SSブログ

『8年(Eight Years)』 [読書日記]

8年 (集英社文庫)

8年 (集英社文庫)

  • 作者: 堂場 瞬一
  • 出版社/メーカー: 集英社
  • 発売日: 2004/01/20
  • メディア: 文庫
内容(「BOOK」データベースより)
オリンピックで華々しい活躍をし、当然プロ入りを期待されたが、ある理由から野球を捨ててしまった投手・藤原雄大。8年後、30歳を過ぎた彼は、突然、ニューヨークのメジャー球団に入団する。あの男ともう一度対戦したい!その悲願のためだけに…。一度は諦めた夢を実現するため、チャレンジする男の生き様を描くスポーツ小説の白眉。第13回小説すばる新人賞受賞作。
僕と同い年でスポーツ小説の第一人者でもある堂場瞬一の作品は、実は昨年末に読んだ『チーム』以来の2冊目に過ぎない。長編でも一気に読める面白さは確かに認めるが、登場人物が誰もが極端で、キャラが立っているのが気になって仕方がない。『チーム』は箱根駅伝の本選に出場できない大学から選抜したランナーによる学連選抜チームが箱根で優勝争いを繰り広げる話だったが、あり得ないとは言わないがかなりリアリティがなかった。

『8年』も、日本人がオーナーを務める新球団の日本人選手採用方針のお陰でチャンスを得て海を渡ってきた投手・藤原と、高卒でまだ18歳のスラッガー常盤が、傍若無人のオーナー西山の我がままぶりや、日本でのプレー経験があるが「ガイジン」呼ばわりされて日本人嫌いになった日系人監督・河合らの偏見などを乗り越えて、リーグ参入初年の序盤の連戦連敗からチームを立て直していくプロセスがとても面白い。ただ、藤原(多分、生涯アマを貫いた杉浦選手がモデルじゃないかと思うが)が99マイルの球速とコントロールを誇り、野茂以上と評されるという設定自体がちょっとリアリティに欠けるし、それ以上なのが常盤で、打席に入ればほとんどがホームランというほどの天才長距離打者が、高卒でいきなり海を渡り、初年途中からメジャー昇格して18本もアーチ量産するという方がもっとリアリティがない。

オーナーの西山は、ホリエモンか三木谷オーナーがモデルなのかなとも思ったが(或いは、ナベツネ?)、本書は発表が2000年頃なので2人ともあまり知名度がない時期だったから、多分違うだろう。いずれにしても、このオーナーのキャラもかなり極端だ。言い出したら聞かないし、現場にはやたらと介入する。思い込みが激しく、選手は自分のものだと本気で言う。本業を放ったらかしにしてニューヨークに居座る。ある意味ヤンキースの名物オーナー・故スタインブレナーのようでもある。ただ、スタインブレナーならシーズン途中でも血が上ったらGMや監督の解任を平気でやったと思うが、そこまでやらずに河合監督を続投させたところはある意味意外でもあった。

もう1人読んでいて違和感があったのは藤原の妻。8年にも及ぶ闘病生活を末に娘を亡くし、それをきっかけに藤原はメジャーでの目標、メッツのスラッガー・ヘルナンデスへの雪辱のために野球選手としての再起を賭けるが、妻の方はずっとネガティブ思考で、娘を亡くしたショックから立ち直れないでうじうじしている。そして、単身海を渡った藤原と、度々行き場のない電話での会話を繰り返す。確かに、この電話の後の藤原は毎回苦しい思いをしているが、それがマウンド上での藤原のパフォーマンスに影響を与えているわけではないので、いっそこの設定は失くしていてもよかったのではないかと思う。

勢いがあって面白さは感じる長編だが、そういうところには粗さは感じる。フィクションなのだからそれくらいの荒々しさはあった方がいいのかもしれないとは思うが、堂場作品を続けて読もうとすると少しばかり違和感は感じるだろう。スポーツファンには間違いなく面白いが、一般読者がどれくらい開拓できるのだろうか。タイトルの付け方も単刀直入で工夫もないし、もう少し一般読者にも食指が動くようなタイトルの付け方をした方がいいのではないだろうか。(それでも売れるのだからスポーツ小説には根強い読者層の需要があるのだろうね。)

ゴジラ松井のプロ1年目を思い起こしてみても、高卒ルーキーがメジャー昇格して初年度から圧倒的にホームランを量産しまくるという話はフィクションとしても出来過ぎだとやはり思うなぁ。おまけに常盤はキャッチャーだし…。

nice!(3)  コメント(1)  トラックバック(0) 
共通テーマ:

nice! 3

コメント 1

yukikaze

小説・・・。リアリティがある方がしっくりと来て嵌り込むのですが、あまりにリアリティがあると今度は心が躍るという躍動感が削がれ、そのバランスが絶妙な小説が名著と言われるのだと思います。個人的にはリアルなフィクション、あり得ないノンフィクションが好みですが。
by yukikaze (2011-09-17 01:19) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

Facebook コメント

トラックバック 0