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都市人口 vs. 農村人口 [インド]

僕が今でも時々閲覧しているOneWorld South Asia(OWSA)の9月26日付の記事で、草の根系ジャーナリストP.サイナートの論説「進歩か苦悩か(Progress or distress?)」が掲載されていた。元々は同日付の全国紙The Hinduへの寄稿「何十年にもわたる旅:借金と絶望が都市の成長を加速する(Decadal journeys: debt and despair spur urban growth)」であると思われる。記事の中身が多少異なるが、今回はOWSAの方の記事から要約してみたい。

*OWSAの記事URLはこちら!
 http://southasia.oneworld.net/opinioncomment/progress-or-distress

*The Hinduの記事URLはこちら!
 http://www.thehindu.com/todays-paper/tp-opinion/article2488718.ece

記事のポイントは、集計作業が進められている2011年人口センサスの中間発表で、1921年以来初めて、過去10年間のインドの都市人口の増加数が農村人口の増加数を上回るという、驚くべき結果がわかった(下図参照)ということで、なぜそうなったのかをサイナートが考察している。

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都市人口が増える要因として考えられるのは、①農村からの人口流入による社会増、②自然増、そして③「都市」カテゴリーに属する地域の面的増加、の3点である。これらは前回センサス以前にも起っていたことでもあるが、サイナートが特に注目したのは①の社会増で、彼は、農業とそれに関連する仕事だけで生計を維持していくことができなくなったために、地方在住者が農村生活を諦めて退去(exodus)し始めているのだと主張する。1日平均2,000人弱の人々が農業を捨てていることになるという。

但し、サイナートの指摘はそれにとどまらない。彼は、この統計数値だけでは地方出身者の移動をうまく把握することは難しいと主張する。「根なし草(footloose)」的な人口移動の実態が把握できていないというのである。

サイナートによれば、人口センサスはその調査対象を移動した後の調査時点での滞在地で捉えており、自分の故郷とその滞在地の間での一方向の移動しか把握ができていないという。しかし、絶望感に駆られた人々の移動というものには最終目的地なるものは存在せず、常にあっちへ行ったりこっちへ行ったりを繰り返しているものなのだという。例えば、オディシャ州の貧困層は、時としてライプール(チャッティスガル州)に数週間出稼ぎに行った後、アンドラ・プラデシュ州の煉瓦工場で数ヵ月働き、そして時にはマハラシュトラ州内の都市の建設現場に働きに出かける。彼らは食べるものにも困っており、仕事を受注した業者はたとえ短期間であっても、仕事がある場所に労働者を派遣するものなのだと指摘する。

以前僕がインド駐在していた頃、僕の知人があるオンライン・ニュースのコラムで、デリーでタクシーの運転手をやっているパンジャブ州出身のシーク教徒が、暫く顔を見ないなと思っていたら、故郷に残してきた農地で収穫があって農繁期には里帰りしていたのだそうで、「都市」と「農村」という単純な整理では語れない、両部門の間を常に行ったり来たりしている人がいるということを指摘されていた。この場合は、デリーでタクシーの運転手をやっていて一見すると貧しいように見える出稼ぎ労働者が実は田舎では土地持ちの富裕層だったという話なので、サイナートが例示しているケースとは明らかに異なるが、共通して言えるのは、「都市」と「農村」の間を行ったり来たりしている人々は、かなり頻繁に移動を繰り返すということだと思う。

こうしたサイナートの指摘は、1年間の大半を農村での取材に費やす彼の姿勢から見ても実態をかなり正確に表しているようには思える。但し、サイナートはオディシャやマハラシュトラの本当に貧しく、農業だけでは食っていけないという地域に主に入って取材を続けているジャーナリストであり、そこで見てきたものを都市人口の絶対数の増加を説明する理由として一般化できるのかどうかについては、わずかながらの疑問もある。オディシャ州南部の先住民が、ライプールやビシャカパトナムに短期の出稼ぎに行く話はかなり有名だし、ウッタル・プラデシュ州から南部のタミル・ナドゥ州やカルナタカ州に出稼ぎに行くという話も6月の南インド農村調査の際には確かに耳にした。しかし、南インドの農村で起きている若者の都市への流出は、農村の貧しさゆえではなく、教育機会や雇用機会を求めたものであり、いったん都市に出れば長く都市に留まるという傾向は強いのではないかと思う。(勿論、とはいっても頻繁に里帰りしている実態もあるようではあるが。)

地方での農業だけでは食っていけないからいろんな都市で働いてなんとか家計のたしにしているという話が、この記事にあるようなレベルまで一般化ができるのかどうか、僕にはよくわからない。
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