらいじゃなければ、人の命は救えない。
3)国際協力の世界で活躍する日本人女性の再雇用先がないのは、日本の損失である。

余談だが、「教育」の問題を語っている原雅裕専門家は、今年別の著書を出している。原氏が池上氏とのインタビューの中で語っていることは、もっと具体的にその著書の中でも述べられているので、これをあわせて読んでみることをお薦めしたい。
西アフリカの教育を変えた日本発の技術協力 (地球選書)

西アフリカの教育を変えた日本発の技術協力 (地球選書)

  • 作者: 原 雅裕
  • 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
  • 発売日: 2011/04/08
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

本書の中でも敢えてお薦めの章を挙げるとしたら、「水」の問題と「命」の問題を扱った各章である。「水」の問題については、僕自身も知らなかった発見が幾つか散りばめられていた。池上氏のまとめの部分から引用しよう。
 学校教育の普及には上水道の整備が不可欠、という事実には驚かされました。水資源に乏しい途上国の場合、子供たちにとって、遠く離れた井戸での水汲み仕事の方が学校に行くことよりも優先事項だからです。
 水がイスラム圏の女性たちの行動を変えた、という話にもびっくりさせられました。かつてイスラムの女性は家の外に出てきませんでした。宗教上の理由かと勝手に解釈していたのですが、水不足で満足に洗濯ができず衣類が汚れているのが恥ずかしかったというのが真相だったのです。水道が整備されると、女性たちは清潔な衣類を身にまとい、嬉々として外を出歩くようになりました。(p.47)

「命」の問題では、むしろそういう母子保健分野の国際協力の世界に飛び込んでいける日本人の若手の医師、看護師、助産師がもっと増えてきて欲しいというのがメッセージになっている。そして、世界の保健問題が日本国内の保健問題とも不可分の関係にあるというも強調したいことだったのではないかと思う。

そしてそれらを通じて一貫して本書で述べられているのは、開発における地域の女性の役割と、国際協力事業の現場での女性スタッフの活躍とその後の進路、といったジェンダーの問題の指摘ではないかとも思う。今年のノーベル平和賞はアフリカや中東で活躍する女性リーダー3人が受賞することが決まったが、本書の最終章で池上氏が対談しているJICAの緒方理事長も早く選ばれないかなと期待されている日本人の1人だろう。

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