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『海峡の南』 [読書日記]

海峡の南

海峡の南

  • 作者: 伊藤 たかみ
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 2009/09/15
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
父は、何を得て、何を失い、なぜ消えたのだろう?北海道を捨て、ナイチを捨て、家族を捨てた、でたらめな男。それが僕の父だった―。北海道と内地。父と息子。遠くて近い、ゆらぐルーツと奇妙な繋がりの物語。
今も伊藤たかみ作品を時々読んでいるのだが、本気で読まないと何が書かれているのかよくわからず、登場人物がなぜそんな行動をとるのかが理解できないことが本当に多い。

本作品はそもそもが暗さや寂しさが漂う北海道オホーツク海沿岸の町・紋別が舞台となっており、危篤状態の祖父を訪ねて、紋別にやって来た孫が、失踪した父親(祖父の息子)との葛藤について回想しつつ、徐々にではあるがそんな父を理解し始めるという話であった。失踪した父親の生活面のだらしなさを嫌悪しつつも、息子本人も決してしっかりした人生を歩んでいるわけではない。誰かが、下流の世界を描かせたら伊藤たかみに並ぶ者はいないと評していたが、まさに本作品もその典型例で、北海道道東地方に住み続ける親戚一同はまともな人が多いのに、内地に渡った父を始め、内地で生まれ育って北海道の大地にさほどの愛着を持たない登場人物のほとんどが、どこかに陰があり、問題を抱えている印象だけが残った。

僕は今から20年近く前にハーフマラソンを走るために紋別にまで行ったことがある。紋別で1泊して大会前日は市街地の外、マラソンコースの10km地点ぐらいまでバスで出かけた。(そして帰りのバスが1時間に1本程度しかないことを知って愕然とし、たまたま通りがかったタクシーに乗せてもらって紋別市内に戻った。)市街地から外に出るとそこは道東の原野で、まさに本作品の主人公の叔父が住んでいるような農場がそこらじゅうにある感じだった。市街地もさほど広くはなく、暇つぶしはなかなか難しそうな町だ。僕が訪ねたのは8月初旬だったが、この物語の舞台は秋であり、寂しさはひとしおだろう。舞台となった街を訪れたことがあるというだけで、作品を見る眼はかなり違ったものにはなるだろう。

正直、盛り上がりにも欠ける終わり方ではあるが、それでも安堵感は感じさせるものだった。今さら父とは関わりたくもないとある種の嫌悪感を抱いていた主人公は、父親がどんな商売をやって金を稼いでいるのかすら知らず、父親を理解しようとすらしてこなかった。逆に父親も、自分がどんな商売をやっていようが子供を食わせている以上は子供の知る必要はない、子供のことは自分はなんでも知っており、子供にとって何がベストなのかは父親である自分が最もよく知っている、議論の余地などないという姿勢を見せていたらしい。そこにはまともな会話もなく、双方が歩み寄って理解に努めるようなところは全く感じられなかった。ところが、祖父の危篤を契機に、主人公は父がなぜそのような生き方をしようと試みたのかに思いをはせ、やがてでたらめな父を赦せる心境に変わっていった。実際にはニアミスのような形で再会は実現しなかったけれども、ふっきれた様子で父の故郷を後にするところには、かすかにこの先の明るい未来を見たような気もした。

大きな盛り上がりはないが、何度か読み直してみると、結構味がある作品なのではないかと思う。
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