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『PKPM』再訪 [読書日記]

『PKPM』
 PKPM―――「ペー・カー・ペー・エム」と発音する。インドネシア語で「住民・市民の自立のために仲間を増やしていく」というような意味らしい。インドネシアにおける日本のODAとしては近年かなり注目されているプロジェクトで、日本語タイトルは「市民社会の参加によるコミュニティ開発」という。
 なぜこのプロジェクトが注目されていたかというと、最初から札びらをちらつかせて支援対象村落にアプローチする従来の援助のやり方を踏襲せず、金額を提示せず、援助との交換条件のような住民の行動を求めず、そして問題解決に向けた答えを教えない、ただ住民の元々持っている潜在能力や在地の知恵を信じて、彼らが行動を起こすのを待ち続けるというアプローチを取ったからである。但し、何もやらずに見ているわけではなく、住民に様々な質問を投げかけて住民自らに考える機会を与え、そこから気付きを促し、意識変革や行動変革に導いていくのである。従ってプロジェクトが3年間の実施期間の中で行ったのは村落で住民に数々の質問を投げかけるマスター・ファシリテーターの育成で、大きなインフラ整備や農村小規模金融のための資金提供といった形での援助はあまり行われなかった。

PKPM ODAの新しい方法論はこれだ

PKPM ODAの新しい方法論はこれだ

  • 作者: 西田 基行
  • 出版社/メーカー: 文芸社
  • 発売日: 2008/04/01
  • メディア: 単行本
内容(「BOOK」データベースより)
トラスト&ウェイト。金額を提示しない、指示しない、そして教えない。活動を通じて日本のODA(政府開発援助)を振り返り、4人の巨匠たち、筆者、現地スタッフがたどり着いたのは「PKPM(ペーカーペーエム)」。JICA(国際協力機構)の援助で実施された、「市民社会の参加によるコミュニティー開発」だった。
思うところがあって、3年振りに『PKPM』を読んでみた。既にその時に下記の記事を書いて紹介しているので敢えてここで改めて繰り返すまでもないのだが、同じ本でも時間を置き、立場を変えて読んでみると、新しい発見もあるものだなと感じたところもあった。

今回僕が読むときに気をつけて見ていたのは、このプロジェクトの3年間という実施期間中、いつ頃何をやっていたのかを時系列で整理してみるということだった。このタイプの事業は、外から見ていると最初の1、2年は何をやっているのか、何が成果としてあがっているのか全くわからない。本当にこれでいいのかを悩み、焦り、そしてこちらから行動を起こしてしまう。そして、それが住民の側に、「ああ、これは彼ら(実施者側)のプロジェクトなんだから、自分達がやらなくても彼らがやってくれる」と思わせてしまう。それが持続可能性を妨げる。本書の紹介に「Trust and Wait(信じて、待つ)」とある。救いの手を差し伸べたいという気持ちをじっと堪えて、住民の中から行動が起きることを根気強く待ち続ける―――それが大事だと本書は訴える。

このプロジェクトはインドネシアで実施されたものだが、同様の「信じて、待つ」というアプローチをとり続けたプロジェクトがインドにもあった。本書を最初に読んでいた頃には気付かなかったのだが、そのインドのプロジェクトを終了まで見届けてみて改めてその3年間の事業経験を振り返ってみると、インドネシアの『PKPM』で行なわれていあことをわりと見事になぞっていて、3年間の期間のうちの、どの時点で何をやっていたのかというのもかなり似ているという印象を受けた。本書に登場する4人の「巨匠」のうち、3人はこのインドでのプロジェクトにも直接的間接的に関わっていたのだから、似ているのは当然だ。ただ、『PKPM』の場合はそれを西田基行という第三者の目から描かれている。著者自身が当事者だったわけで、その時現場で何が起きていたのかはかなり克明に描かれているので、現場での関係者と住民のやり取りなどかなり面白いものがある。

おそらく、3年間の年表を作って2つのプロジェクトの出来事を比較してみたら、その共通するポイントが非常によくわかってくるだろう。

一方で、インドでは同じ住民参加型開発を謳いながら、これとは全く異なる方法論で実施されたプロジェクトがもう2つある。しかもそのうちの1つは、小規模流域単位でのコミュニティ開発を目指しているという点では目的は煮ている。しかし、方法論が全く違うのだ。先ほどの話の繰り返しになるが、こうしたインドのプロジェクトでの出来事を3年間の年表上に落とし込んで、比較してみたら、同じような実施団体が同じような目的のプロジェクトを実施しようとしていても、その方法論の違いによって、3年間の過ごし方がこうも違うものなのかがかなりはっきりわかるのではないかと思う。僕はインドでのこの3つのプロジェクトの事業地を全て見て来ており、いつかはこの比較分析をやってみたいと思っていたのだが、そろそろその時期が来ているように思う。

『PKPM』は、さすがに著者がプロジェクト実施機関の当事者として現場での出来事を実際に見ておられたこともあり、非常に臨場感に溢れる面白い読み物になっていると思う。僕は同じようなプロジェクトの歴史を南インドの養蚕についてまとめた本を書こうとして原稿と格闘していたわけだが、残念ながらそのプロジェクトが実施されていた頃に僕は現場を見ておらず、当事者としても全く関わっていなかったことから、本書のような描き方が思っていてもできなかったというのが残念だ。

ただ、読み直してみて改めて思ったのは、著者自身も4人の巨匠から学ぶところが相当大きかったというのはよくわかるのだが、それまで焦りに焦っていた著者が、いつ頃からか突然4巨匠然として余裕綽々で待ち続けるようになってしまっているという姿は、いささか唐突感があった。本人が巨匠の技を目のあたりにして、驚き感動したのはわかるが、それを自分なりに消化して行動や意識の変革に繋げるには、それなりの努力や工夫も必要だったのではないかと思う。そのブレークスルーのプロセスを本書は端折っているので、著者がいきなり達観して物事をゆったり見られるようになったという印象を受けてしまう。学習プロセスの中で、本当はそこがいちばん知りたいところで、何をどうやったらそうした姿勢が身につくのか、本当は知りたくて仕方がない。
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