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『地球市民をめざして』他1冊 [読書日記]

地球市民をめざして

地球市民をめざして

  • 作者: 栗木 千恵子
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2001/03
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
シュバイツァーに憧れた山内、大学受験に失敗した吉岡、トップスイマーに飽き足らなかった不破、美味しいオレンジに釣られた桐田、ただただ外国に行きたかった野田…。動機は何であれ、世界は君たちを本当に必要としていた。「日の丸ボランティア」を老熟青の奮戦記。青年海外協力隊員は、世界で、今何をしているのか。
以前、吉岡逸夫著『当たって、砕けるな!』をブログでご紹介したことがある。青年海外協力隊(以下、JOCV)に参加した人々が、現地でどのような経験をし、任期終了後どのような人生を歩んできたのか、ジャーナリストが何人かにインタビューして結果をまとめたような本は、何年に1回かは必ず発刊されている。『当たって、砕けるな!』は2010年発刊だが、そのおよそ10年前に、栗木千恵子というジャーナリストが別のレポートを発刊している。なんと、近刊では著者であった吉岡氏が、『地球市民をめざして』ではJOCV経験者として登場し、エチオピアでの活動経験について語っている。

ただ、実は『地球市民をめざして』の方は、内容紹介で書かれているほどJOCVの活動紹介という感じではない。「地球市民」とあるが如く、JOCVに限らず、NGOスタッフや技術協力専門家、コンサルタント、シニア海外ボランティアといった形で海外で活躍している日本人を紹介しているのが特徴といえる。本書の後半は著者がラオスとマレーシアに飛び、現地で活躍している日本人を沢山紹介しているが、インタビューを受けた当時の立場は様々であるが、その多くがJOCV経験者であるというのも興味深かった。

著者はJOCV経験者のパワーについて、興味深い記述を残している。

OBがもう一度JICAの専門家や水産、車両整備などで海外へ出たときのものすごいパワーは、日本から初めて行った人とはまったく違うスケールで、遺憾なく発揮される。異文化に対する適応力、ことば、相手が何を求めているかを見抜いてそれを与える能力、こうした「技術」は、日本にいればせいぜい足し算としての力しかないが、海外では掛け算として発揮される。だから活躍の場があればOBは底知れない可能性を秘めている。(p.93)

こういうのはJOCVというプログラムに期待されている大きな成果だと思うが、実は彼らが初めて派遣された時にも、①派遣された本人に対するインパクト、②派遣されたボランティアを通じて相手国のカウンターパートにもたらされたインパクトという2点において、大きな効果が期待されている。

 協力隊は結局フィールドワークだ。活動すれば、さまざまな疑問にぶちあたる。頭のなかはクエスチョンでパンクしそうだった。そうすると自分の疑問に答えるためには今まで軽蔑していた知識が、勉強が必要になった。自分は20歳で勉強を始めた。協力隊がぼくの大学だった。
 隊員は現地で途方に暮れる。自分の価値観が通用しない。一所懸命尾やってても必ずぶつかる。するとどうしていいかわからなくなる。ぼくは何しに来たんだろう、何をしているんだろう、これが、いいんだ。これが次の思考の出発点になる。今までの価値観が壊れて、じゃあどうすればいいのかと、挫折してそこで初めて自分で考える。日本では個人の思考が許されない。考えているとたいてい怒られる。何ボーっとしてるんだ、早く決めなさいと急かされる。自分の進路も早く決めさせられる。余分なことを考えたり、迷うことは許されない。ところが協力隊は迷う時間を与えてくれる。任地では日本の常識が通じない。ゼロから思考しなければならない。だから思考力がものすごく養われるチャンスになる。(p.85)

 今回十何年振りかでラオスへ来て、同じ学校の教員が校長、教え子が学科長になっていた。革命で海外へ逃げた教え子が多かったが、もし残っていれば、国づくりに多い二貢献したのでは。協力隊の大きな財産は知られていないが、当時一緒に汗を流した人々が偉くなっていること。マレーシアのOBのカウンターパートが大臣になっていた。ラオス駐在のシンガポール大使もカウンターパートだった。若い頃日本の青年から学んで、日本に対して悪い感情を持っているはずがない。協力隊の財産は、みなが気がつかなかったところで、日本人全体の財産になっていると思う。(pp.206-207)

僕の知人である日本陸連のSさんから最近聞いた話であるが、世界陸上大邱大会開催期間中に行なわれた国際陸連の役員人事で、日本から立候補していた候補者は全員当選したらしい。Sさんご本人も国際審判員資格が更新されたという。柔道や水泳、果てはIOCの人事でも、日本は落選が続いているそうだが、陸上に関しては上々の結果が出たのだとか。その際、各国に派遣されてきた陸上競技のJOCVの活動実績が、各国委員の投票行動に大きな影響を与えたのだという。国際陸連に人を送り込んでいることにより、日本にとって不利な競技ルールの変更には歯止めもかけやすくなる。JOCVはそんな形ででも貢献しているのだ。

とはいえ、JOCVも国から予算が出ている事業である以上、それに参加する青年には現地で求められていることがある。

 協力隊はNGOと混同されやすく、非常に誤解されている面がある。協力隊はODAの一部で、予算も政府から出ている。赴任すると隊員は通常現地の役所に所属する。そして2年間という限られた)時間のなかで、技術を伝え、現地の人々と交流をはかり、帰国したあとには何か記録を残すという使命がある。-(pp.147-148)

帰国したあとにも記録を残すのが義務だというくだりは、僕にとっては新鮮だった。いや、派遣期間中にも何度か提出を求められる隊員活動報告書も、情報の宝庫なのだろうと思う。なんといってもJOCVは国の予算で行かせてもらえる2年間のフィールドワークの機会なのだから。

今月下旬、僕の知っているインド派遣のボランティアの何人かが2年間の任期を終えて日本に帰って来る。中にはブログでその活動や現地での生活についてこまめに情報発信してくれた隊員もいる。どんな活動だったのか、どんな生活だったのか、久し振りに会って話が聞けるのが今から楽しみである。

ケネディの遺産―平和部隊の真実

ケネディの遺産―平和部隊の真実

  • 作者: 栗木 千恵子
  • 出版社/メーカー: 中央公論社
  • 発売日: 1997/04
  • メディア: 単行本
内容(「MARC」データベースより)
ケネディ政権下において創設以来、130カ国の開発援助に参加した平和部隊。100名以上の平和部隊参加者にインタビューし、現地での活動と異文化適応の記録、それぞれが内面で何を得たかを明らかにする。
著者の栗木氏は1997年に米国平和部隊(American Peace Corp)経験者100人にインタビューするという本を書かれているが、こちらの方はメリハリもなくてただ100人分同じようなインタビューを取っているだけなので、正直読みにくくてあまり印象に残らなかった。ただ、平和部隊とJOCVって、僕が想像していたほどには大きな違いはないのだというのだけはよくわかった。
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