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27年前の日本人の足跡2 [出張先にて]

6月29日(水)、カルナタカ州バンガロールの東隣にあるコラール県を訪ねて養蚕農家の訪問調査を行った際、大迫輝通先生が岐阜経済大学に在籍されていた1984年8月に世帯調査をされた村にも立ち寄った。同県コラール市の南隣に位置するチャトラゴディハリという村である。大迫先生はこの訪問調査とチャムラジナガル県コレガル市郊外のクントゥール村での世帯調査を総合し、1985年4月に「熱帯蚕糸業地域の研究(2)-インドの蚕糸業と蚕糸業地域-」という論文を発表されている(『岐阜経済大学論集』第19巻第2号、pp.50-90)。僕は1980年代の南インドの養蚕の様子を事前に勉強しておくために、大迫先生の論文を参考にさせてもらっており、こちらに来る前にも大迫先生を訪ねて当時のお話を伺ってきた。

その際に、大迫先生からお預かりした写真の中には、クントゥール村の養蚕農家の家族写真の他に、チャトラゴディハリ村の養蚕農家が桑園をバックに1人写った写真も含まれていた。ラマッパさんというその方の名前と、チャトラゴディハリ村という名前を頼りに、僕はカルナタカ州養蚕局(DOS)コラール事務所を訪ねた際、この村に行って今どんな様子なのかを見ておきたいと要望した。

ラマッパさんの消息は、DOS事務所の職員の方々とチャトラゴディハリ村の人々のお陰で意外と簡単にわかった。2008年に85歳でお亡くなりになっており、ラマッパさんの9人の子供たちのうち、兄弟4人はチャトラゴディハリ村やコラール市に残って様々な活動をされているという。

ラマッパさんの農園を直接引き継いでいるのは四男のスリニヴァサ・ゴウダさん(44歳)だった。チャトラゴディハリ村の集落から少し奥に入った農園地帯に居を構えたスリニヴァサさんは、残念ながら今は養蚕をやっていないという。養蚕をやめてしまったのも、1989年とかなり前のことらしい。

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《スリニヴァサさん》

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《スリニヴァサさん自宅前にあったラマッパさんのお墓。南インドではお墓を結構見かけた》

スリニヴァサさんは、桑園をジャガイモ畑に転換した後、トマト栽培に移行した。養蚕をやめた最大の理由は労働力不足だったという。「今南インドでよくみられる棚飼い・条桑育といった新しい飼育方法を当時知っていたら、養蚕をやめることはなかったんですけどね」と彼は苦笑いする。

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《現在のスリニヴァサさんの家》

現在の商品作物の主力はトマトで、14エーカーで作付されている。単純計算だが、トマトだけで年間420万ルピーを稼いでいる。僕の年収をはるかに超える売上げだ。その他にも、ブドウ、マリーゴールド、バラ、スイカ、キュウリなどが栽培されている。マンゴー果樹園も含めるとその農地面積は60エーカーにもなる。そこで、60~70人の労働者を雇っている。ブドウ園は昨年、500万ルピーを投じて整備した。マンゴーもブドウもご馳走になったが、美味しかった。まさかブドウが食べられるとは思ってもみなかった。

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《スイカ畑。よく見ると、Drip Irrigationの設備とビニルシートで水分の有効活用を図っている》

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《トマト畑》

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《ブドウ畑、昨年500万ルピーかけて整備したとか。ここもDrip Irrigation利用》

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《マンゴー果樹園》

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《広大なバラ栽培のグリーンハウス。言うまでもなくここもDrip Irrigation施設完備》

この大農場以外に、スリニヴァサさんは他所にも土地を持っていて、その合計所有面積は110エーカーにも達するという。生活スタイルはかなり質素だが、農場経営には相当な投資を行っている。

彼の兄弟のうち、長男は地元選出の政治家、二男はコラール市のトマト集荷販売業者、三男はトラクターなど農機販売業者、五男は養鶏場を営んでいる。父親から代替わりした後も、兄弟はそれぞれ努力して経営規模を拡大していったという。

スリニヴァサさんに限らないが、コラール県ではかつての養蚕農家が養蚕をやめてトマトや花卉のような商品作物に転向するというケースを結構頻繁に見かける。最大の原因は労働力不足。この問題への解決法が見いだせたら、養蚕に戻ってきたいと思っている農家の人も多い。年1回しか作れないトマトよりも、うまくやれば毎月収入が入ってくる養蚕の方が儲けにはなるのだ。

聞き取り対象農家がとっくの昔に養蚕をやめていたというのはちょっと寂しいが、大迫先生にまた良い土産話ができたと思う。

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ハンディクラフト

取材お疲れ様 事前の取材も実を結んでいるようですね
by ハンディクラフト (2011-07-03 17:47) 

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